世界中で大ヒットした前作『ブラックパンサー』から4年。前作から引き続き、ライアン・クーグラー監督・脚本のもと、『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』が公開された。
前作は主要キャストを黒人俳優が務めたことでも話題となり、全米歴代5位となる興行収入7億ドル、世界累計約13億ドルという歴史的なヒットを記録した。アカデミー賞でも3部門を受賞し、高い評価を得た。
今回の物語は、国王であるブラックパンサー、ティ・チャラが亡くなるシーンから始まる。実際に、前作で主人公を演じた俳優のチャドウィック・ボーズマンさんは2020年8月、大腸がんのため亡くなった。43歳だった。
ワカンダ王国が王の死に揺れる中、王国にしか存在しないはずの鉱石「ヴィブラニウム」が、他の場所からも発見される。「ヴィブラニウム」を持つのは海底にあるタロカン帝国。指導者ネイモア(テノッチ・ウエルタ)はシュリ王女(レティーシャ・ライト)に近づき、「共闘か対立か」の選択を持ちかける――。
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本作が胸に迫るのは、「残された者たち」を真正面から描き切ったからである。
ボーズマンさんの死を受けて、代役を立てることもできたかもしれない。しかし、本作はそのような安易な方法は取らなかった。「ブラックパンサーの死」から物語を始めたのだ。映画冒頭、兄の死に戸惑うシュリ王女と、息子の死を見つめる母親ラモンダ(アンジェラ・バセット)のやり取りが切ない。シュリ王女の慟哭はそのまま、ボーズマンさんを失った悲しみと繋がっている。
2時間41分を通して、「王の死」が通奏低音として鳴り響く。映画全体がボーズマンさんへの追悼となっている。ただ、喪失感の大きさに戸惑いつつも、本作は「残された者たち」の奮闘を力強く描いている。
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また、シュリ王女がタロカン帝国を訪れるシーンが楽しい。海底の帝国。泳いで住む人々の豊かな生活は見ていてワクワクさせられる。「他の文化を知る楽しさ」をうまく描いたシーンだ。
最後には「対立する相手への敬意」が問題となる。前作とも共通するテーマだが、ロシアによるウクライナ侵攻を目の当たりにする現在、より切実なテーマとなっている。悲しみを胸に前に進もうとするワカンダの人々は、ウクライナの人びととも重なる。本作の回答は、ロシアの軍事侵攻への痛烈なメッセージにもなっていると感じた。
女性が演じるキャラクターの力強さも本作の特徴だ。シュリ王女、ラモンダ、女性戦士オコエ(ダナイ・グリラ)の活躍が目覚ましい。161分のほとんどが、彼女たちの奮闘にささげられている。前作は黒人俳優たちの活躍が目覚ましかったが、今回は女性俳優たちの活躍が目だった。新しい時代の感覚を見事に取り入れている。
161分は見ていて飽きさせない。細部へのこだわりもすさまじい。「アフロフューチャリズム」と賞賛された前作と比べても、ビジュアルの迫力はパワーアップしている。スクリーンの隅々まで見渡せる映画館で、ぜひ本作をご覧いただきたい。
『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』
監督/ライアン・クーグラー
出演/レティ―シャ・ライト、ルピタ・ニョンゴほか 2022年 アメリカ映画
161分 11月11日より全国にて公開中。
https://marvel.disney.co.jp/movie/blackpanther-wf