「僕には7歳上の兄、9歳上の従兄、10歳上の従姉がいるんですが、洋楽が好きな兄と大貫妙子さんやEPOさんを聴いていた従兄の影響で、音楽に興味をもったんです。従姉は初めて演劇に連れていってくれました。いまの僕は3人が与えてくれたものをしがんで仕事している気がします(笑)」
表現者としての出発点をこう振り返る藤井隆。芸人や俳優として活躍する彼は、大ヒットを博した「ナンダカンダ」でデビューしてから22年、ポップシンガーとしても独自のアイデンティティを確立してきた。アルバム制作においてはコンセプチュアルで一貫性あるアプローチを高く評価されているが、最新作『Music Restaurant Royal Host』も例外ではない。
「僕はいつも、まずトータルな方向性を描きます。目の前に映像がスライドしてくるような感覚を得られたら、それらをかき集めてアルバムにしてきました。今回は、『ほかの人の目に自分はどう映っているのか?』という興味から始まりました。それでいろいろな方々に曲作りをお願いしたら、“夜中にリビングで家族と一緒に踊ろう!”といったような、“明るい藤井隆”のイメージを膨らませた曲が集まってきたんです」
本作に参加したアーティストの顔ぶれは、堀込泰行や砂原良徳、パソコン音楽クラブ、韓国人DJのNight Tempoに至るまで、実に多彩だ。シティポップありディスコありハウスあり、各人がさまざまなスタイルのダンサブルな楽曲によって、藤井隆像を描写。藤井自身も提示されたキャラを生き生きと歌で演じる。
気になるのはやはり、タイトルにその名を冠したファミリーレストランとの関係だ。「いろいろな楽曲が揃って、サラダもパンケーキもあればコスモドリアもある、ロイヤルホストのメニューのようなアルバムだなと思い、タイトルにしたくなったんです。もともと、ロイヤルホストがもつユーモアある展開やクラシックな要素にも憧れがありました」
名称やビジュアルの許諾を得るため、自らコンタクトをとった。
「大阪でのサラリーマン時代に独りで食べたランチを覚えています――と手紙に書いたら、現在の社長が当時その店で店長を務めていたことがわかって“ご縁がありますね”と快諾してくれたんです」
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ファミリーレストランと音楽の美味なる関係
ラストを飾る「Chocolate」にも、彼はロイヤルホストにまつわる記憶を重ねた。
「その昔24時間営業をしていた頃、ついついお喋りをしていて、外を見たらもう明るくて、しまった、帰らなきゃ! みたいなことがよくあったんですよね。この曲はまさに、“……そんな夜だった”とアルバムを締め括っているように思うんです」
ちなみに、この曲の作詞を手がけたYOUとは20年以上の交流があるという。多くの人と出会いを重ね人間関係を育むことが、藤井にとって音楽活動を続けるモチベーションにもなっているようだ。「最初は、お誘いを受けたものの疑問を抱きながら音楽活動を始めました。でも大勢の方が優しくして下さって、テレビの仕事を終えてから、深夜に音楽の仕事へ行くのが楽しくなりました。そこからいい思い出がずっとつながっている。音楽はタレント業の中の一部ではありますが、僕の中で実はすごく大きな場所を占めているのかもしれません」
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WORKS
5th album『Music Restaurant Royal Host』
制作に1年を費やした5年ぶり5枚目のアルバム。世代も音楽性も異なる10組以上のアーティストが参加し、ほのかにノスタルジックで洒脱なダンスポップ集を完成させた。1984年発表の名曲「アイリーン」のカバーも含む。
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『SLENDERIE RECORD LIVE EYE CANDY』@サンリオピューロランド
11月26日、藤井自身はもちろん椿鬼奴やレイザーラモンRGほか、彼が主宰するレーベルの所属アーティストを集めたライブイベントが開催される。サンリオピューロランドを会場にサンリオのキャラクターたちも出演予定。
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ミュージカル『おとこたち』
藤井が演技と歌両方の実力を発揮する舞台作品。2014年に初演された岩井秀人による演劇をミュージカル化。共演はユースケ・サンタマリアほか。来年3月12日から東京・PARCO劇場で開催。4月には大阪、福岡で開催予定。
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※この記事はPen 2022年12月号より再編集した記事です。