レンブラントの「稚拙な贋作」、描いたのは“本人”だった...科学調査で判明

  • 文:青葉やまと
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※画像はイメージです futurewalk-istock

17世紀を代表する画家のひとりであり、ドラマチックな効果をもたらす「レンブラント光線」の使い手としても知られるレンブラント。オランダが誇る偉大なアーティストが手がけた作品が、新たに発見されたようだ。

といっても、絵画の存在自体は以前から知られてきた。彼の弟子による作品とみなされ、長い間その価値が正当に評価されてこなかったのだ。欧州ニュース専門局のユーロ・ニュースは、「オランダのブレディウス美術館の片隅に、およそ1世紀も眠っていた」と報じている。

問題の作品は17世紀の油彩、『キリスト昇架』だ。これまでのところ美術研究者たちは、レンブラントの作風を真似た弟子による「稚拙な贋作」と判定し、レンブラント本人による作ではないと位置付けてきた。

ところが最新の科学調査を施したところ、レンブラントと一致する筆致が確認されたという。

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通常のレンブラント作に見られない、荒々しいタッチ

キリスト昇架は1640年代の作品であり、ブレディウス美術館の初代館長が1921年に購入している。しかし専門家のあいだでは 、贋作との見方が広がっていた。

米アート・ネットによるとレンブラントは1633年、同じ構図の絵画を制作している。本作はこの既存作と似た内容ながら、その筆致は通常のレンブラント作ほど洗練されていない。

十字架に掲げられるキリストを照らす光線こそレンブラントらしさを漂わせるが、画面全般にわたりディテールを欠いており、一見して細部まで入念に仕上げられた作品とは言い難い。

このためレンブラントほどの熟練画家による作とは考えられず、弟子のひとりによる模倣作品であるの判定を受けていた。

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通常の作風と異なった理由は……

絵の再評価を実施したのは、オランダ美術史家のヨーレン・ギルタイ氏だ。刊行予定の自著に関連した研究として絵の分析を手がけた。

X線と赤外線調査を施したところ、幾度も試しながら塗り重ねられた層の下から、レンブラントと一致する筆致が見つかったという。他の作品の下書きとして制作されたこと、および油彩画であることから、通常のレンブラント作に見られる繊細なタッチとは異なり、あえて荒々しいトーンの作品に留めていたようだ。

ギルタイ氏は調査前から、レンブラント本人の手がけた作品であるとの確信があったという。ロイターに対し、「レンブラント作だと最初から信じていました」と語る。本人と弟子との差異を区別するのは困難なことが多いが、調査の結果、「このスケッチは壮麗に仕上げられていますので、レンブラントが描いたとみられます」との結論に至ったという。

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『夜警』所蔵の国立美術館のお墨付き

だが、これだけではギルタイ氏個人の見解に留まり、確証を得たということはできない。そこで本作を所蔵するブレディウス美術館は、氏の勧めに従い、レンブラントの代表作『夜警』を収蔵するオランダのアムステルダム国立美術館にコンタクトを取った。

同美術館に再調査を依頼したところ、同様にレンブラント本人の作であるとの結論が得られたようだ。鑑定を担当したアムステルダム国立美術館のヨハネ・ファーハブ氏は、「(絵画に赤外線を照射して下層の像を得る)赤外線反射法を適用しました。下絵や加筆があればこれで見つかります」と説明している。

「結果、絵画にはいくつかの加筆が認められました。すなわち、(これを描いた)画家が制作途中、考えを変えたことを意味します。既存作をコピーしていたわけではなかったということです」

「これは重要なポイントです。この作品を見ただけではレンブラントのコピーだと考える人がいるかもしれませんが、そうではなく、これは真の芸術作品なのです」

美術館の片隅に眠っていた絵画は、紛れもなく380年前に巨匠が遺した貴重な作品だったようだ。

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【画像】レンブラントの「稚拙な贋作」、描いたのは本人だった...科学調査で判明

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