「大人の名品図鑑」英国王室編 #6
世界約200カ国のなかで「王室」がある国は30に満たないが、「王室」と聞いて多くの人が思い浮かべるのは英国王室ではないだろうか。イギリス国民から圧倒的な支持を受け、その動向はすぐにニュースとなる。いまや英国王室御用達=ロイヤルワラントは完全にブランドのようになっている。今回は、そんな英国王室から愛された名品を取り上げる。
イギリス生まれの「名品」を探っていくと、必ず遭遇するのが「王室御用達=ロイヤルワラント」という称号だ。これはイギリス固有のものではなく、オーストリア、デンマーク、ベルギー、オランダなどの王室も称号を授けているが、なかでも知名度が高いのがイギリスではないか。
『英国王室御用達 知られざるロイヤルワラントの世界』(長谷川喜美著 平凡社新書)によれば、「英国ロイヤルワラント」とは、英国王室による認定証明書を指す言葉だという。「英国メンバーより無償で提供されるが、その売買は固く禁じられている」とも書かれている。諸説あるが、イギリスでロイヤルワラントをもつ企業(個人も含まれる)は約600もあるという。
さらに同書には「ロイヤルワラントを授与されるのは純粋に商業、あるいはそれに関わるサービスに限定され、銀行などの金融機関、政府機関やメディア、エンターテイメントや休息のための商業施設は認定されることはない」とも書かれている。つまりホテルやレストランなどが認定されることはない。
認定を受けるためにまず申請が必要だが、申請のためには条件があって、いずれかの王室に一定量の商品を最低5年間、納入することが求められる。認定のためには商品のクオリティから企業、または個人の信頼性や適正な価格設定などが重要視されると聞く。「ロイヤルワラント」に認定されると、店先に「ロイヤルアームス(紋章)」を掲げることができるが、そのワラントは5年ごとに精査・更新されるため、一度認定されても5年後には脱落することもある。毎年20〜40くらいの企業等が認定取り消しになるというから、少ない数ではないだろう。
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約600のブランドがお墨付きを失う危機に
「英国王室御用達」の歴史はヘンリー2世の時代に始まる。お気に入りの狩猟用アイテムを提供していたウィヴァーズ・カンパニーに与えられたものが始まりという説が有力だ。「ロイヤルワラント」という呼び名になったのはジョージ4世の時代からで、ヴィクトリア女王が統治した時代には、64年間でなんと二千を超えるワラントが認定されたという。この時代に認定され、現在も残っているのはフォートナム&メイソン(食料品等)、トワイニング(紅茶)、シュウェップス(飲料)の3つだけだ。
最近まで「ロイヤルワラント」を認定できたのはエリザベス女王、エディンバラ公、そして現在の国王チャールズ3世の3人。だから今年9月、エリザベス女王が亡くなると、女王、あるいは昨年亡くなったエディンバラ公が認定したワラントが行く末を案じた人も多いだろう。
すると、女王崩御の後、AFP電で「エリザベス英女王の死去にともない、約600のブランドが『英国王室御用達』のお墨付きを失う危機に直面している。各ブランドは現在、後継の君主チャールズ国王の認定を待っている。認定を得られなければ、2年以内に王室御用達を示す紋章の使用を中止しなければならない」との報道があった。つまり2年間は継続して使用が許されるが、新たに認定されなければ紋章が入ったパッケージ、服の場合は織りネームのデザインなどの変更を余儀なくされる。実は国王チャールズ3世から認可を受けることは難しいと解説する本もある。彼は環境問題に関心が高く、環境に優しい商品であることも条件に含まれることもあるからだ。この2年間の間に、「英国王室御用達」のワラントホルダーは、大きく変わるかもしれない。
「英国王室御用達」を受けている業種は多岐に渡る。ファッションの分野ではバーバリー、ダックス、ターンブル&アッサー、バブアー、ハンター、トリッカーズ、ジョン ロブ、エッティンガー、ジョンストンズ、デンツ、ジェームズ ロックなどが有名だ。女王の戴冠式に使われる衣装や軍服などを仕立てるギーヴス&ホークスなどのサヴィルロウの老舗テーラーもワラントを得ているし、石鹸やキャンドル、クリームなどの生活雑貨などもある。ハインツのケチャップやケロッグのシリアルのように多くの人が「英国王室御用達」を意識することなく日常的に使っている食料品まである。
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生活に不可欠なロイヤルワラント
同書によれば「スーパーマーケットやニュースエージェント、引っ越し業者までロイヤルワラント認定の対象になっている」とある。イギリスの企業がほとんどだが、フランスやポルトガル、スペインなどからも選ばれている。これはイギリス国内で生産、または供給が難しいということから選ばれていると同書は解説する。ロイヤルワラントホルダー協会のHPを見ると、フランスからは『Pen』でもお馴染みのカルティエがチャールズ国王から認定を受けている。
前述の『英国王室御用達 知られざるロイヤルワラント』では「現代のイギリス人の生活から英国王室御用達の商品を除いたらどうなるか——恐らく生活することがほとんど不可能になるではないだろうか」と書かれている。確かにそうだ。ロンドンだけでなく、イギリスを旅すれば誰でもこの紋章を見つけることができる。かつてウィンザー公は「英国第一のセールスマン」と評され、彼が愛用した英国生まれのファッションアイテムが広く世界で人気を集め、イギリス経済の振興につながった。いまや「英国王室御用達」はそれ以上の価値をもっている。完全にブランド化、あるいは権威と化している。
チャールズ国王だけでなく、次世代の王室を担うウィリアム王太子も「プリンス・オブ・ウェールズ」として新たに認証を与えることになるだろう。あるいはカミラ王妃もその任を任されるかもしれない。当分、「英国王室御用達」から目を離すことができない。
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英国王室御用達の名品たち
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問い合わせ先/ヴァルカナイズ・ロンドン TEL:03-5464-5255
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