漫画家・ヤマザキマリの創作の源とは? 学生とともに作り上げた展覧会が開催中

  • 文・写真:はろるど
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『ヤマザキマリの世界』第1会場(東京造形大学附属美術館)展示風景。上のバナーは上は学生制作による『ヤマザキマリワールドの学堂』。ラファエッロ・サンツィオの『アテネの学堂』をモデルに、ヤマザキマリの漫画のキャラクターを描いている。

漫画家、文筆家、そして画家として活躍し、TV番組といったメディアでも人気のヤマザキマリ(1967年、東京生まれ)。14歳にして初めてヨーロッパを旅すると、1984年にはイタリアへ渡り、フィレンツェの国立アカデミア美術学院で美術史・油絵を専攻。 その後もエジプトやシリア、ポルトガルやアメリカなどで暮らすと、海外生活を通した独自の視点で書いた多くのエッセイを執筆している。今年9月には最新刊『歩きながら考える』(中公新書ラクレ)を刊行。コロナ禍の中、行動の制限された自らの暮らしを綴るとともに、先行きの不透明な世界で生きていくためのヒントを示している。

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『テルマエ・ロマエ』  2008〜2013年 ©︎ヤマザキマリ/KADOKAWA ヨーロッパへ渡ったヤマザキマリは北方ルネサンス様式の肖像画を描こうとするも、なかなか芽が出ずに苦しい生活を10年以上も送っていた。しかし28歳の時から取り組んだ漫画が売れはじめると、『テルマエ・ロマエ』などのヒット作を次々と世に送った。

東京造形大学附属美術館で開催中の『ヤマザキマリの世界』では、ヤマザキマリの人生の歩みと、膨大な創作のインスピレーションの源泉をたどることができる。まず目立つのは『テルマエ・ロマエ』 をはじめ、『プリニウス』や『オリンピア・キュクロス』 といった漫画作品の原画だ。古代ローマと現代日本の入浴文化がクロスオーバーした『テルマエ・ロマエ』は、異色のSFファンタジーとして大ヒットを記録。同人誌用に描いた古代ローマを舞台とした漫画と、留学先でお風呂に浸かれなかった経験などをもとに制作されたというが、そこにはイタリア文化の緻密な考証と確かなデッサン力、そして大胆奇抜なアイデアが反映されていることが分かる。

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左から『山下達郎の肖像』と『立川志の輔の肖像』。ともに2022年。ヤマザキマリが22年ぶりに描いた油彩肖像画。「女の人を描くのが難しく、漫画と同様に年季の入った男性を描くのが好き。」と語っている。

山下達郎の新譜『Softly』ジャケット用に描かれた最新の肖像画も見どころの1つだ。友人の山下に進められて描いた作品は、ヤマザキマリにとって実に22年ぶりに挑戦した油絵。まだ絵具が完全に乾き切っていないという、描いたばかりの立川志の輔の肖像などとともに並んでいる。このほか、幼少期のお絵描きから9歳の時の香港での絵日記、また15歳に描いた「女性の肖像」といったデッサンやシュルレアリスム風のドローイングなども展示され、画家としてのヤマザキマリの原点を見ることもできる。19歳の時に制作したインク画『ジャン・コクトーによせて』のミステリアスな雰囲気も魅力に溢れている。

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学生制作によるモザイクアート『ヤマザキマリの肖像』。撮影:©︎Derusu Yamazaki

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『ヤマザキマリの世界』第2会場(ZOKEIギャラリー 12号館1階)展示風景。ヤマザキマリの著作とともに、その言葉などが紹介されている。展示の監修を同大教授の池上英洋と粟野由美が務めた。※第2会場ZOKEIギャラリーの会期は11月18日まで。

このほかにも単著本や共著本といった著作活動についても紹介しているが、加えて自らが客員教授を務める東京造形大学の学生による二次創作も見逃せない。ここでは多くの学生が学科を横断して「ヤマザキマリ原画プロジェクト」に参加し、教職員の指導のもとに古代ローマの浴場遺跡である「カラカラ帝の浴場」の復元縮小模型や、漫画作品を用いたモザイクアート『ヤマザキマリの肖像』などを作って公開している。さらに展示で著作から引用した言葉や、漫画のコマも各学生が議論して決めていったというから、学生抜きには実現し得なかった展覧会としても過言ではない。山下達郎が「多芸多才、百花繚乱」などと称するようにヤマザキマリの深淵な創作世界を捉えるのは一筋縄ではいかないが、学生が全力で作品へと向き合い、その魅力を引き出した成果を東京造形大学附属美術館にて見届けたい。

『ヤマザキマリの世界』
開催期間:2022年10月25日(火)〜11月26日(土)
開催場所:東京造形大学附属美術館
東京都八王子市宇津貫町1556番地
TEL:042-637-8111
開館時間:10時~16時半 
 ※11月7日(月)、11月25日(金)は19時まで開館。
 ※入館は閉館の30分前まで。
休館日:日曜・祝日 
 ※ただし10月30日(日)と11月6日(日)は開館。
入場無料
https://www.zokei.ac.jp/museum/
https://yamazakimari.world