エジプトの修道院にかつて保管されていた書物から、世界最古とみられる星表が発見された。
座標を使って星の位置関係を示した初の書物であり、古代ギリシャの有力な天文学者であったヒッパルコスが編纂したとみられる。星表を記した羊皮紙は一度消去され、キリスト教文書で上書きされていたが、解析によりかつての記述内容が浮かび上がった。
星表とはいわば既知の星をカタログにまとめたものだ。恒星の位置や明るさなどの特性が記され、識別のため名前や記号が振られている。
ヒッパルコスは紀元前190年から同120年頃の天文学者であり、古代の天文観測において最も偉大な学者であるとされる。ロードス島で天文観測の実績を重ね、その後長期に渡りヨーロッパで発展した天文学の基礎を築いた。
---fadeinPager---
羊皮紙の再利用で失われた貴重資料
ヒッパルコスの星表は一度は失われ、かつて修道院に保存されていたキリスト教文書のなかに人知れず眠っていた。
往時は貴重な羊皮紙を節約するため、以前の記述を消して再利用する習慣があった。羊皮紙の内容を消して新たな書物に利用したものは「パリンプセスト」と呼ばれる。パリンプセスト化によりヒッパルコスのオリジナルの記述は失われていたが、光学的解析を施すことでかつての文章が浮かび上がった。
書物はかつてエジプトにある正教会の聖カタリナ修道院に保管されていたもので、現在は全146葉のうちほとんどが米ワシントンD.C.の聖書博物館に収蔵されている。
---fadeinPager---
学生の調査から大発見へ
科学ジャーナルの『ネイチャー』は、イギリスの学生による2012年の研究が今回の発見のきっかけになったと伝えている。ケンブリッジ大学で聖書を研究するピーター・ウィリアムズ氏に依頼された学生が紙片を調査したところ、ギリシャ語で書かれた天文学関連の用語が並んでいることがわかった。
その後、研究者を巻き込み、段階的に詳細な調査を進めたという。書物のページに対し、複数の波長の電磁波を照射するマルチスペクトル解析を実施したところ、現在表層となっているシリア語の文章の下に、かつて書かれたギリシャ語の文章が眠っていることが判明した。
著者がヒッパルコスであることを示唆する証拠は複数あり、データの表現法が独特である点などが挙げられるという。また、天体の位置が非常に正確に記されていたことが幸いし、地軸が72年ごとに1度振れる「歳差運動」との関係から、ヒッパルコスの活動した時代の天空と一致することが確認されている。
---fadeinPager---
ほぼ全ての星を収録、「数え切れないほどの時間要したはず」
パリンプセスト化で失われる以前、ヒッパルコスの星表には、膨大な数の星が記録されていたと言われる。望遠鏡のない時代にヒッパルコスは、ディオプトラと呼ばれる測量器などを用い、肉眼で見える天球上のほぼ全ての星を記録したとされる。
フランス国立科学研究センターの科学史家であるヴィクター・ギセンバーグ氏は、ネイチャー誌に対し、「数え切れないほどの時間がかかったはずです」と語っている。
ヒッパルコス星表は、現在でも使用されている46の星座を決定している。これ以前にも星の位置を記した星表は存在したが、ヒッパルコス星表は数値による座標を使って恒星の位置を表現した初の試みと考えられており、非常に高い精度を誇っている。
---fadeinPager---
世界最古の星表
これまで存在が確認されていた星表として最古のものは、古代ローマの学者であるクラウディウス・プトレマイオスが2世紀に遺したものであった。今回のヒッパルコス星表の発見により、世界最古の星表が発見されたことになる。
ヒッパルコスが作成した星表は存在すると考えられており、何世紀にも渡り天文学者たちがその在処を探していた。
修道院の書物庫には、今回解析されたもの以外にも160冊ほどのパリンプセストが残されているという。ヒッパルコス星座表のうち、今回発見に至らなかった別のページが今後発見される可能性もありそうだ。
---fadeinPager---
【画像】世界最古の星表が中世の羊皮紙に隠されていた 解析で浮かび上がる
---fadeinPager---
---fadeinPager---
---fadeinPager---