輝かしい功績をもつ巨匠と、次世代を創る若き才能。両者を結びつける壮大なプロジェクト「ロレックス メントー&プロトジェ アート・イニシアチヴ」をご存じだろうか。
9月9日、10日の2日間、ニューヨークで開催された「ロレックス アート・ウィークエンド」。この催しは「ロレックス メントー&プロトジェ アート・イニシアチヴ」の2020-2022年度の成果を発表する、重要なセレブレーションだ。超一流の“メントー”(指導者)が1名の“プロトジェ”(生徒)を選び、2年にわたって1対1のコラボレーションを行う芸術支援プログラムは、芸術的遺産が次世代へ確実に受け継がれることを目的としたもの。若いアーティストにとっては夢の機会にほかならない。対象分野は舞踊、映画、文学、音楽、舞台芸術、視覚芸術、建築、オープンカテゴリー。2002年に創設されたこのプログラムによって、これまでに58組のメントーとプロトジェが貴重な絆を結んだ。今回ニューヨークに集ったのは、創作の時間を共有し、交流した、映画、舞台芸術、視覚芸術、オープンカテゴリーの4組のメントー&プロトジェである。
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2年にわたりコラボレーションを行った、4組のメントー&プロトジェ
舞台芸術分野のプロトジェはホイットニー・ホワイト。若手の演出家であり、自らも演じる俳優、さらにミュージシャンであり作曲もこなすマルチなアーティストだ。彼女を選んだメントーはフィリダ・ロイド。代表作として知られる世界的大ヒット・ミュージカル『マンマ・ミーア!』では舞台演出だけでなくその映画版の監督も務めたほどで、ストレートプレイからオペラまでも演出する。その世界的才能から薫陶を受けたホイットニー・ホワイトが成果として披露したのが「The Case of the Stranger」のワールドプレミア。シェイクスピアの言葉とホワイトのオリジナルテキスト、そして音楽を融合させた舞台コンサートは、移民、国境や越境、予期せぬ人とのつながりがもたらす喜びといったテーマを描く。
視覚芸術分野のプロトジェであるカミラ・ロドリゲス・トリアーナは、ドキュメンタリーの映画監督・ビジュアルアーティストとして活動するコロンビア人。彼女をプロトジェに選んだメントーのキャリー・メイ・ウィームスは、初期のテーマ「キッチンテーブル・シリーズ」(2016年に写真集として出版)など、黒人女性の視点で切り取られた日常風景の芸術性が高く評価される芸術家だ。二人の交流による成果は、ロドリゲス・トリアーナにとってアメリカで初の個展である『Patrimonio Mestizo』に結実した。メスティーサ(多人種な祖先をもつ)女性としての彼女のアイデンティティを探求する、ミクスト・メディアによる新作だ。
2020-2022年度に新たに設けられたのが“オープンカテゴリー”。超域的な芸術を受け入れることができる分野の初のメントーは、ブロードウェイのロングラン・ミュージカル『ハミルトン』で脚本・作曲・作詞・主演をこなす超人的な才能の持ち主、リン=マニュエル・ミランダが務めた。プロトジェのアグスティナ・サン・マルティンは『Monster God』が2019年のカンヌ映画祭短編部門で審査員特別賞を受賞した新進の映画監督だ。披露されたのは作品『Childhood echoes』のワールドプレミア。“お気に入りの曲”から呼び起こされる想い出を仲間や見知らぬ人、メントーのミランダにもインタビューし、一方で記録した映像は、暗い空間に浮かぶ雲に投影され、オリジナルの楽譜と組み合わされる。
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「ロレックス アート・ウィークエンド」では2023-2024年度のメントー&プロトジェの発表も
視覚芸術のメントーであるエル・アナツイは、国立民族博物館で2010年に開催された特別展「彫刻家エル・アナツイのアフリカ―アートと文化をめぐる旅」や、17年に第29回高松宮殿下記念世界文化賞の彫刻部門受賞で、わが国でも知名度が高い芸術家。現在はナイジェリア大学彫刻科の名誉教授であり、アメリカ芸術科学アカデミーにも選出されている。彼が選んだプロトジェのブロンウィン・カッツは、発泡マットレスやベッドのスプリングを含む製造廃材、鉄鉱石などの自然素材を使用して彫刻、インスタレーション、ビデオ、パフォーマンスに展開する作風で評価を得た、気鋭のアーティスト。22年にはヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展にも出展している。
文学分野でメントーを務めるベルナルディン・エヴァリストは、現在の英国文学界を代表する存在だ。アフリカ人のディアスポラを探求する10冊の著書がある一方で、短編小説、詩、ラジオドラマ、エッセイなど多岐にわたる執筆活動により、一般の知名度と支持も高い。2019年、小説『Girl, Woman, Other』でのブッカー賞受賞は、黒人女性としても英国在住の黒人として初めてのことだ。その彼女がプロトジェに選んだアイシャ・ハルーナ・アッタは、新世代として注目されるアフリカ人作家。植民地化以前の19世紀のガーナを舞台とする小説『The Hundred Wells of Salaga』は、20年ウィリアム・サローヤン国際賞の最終候補作にもなっている。
アジアを代表する映画監督のジャ・ジャンクーが、2023-2024映画分野のメントーとなった。世に出るきっかけとなった初の長編映画『一瞬の夢』(1998)がベルリン国際映画祭フォーラム部門でヴォルフガング・シュタウテ賞を受賞したのは、彼がまだ20代の頃。作品自体も、北京電影学院の卒業制作でもあったものだ。その彼から大きなチャンスをもらったプロトジェが、現在はアムステルダム、ロンドン、マニラを拠点に活動するラファエル・マヌエル。短編映画『フィリピーニャーナ』で20年ベルリン国際映画祭銀熊賞審査員グランプリ、SSFF&ASIA2021で最高賞ジョージ・ルーカス アワードも受賞した、いま世界的にも脚光を浴びる新進映像作家である。
建築分野のメントーはアン・ラカトン。ジャン・フィリップ・ヴァッサルとともに1987年にパリに“ラカトン&ヴァッサル”を設立し、ヨーロッパ各地で住宅プロジェクト、文化・学術施設、パブリックスペースなど数々の設計で声価を高めてきた。建築界のノーベル賞と称される“プリツカー賞”を2021年に2人で受賞している、いままさに最高評価のアーキテクトだ。そのラカトンがプロトジェに選んだのはアリン・アプラハミアン。エイドリアン・ミュラーとともに、建築・デザインスタジオ「MÜLLER APRAHAMIAN」を2018年に設立し、ベイルート、ロンドン、アルメニアのエレバンで活動を続けてきた。最先端の建築やプロジェクトに関わる一方で革新的で持続可能な未来を模索し、伝統的な古来の建築材料である粘土を調査するなど、精力的な研究も続けている。
最後に紹介するのが、音楽分野のメントー&プロトジェだ。グラミー賞最優秀ジャズ・ボーカル・アルバム賞を2001年から2015年の間に5回受賞したダイアン・リーヴスは、紛れもなく当代随一の女性ボーカリスト。18年には全米芸術基金(NEA)からジャズアーティスト最高の栄誉である「ジャズマスター」に選ばれた。その彼女がプロトジェに指名したのは、ニューヨークのジャズシーンで活躍する韓国出身のソン・イ・ジョン。オーストリアのグラーツ国立音楽大学でクラシックの作曲、スイスのバーゼル音楽院と米・ボストンのバークリー音楽大学でジャズボーカルを学んだ、シンガーで作曲家。ソン・イ・ジョン・クインテットとして活動するほか、18年にはソロのファーストアルバム『Movement of Lives』を発表している。
以上5組のメントーとプロトジェたちは、ロレックス メントー&プロトジェ アート・イニシアチヴの「パーペチュアル」な伝統に従って、2023年から24年にかけての2年間、創造的なコラボレーションを行う。彼らは少なくとも6週間、多くの場合はそれよりも長く、同じ創造の時間を共有する。プロトジェは偉大なメントーの仕事場への立ち入りを許され、一対一の指導を受け、時には共同で作品に取り組む。それは最高レベルの芸術性を世代を超えて伝承する、稀有な活動だ。アート・イニシアチヴは、優れた才能を持つ個人を支援するロレックスによって、新進気鋭のアーティストたちに学びと創作、成長するための時間を提供しているのだ。
2002年以来、ロレックスは各芸術分野でメントーを指名し、プロトジェを発掘してきた。このプログラムを通して、世界が認める卓越した芸術性は次の世代に継承される。ロレックス メントー&プロトジェ アート・イニシアチヴは、ギリシャ・ローマの時代にまで溯る芸術的遺産の継承形式に、いまなお永続的な意味をもたらしているのである。
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