アディダスは2021年に、人工的な代替レザー「マイロ(Mylo)」で「スタンスミス」をつくった。ヨーロピアンモードのステラ マッカートニーは22年に、マイロのハンドバッグ「フレイム マイロ」を100個限定で発売。サステイナブル意識が高いスポーツ界、ファッション界のトップブランドが認めたとなれば、この新素材がいかに未来へ結びつく存在なのかがわかる。そして同22年12月、ついに日本でも土屋鞄製造所がマイロ製品を発売する。開発企業と資本提携して、共同で素材づくりに取り組んできた成果だ。
その開発企業とは、アメリカのマテリアルソリューション企業「ボルトスレッズ(BOLT THREADS)」。マイロは主に、きのこの菌糸からつくられている。きのこの根は、複雑に菌糸が絡み合った構造をしている。この菌糸を培養してわた状のものをつくり、平らに圧縮させたものがベースになる。培養に要する日数は約2週間。短期間でつくることが可能だ。
そもそも主に牛から採取するリアルレザーには、どんな問題があるのだろうか。ひとつは“皮”を“革”にする工程での環境破壊。化学薬品で水質汚染され、発展途上国の皮革産業の労働者たちに深刻な健康被害をもたらしている。加えて、動物の皮を利用することへの倫理的な問題もある。現代において皮は食肉用の牛から調達するやり方が標準になった。「捨てられるなら使うべき」というロジックは一見正しいように思える。しかし牛はゲップのメタンガス排出が、地球温暖化に影響するとされる家畜。育てるための大量の水や穀物の問題も取りざたされている。牛の数を減らす動きが今後加速するなら、「食肉用だから無駄がなく持続可能」の根拠が怪しくなってくる。
とはいえインド東側の隣国バングラデシュでは輸出品目において、皮革が第1の縫製産業に続く第2の重要な産業だ。世界中の皮革と関わる人々の生活を思えば、「革=悪者」の見方は一方的すぎる。未来への道を探り、リアルレザーに頼り切りだったこれまでのあり方を見直せばいい。
きのこ菌糸の代替レザーが、最新テクノロジーが切り開いたひとつの方向性だ。石油が主な原料の合成レザーと違い、持続生産できる可能性がある。ランドセルづくりの歴史を持つ土屋鞄製造所は、納得のいくクオリティを実現させるため約20回も試作し製品化にこぎつけた。今回発売されるミニ財布、ウォレットバッグ、iPhoneケースの3型は、見た目も手触りも本物と見間違うレベルである。
ただし、きのこレザーはまだ発展途上なマテリアル。ハードワークに耐える頑丈さや、エイジングによる馴染みといったリアルレザーの優れた特性までは引き継げていない。それでも21年にエルメスがアメリカ企業「マイコワークス(MYCOWORKS)」と、きのこ由来のバッグを開発したように、世界中が代替レザーに期待を寄せている。高い社会意識のシンボルとして、日本有数のバッグブランドの次世代製品を手に入れるのも一興だ。
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ファッションレポーター/フォトグラファー
明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。
明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
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