究極の非日常を過ごす“別荘”にしたい、京都・岡崎の「眞松庵」

  • 文:小長谷奈都子
  • 写真:内藤貞保
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コロナ禍で観光客が減少する一方で、実はホテルのオープンラッシュに沸いている京都の街。それぞれが独自のスタイルを打ち出すなか、特に注目したいのが建築と美食だ。今回は、京都・岡崎地区の南禅寺の門前に位置するプライベートホテル「眞松庵」を紹介する。

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岡崎の住宅地に溶け込むように佇む「眞松庵」。ホテルの前庭には赤松が植えられている。

京都の岡崎は、京都市京セラ美術館や平安神宮、南禅寺、永観堂など、歴史的・文化的な観光名所が集まり、話題の飲食店のオープンが続いている注目エリア。桜や紅葉の名所も多く、明治時代以降には政治家や実業家の別荘地として開発されたことでも有名だ。こんなところに“別荘”が持てたら……。そんな憧れを叶えてくれるのが、住宅地に静かに佇む宿「眞松庵」だ。

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最も格式高い設えとなっている2階西側の「眞shin」のリビングルームからは主庭の緑が目に心地いい。

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「眞shin」のベッドルーム。天井には赤杉の杢板を貼り、ヘッドボードには欅のあしらい。4室ともベッドルームにはライティングデスクが設けられている。

眞松庵の内装を手がけたのは、数寄屋建築の名匠として名高い中村外二工務店。1931年創業で、初代の代表作としてはニューヨークのネルソン・ロックフェラー邸、伊勢神宮の茶室などが挙げられる。眞松庵は3階建ての建物の2階と3階に2室ずつの4室のみ。それぞれの客室は約90㎡のゆったりした造りで、リビングルーム、ベッドルーム、バスルームにわかれている。主庭の緑を最大限に取り込むように設計され、床の間周りや天井に最上級の木材を使った格式高い「眞shin」、面取りしない丸太の床柱や、へぎ板、蒲芯の天井で茶室のような野趣に富んだ「暁gyo」など、すべてが異なる趣や設え。国産の選び抜いた素材を惜しみなく使い、熟練の職人技で細部まで美しく仕上げている。設計は自然と一体感のある和の空間づくりに定評がある建築家、横内敏人が担当。旅館のような風情や寛ぎと、現代的なホテルのような快適さや利便性を併せ持っているのが眞松庵の大きな魅力だ。

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「眞shin」のバスルーム。主庭の緑を眺めながら大きな高野槇のバスタブに身を浸せる。

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ダブルシンクの洗面台には「LA SOIE」や「ITRIM」のほか、「デタイユ・ラ・メゾン」の石鹸、「レプロナイザー」のドライヤーなど、高級アメニティが揃う。カシミヤのルームウェア、男女で肌触りの違うパジャマなど、着用するアイテムにも細やかな心使いが。

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実際に泊まってみた「松sho」は2階東側の客室で、前庭の赤松に臨む部屋。床柱にも赤松が配され、その色合いと揃えて、ラグや西陣織のクッションも赤茶色で統一。天井は、北山杉小丸太の駆け込み天井と、赤杉の角網代天井という凝った造り。網代編みの隙間に見える朱の漆塗りがどことなく色っぽい。イタリアのジョルジェッティ社のソファに身を任せ、改めて室内を眺める。木や土、石といった自然素材をふんだんに使い、伝統的な美意識で造り上げられた空間に身を浸すことが、なんと贅沢で心地よいことかを実感する。裸足に触れる床材が気持ちいい。床の間に生けられた季節の花に癒される。ルームウェアの肌触りに驚く。細やかに設計されたライティングに安らぐ――。とにかく五感に触れるすべてが選び抜かれた上質なものばかりで、究極の非日常の世界へと誘われるのだ。

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なんとなく女性的な優しさやしっとりした趣を感じさせる「松sho」。数寄屋空間とヨーロッパの家具が調和する。

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館内の草花を手がけるのは老舗花屋「花政」。テレビは右側の障子の中に隠されているのも嬉しい心使い。

「松sho」のバスルームには高野槇(こうやまき)を用いた円形のバスタブを設置。芳しい槙の香りに癒されながらゆったりと湯船に浸かることができる。オリジナルバスアメニティ「LA SOIE」は天然由来のシルクを主成分としていて、なめらかな使い心地はまさにシルクのよう。自宅でも続けて使ってほしいと、100mlサイズのボトルが用意されている。シャンプーはモイスチュライジングとリフレッシングの2種類が用意されているのも心にくい。さらにラグジュアリーエイジングケアブランド「ITRIM」のクレンジングバーム、ゴマージュ、ソリッドソープもアメニティとして常備され、持ち帰ることができる。個人的な感想ながら、いまやラグジュアリーホテルの定番であるレインシャワーもどこよりもきめ細やかで肌に優しく、環境に配慮した木製歯ブラシも使い心地がよかった。ちなみにバスタブは東側が円形、西側が長方形、2階が高野槇、3階が左官職人、挾土秀平(はさどしゅうへい)による研ぎ出し仕上げとなっている。

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3階西側の「洛raku」のベッドルームは唯一畳使用。ベッドは「Time & Style」に特注したベッドフレームに、独立スプリングを2倍組み込んだマットレスを使用。寝心地は抜群。

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北山絞丸太の床柱と赤松杢の床をもつ「洛raku」は、イタリアのポルトローナ・フラウ社の家具で統一。ソファはザ・ビートルズの名曲「GET BACK」から着想を得たモダンフォルムが特徴。

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チェックイン後にぜひ訪れたいのは、本館の南に建つ一棟の「離れ」。1966年に初代中村外二が建てた八畳一間の空間で、伝統的な漆塗りの技法「蝋色仕上げ」の机に主庭の緑が映り込んで美しい。縁側を造らず、軒を深く張り出した「土庇」という手法で、庭と室内が一体化するような風情を楽しめる。主庭は七代目小川治兵衛の甥、岩城亘太郎が手がけた庭を手入れしたもの。ここではチェックイン後から22時まで、お茶やアルコールをいただけるから、名棟梁の建築と庭の景色とともに楽しみたい。

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3階東側の「暁gyo」にはボーエ・モーエンセンのソファ、ウーゴ・パッソスのテーブルがモダンなアクセントに。

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ミニバーにはアルコール各種や、イノダコーヒ、前田珈琲のドリップパック、すすむ屋茶店のほうじ茶、緑茶などこだわりのセレクション。牛乳やジュースなどのノンアルコールドリンクはフリー。

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蝋色仕上げの机に庭の緑が写り込んで美しい「離れ」の座敷。庭の主役は多数の幹が枝分かれした台杉で、当時から残る槙やモミジなどを生かして、55年前の庭を再現。

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待ちに待った夕食は1階にある「東山 緒方」にて。「東山 緒方」の料理は、日本各地から厳選した最高級の素材を使い、旨味や風味を存分に引き出しながら、独自のセンスや技による繊細かつ大胆な仕上げが特徴。ここで腕をふるうのは京都でも予約困難な人気店のひとつとして知られる「緒方」で2番手として活躍していた福井康司料理長。開店からしばらくは「緒方」と同じ献立だったが、少しずつ福井料理長独自の献立に移行していくという。赤杉のカウンターからは前述の主庭も眺められ、心に残る晩餐となるはずだ。

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1階のエントランスからまっすぐ進むと「東山 緒方」の玄関へ。その左手が「離れ」となる。

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「東山 緒方」の店内には一枚板の見事な赤杉のカウンターが。16時からと19時からの一斉スタートで、宿泊客には優先的に19時の席が用意される。

翌朝、客室でいただく朝食は前夜とはまた違った驚きや感動に包まれる。懐石スタイルで供されるのは土鍋で炊いたみずみずしいご飯に、出汁が芳醇に香る味噌汁、鯛のお造り、旬の野菜のお浸しや焼き魚、たる源の桶に入った湯豆腐など。味噌汁の具の野菜は火入れが絶妙で、お造りに添えられたワサビはおろしたての清爽な辛味。最後は卵とじご飯までつくってもらって、これが日本料理の名店による朝食かと大満足。

今年4月より紹介制となり、さらに宿泊客に寄り添ったサービスや体験が用意されるようになった。建築に料理に、日本の伝統的な美意識や職人技を体感できる「眞松庵」。いいものを知り尽くした大人が楽しめることはもちろんだけど、若い人たちに“本物”のもつ美しさや強さを体験するために滞在してみてほしいと思う。

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朝から幸せな気分で満たされる「東山 緒方」の朝食。夏には湯豆腐が冷奴に変わったり、季節で味噌汁の味噌の配合が変わったりするそう。ここに季節の一品と香の物、旬のフルーツジュースが付く。

眞松庵

紹介制に付き、住所・電話番号は非公開(Pen Onlineの記事を呼んだ旨を伝えれば予約可)
Eメール:info@shinsho-an.com
全4室
全室¥17,6000〜(消費税・サービス料込、宿泊税・入湯税別)
※朝食付き(1泊1室2名利用時)

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