アナろぐフィールドワーク#10
矢切の渡しで葛飾に入り、レコードを探しさまよう【その1】

  • 写真・文:MOODMAN
  • 編集:穂上 愛
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MOODMANと申します。今回は葛飾周辺を、アナログを求めて散策してみます。まずは、スタート地点となる千葉県松戸市の南端、北総線の「矢切駅」に向かいます。

10:00AM  矢切駅

京成線の「京成高砂駅」で分岐した北総鉄道は、江戸川橋を渡り千葉県に入ったところで、北総台地にぶつかり、一瞬、地下に潜ります。急に地下鉄になったためか目が慣れず、初めて降り立った「矢切駅」は少し薄暗い印象です。

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改札フロアに上がると無造作に、巨大な渡し舟が展示されています。細川たかしさんのヒット曲やフーテンの寅さんでお馴染みの「矢切の渡し」です。想像していたよりも大きく、全長約9メートルあります。本日の目的の一つがこの舟になります。

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10:10AM 矢切屋駅前店

駅を出ると、すぐ目の前にスーパー銭湯がありました。「笑顔の湯」という名前です。ひと風呂浴びたい欲求にかられますが、今回はパス。「矢切屋」というタバコ屋さんの前が喫煙所のようです。店内を覗きこむと思ったよりも大きなお店で、入り口にパイプタバコの缶がずらりと並んでいます。

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2018年に廃盤になったダンヒルの缶タバコ「マイミクスチャー965」をはじめ、「アーリーモーニング」、「ナイトキャップ」、「ロイヤルヨット」…などが、アイルランドの「ピーターソン」から再発になっているようです。

いくつか購入して帰ろうかなとも思ったのですが、再発に際してかなり値上がりしています。ちょうどアナログレコード(アルバム)と同じぐらいの値上がり感。ふところ事情を考えて、今回は大定番の「マイミクスチャー965」のみを購入することにしました。

「マイミクスチャー965」といえば、ラタキアとバージニアとオリエントで構成された、まろやかなブレンド。以前は近所のタバコ屋さんで購入できていたので常備していた銘柄です。ドイツの「ロバート・マッコーネル」社から復刻版が「メリルボーン」と言う名前でリリースされていましたが、ちょっとライトな印象だと言うことで手をつけず。さて「ピーターソン」版のお味はいかがでしょうか。

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10:30AM 野菊の墓文学碑

住宅街を抜けて西蓮寺の「野菊の墓文学碑」に向かいます。矢切駅から10分ぐらい。1906年、伊藤左千夫さんが「ホトトギス」に発表した小説『野菊の墓』の舞台が、ここ矢切とのこと。

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といいつつ、文学碑の楽しみ方が未だよくわからない私…。アニメ作品の聖地巡礼のようなライトな感覚で訪れてみたのですが、愉しみのツボがわからず。

『野菊の墓』ということで頭に浮かんでいた映像は、木下恵介監督バージョンの『野菊の如き君なりき』(1955年)なのですが、あの映画のロケ地はどうやら信州だったようです。笠智衆さんが舟で進むシーンは矢切りではなかったのですね。

それにしても笠智衆さん、あの映画の撮影時の年齢は今の私の年齢よりも下なのよね…などと考えつつ、ぼんやりした感じで次の目的地に向かうことにします。

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矢切橋を越えネギ畑を抜けて、江戸川の河川敷へ。途中、これでもかと言わんばかりに「矢切の渡し→」という看板があるので迷う心配はありません。

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11:00AM 矢切の渡し(松戸側)

江戸川沿いにつきました。松戸駅からバスで来る方も多いようです。土手を超えると、河川敷にきれいなゴルフ場が広がっています。映画『男はつらいよ』のオープニングそのままの景色です。しばし土手にたたずみ、葉っぱをくわえてみたりする私。

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ゴルフ場を抜けると、乗船場所があります。すでに10数人の団体客が舟を待っています。近くの売店で焼きそばを仕込んでいた旦那さんに乗船方法を聞くと、チケットなどはなく、舟に乗り込んだ時に船頭さんに200円を払えば良いとのこと(映画『男はつらいよ』の第一作目では30円だった気がします)。川べりで待つこと約10分、舟が静かに到着します。

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「矢切の渡し」は、矢切と柴又を行き来する渡し舟です。川幅は約150m。起源は江戸期で、江戸川の対岸に田畑を持つ農民が関所を通らず往来を許された「百姓渡船」が由来とのこと。

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ちなみに「つれて逃げてよ♪」でおなじみ、演歌「矢切の渡し」は1976年にまず、ちあきなおみさんのシングル「酒場川」のB面曲として発表されました。その後、1982年に梅沢富美男さんの演目をきっかけに話題になり、A面シングルとして再発されています。大ヒットとなったのは翌1983年。瀬川瑛子さん、中条きよしさんをはじめ多くの歌手によって競作されましたが、最高のセールスとなったのはご存知、細川たかしさんのシングルでした。

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さて、出港です。船首付近のいいポジションに着席できました。船頭さんの小粋なトークを背に聞きながら、舟は柴又に向かいます。風が心地よい。すっかり寅さん気分です。

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遠くに、特徴的な塔が見えます。船頭さんの解説によると『こちら葛飾区亀有公園前派出所』に出てくる金町浄水場の第2取水塔とのこと。アニメ主題歌「葛飾ラプソディー」で「とんがり帽子の取水塔から帝釈天へと夕日が落ちる♪」…と歌われていたこの建物は、1941年に江戸川の水を浄水場へ取り入れるために造られました。頭の中で鳴っていた音楽が細川たかしさんから「こち亀」に一瞬、変わります。

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11:30AM 葛飾柴又寅さん記念館

朝っぱらから渡し舟とは、いい体験でした。清々しい気持ちで次の目的地「葛飾柴又寅さん記念館」に向かいます。柴又球技場の横をサイクリングロード沿いに歩いて、5分ぐらいで到着します。

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館内に入るとまず、寅さんの生い立ちをまとめたコーナーがあります。そこを抜けると、松竹大船撮影所から移設したという「くるまや」のセット。お客さんが触れられるように、映画の世界観を体感できるように展示されているのがとも良いです。

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さらに順路を進むと「朝日印刷所」のセット。「くるまや」のジオラマもあり心を掴まれます。

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併設している「山田洋次ミュージアム」にも立ち寄りましたが、山田洋次さんの作品が時系列に並び、当時の時代背景とともにわかりやすく解説されています。

山田洋次監督の初監督作品は1961年の『二階の他人』ですが、主演しているワゴン・マスターズの小坂一也さんの回想記をちょうど読みかえしたばかりだったので、色々とイメージがシンクロ。

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ちなみにレコードとしては、渥美清さん「彼奴ばかりがなぜもてる」、倍賞千恵子さん「下町の太陽」などが飾られていました。中央に展示されていた、「松竹大船撮影所」のジオラマは最近、新しく展示に加わったとのことでしたが、自分はどうやらジオラマを見ると気分があがることを再認識しました。

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12:30PM 帝釈天

さて、柴又の街を歩く前にまずは帝釈天に伺うことにします。「帝釈天で産湯をつかい」の御神水で清めた後、帝釈堂にお参り。「寅さんお守り」を購入しました。

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1:00PM 帝釈天参道

二天門を出て、帝釈天参道を散歩します。ちょうどお昼時ということもあり、めぼしいお店はどこもお客さんが並んでいたので、歩きながら小腹を満たすことに。

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「吉野家」の店先で、よもぎたっぷりの草団子を4つ(あんこと、きな粉黒蜜を2つずつ)。次に「い志ゐ」に立ち寄り、きゅうりの一本漬けをかじりました。どちらもあっさりしていて美味しい。今回は完全に観光客の動きをしています。

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それにしても「寅さん博物館」で映画セットを体験した後で柴又の街に入ったからか、先ほどからずっとコンテンツの中にいるような、俗っぽくいうならばテーマパークを歩いているような妙な気分が続いています。

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2:00PM 柴又駅

ここらで現実を取り戻したくなってきたので、帝釈天参道をまっすぐ抜けて「柴又駅」に。駅前の居酒屋「春」さんで、喉を潤すことにしました。昨年移転されたとのことで綺麗な店内。生ビールとおつまみを少々。地元のラムネ屋さんの炭酸を使用しているというハイボールがスッキリしていておいしかったです。

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少しだけ、酔っ払いました。柴又駅前の「フーテンの寅像」と「見送るさくら像」に挨拶して、次の目的地に向かうことにします。いまのところ観光客の視点で、昭和大衆文化のコンテンツツーリズムを堪能している私ですが、果たして、お目当てのレコード屋さんにはたどり着けるのでしょうか。

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<アナろぐフィールドワーク#11に続く>

アナろぐフィールドワーク

MOODMAN

DJ・クリエーティブディレクター

1970年、東京都生まれ。80年代末からDJとして活躍。90年代半ばより広告業にも従事する。記念すべき第一回目のDJをつとめたライブストリーミングスタジオDOMMUNEにて、レギュラー番組「おはようムードミューン」を不定期実験配信中。町工場の音楽レーベル「INDUSTRIAL JP」は6年目に突入し、ASMRに特化した新プロジェクトも始動。Penオリジナルドラマ「光石研の東京古着日和」では音楽監督を務める。レコード、ポストカード、ボードゲームなど、アナろぐものをひたすら集め、愛でている。


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