「アメカジ」は、繰り返し流行が訪れ、ファッション好きを熱くさせてきた稀有なスタイルだ。戦後のアメリカブームに始まり、60年代のみゆき族、70年代の西海岸アメカジ、80年代後半の渋カジ、トムブラウンを代表とする細身アメトラの流行を経て、いまふたたび注目度が高まっている。伝統を踏まえながらも時代によって変化し、進化しているのが特徴でもある。ファッションジャーナリストの増田海治郎にアイテムとともにアメカジを詳しく解説してもらった。
ボーディの刺しゅうジャケット
「ラルフ ローレンで経験を積んだデザイナー、エミリー・アダムス・ボーディが手がけるブランド。他の誰も掘り下げてこなかったアメリカのビーチカルチャーを吸い上げたり、このジャケットのようにメキシカンな要素を多く取り入れたデザインを展開したり。伝統的な手法を駆使して現代に蘇らせるセンスに優れたブランドです」。身幅の広いショート丈のブルゾンは、背面にロバをモチーフにしたハンドクラフトの刺繍入り。多彩な色づかいもこのブランドの特徴のひとつ。
素材 │ コットン
色 │ エクリュ、イエローなど
価格 │ ¥242,000
問合せ │ メイデンズショップ TEL:03-5410-6686
---fadeinPager---
エンダースキーマのレザーシューズ
「個人的には100年後に日本のエルメスになると思うエンダースキーマ。どのプロダクトも素晴らしくクオリティが高く、同時にユーモアもあふれている。いま世界中のクリエイターから注目を集めているブランドです。この『冗談一(じょうだんいち)』は発想もクオリティも抜群。アメカジのドレスアップにこれほどぴったりの靴は他にないんじゃないでしょうか」。アッパーはスムースレザーとスエードのコンビネーション。マッケイ製法によるダブルソールで仕上げられている。
素材 │ レザー
色 │ ブラック、ブルー
価格 │ ¥85,800
問合せ │ スキマ 恵比寿 TEL:03-6447-7448
---fadeinPager---
タイガタカハシのデニムジャケット&デニムパンツ
今年、27歳の若さで亡くなったデザイナーで現代美術家の髙橋大雅のブランド。彼の遺志は引き継がれ、今後もブランドは継続していく。コンセプトは『過去の遺物を蘇らせることで、未来の考古物を発掘する』。「このデニムのセットアップはビッグブランドではなく、アメリカのストアブランドのヴィンテージから着想を得てつくられたもの。あえてマイナーをピックアップする視点がすごく面白い。これまでさんざんデニムウエアを着てきた人にも、新鮮に見えると思います」
素材 │ コットン
色 │ インディゴ
価格 │ ジャケット¥46,200、パンツ¥31,900
問合せ │ www.taigatakahashi.com
---fadeinPager---
ジュンヤ ワタナベ マンのワークジャケット
ジュンヤ ワタナベ マンは、いわばランウェイにコラボをもち込んだオリジネーター的存在。今回はアメリカを代表するブランケットブランド、ペンドルトンとのコラボアイテムを展開。「インパクトは強いですが、伝統的な柄だけに実は意外と着こなしやすい。デニムにもスラックスにも似合う落とし込みがさすがです。これ一枚あればネオ・アメカジを楽しめると思います」。アシンメトリーなポケットや、コーデュロイやレザーの素材の切り替えがアクセント。エルボーパッチも付く。
素材 │ ウール、コットン、レザー
色 │ グレー、イエローなど
価格 │ ¥170,500
問合せ │ コム デ ギャルソン TEL:03-3486-7611
---fadeinPager---
ERLのデニムジャケット&デニムパンツ
全体に星柄の刺しゅうをあしらったデニムジャケットとデニムジーンズ。ジャケットは裏地がボア素材。ジーンズはトレンドのフレアシルエットで、ダメージ加工でヴィンテージ感が表現されている。「典型的な西海岸のムードを湛えながらも、モードの感性も漂わせる。それがこのブランドの魅力だと思います。単品で見ると派手ですが、着てみると意外としっくりくるという不思議な魅力がある。本格的なアメリカの靴やシャツを合わせると抜群に格好いいと思います」
素材 │ コットン
色 │ ブルー
価格 │ ジャケット¥112,750、パンツ¥56,100
問合せ │ ドーバー ストリート マーケット ギンザ TEL:03-6228-5080
---fadeinPager---
毎年欠かさず国内外のコレクションを回り、合わせて年250本以上のショーを見てファッションの動向を分析する増田海治郎は、ランウェイはもちろんアメカジ文化にも深く精通する人物。戦後から数えて6度目のアメカジブームを次のように捉えている。
「トム ブラウンやバンド オブ アウトサイダーズに代表される5度目のブームから、12〜13年ほど目立った動きのなかったアメカジですが、2020年頃からまた盛り上がりを見せています。シーンを牽引しているのは14年にニューヨークで誕生したブランドのエメ レオン ドレや、ファッションアイコンでもあるラッパーのタイラー・ザ・クリエイター。これまでのどこかコスプレ的なアメカジとは違い、アメトラ、ストリート、アウトドア、スポーツ、ヒップホップなど、すべてを包括した表現になっているのが特徴です」
それはまさに新しい潮流だと言える。伝統や歴史にインスピレーションを得ながらも、型にはまらないクリエイションへと落とし込まれているのがいまの“ネオ・アメカジ”のあり方だ。
「ここに挙げたブランドは自由な視点でアメカジを進化させている。いい意味でのゆるさや遊び心がありつつ、アメカジをリスペクトする哲学がしっかりある。身に着ければ新しさを感じられると思います」
「アメカジ」は、繰り返し流行が訪れ、ファッション好きを熱くさせてきた稀有なスタイルだ。戦後のアメリカブームに始まり、60年代のみゆき族、70年代の西海岸アメカジ、80年代後半の渋カジ、トムブラウンを代表とする細身アメトラの流行を経て、いまふたたび注目度が高まっている。伝統を踏まえながらも時代によって変化し、進化しているのが特徴でもある。
増田海治郎
ファッションジャーナリスト。1972年、埼玉県生まれ。神奈川大学卒業後、出版社、繊維業界紙などを経て、2013年にファッションジャーナリストに。以来、世界中のコレクションをめぐり、取材し続けている。著書に『渋カジが、わたしを作った。 団塊ジュニア&渋谷発 ストリート・ファッションの歴史と変遷』(講談社)がある。
※この記事はPen 2022年11月号「最旬アイテムを厳選 2022年秋冬名品図鑑」より再編集した記事です。