2025年日本国際博覧会(略称「大阪・関西万博」)が、いよいよ本格始動。日本のトップクリエイターが集結し、活発に議論を進めている。
開幕まで1000日を切り、2025年に向けていよいよその準備が加速する大阪・関西万博」。新型コロナウイルス感染症による人類の生存への危機を経て、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、いのちのあり方、生き方を見つめ直し、そして未来への希望を世界に示す万博となることを目指している。既に世界137カ国・8国際機関が参加を表明しているこの万博の中心となるのが、先に述べたテーマを実現する8つのテーマ事業だ。建築、展示、催事、映像、バーチャル体験など多彩な手法を組み合わせて「いのち輝く未来社会のデザイン」を表現する。
このテーマを課題と見立てるなら、それを解決するのは創造力。そこで今回の万博では日本が誇るトップクリエイター8人がそれぞれのテーマ事業のプロデュースを担当。企業・団体等の参加を得て実装していくこととなる。テーマ事業のほか、参加国や企業・自治体によるパビリオンの設計は既に始まっており、23年4月からは本格的な工事に着工。そして25年4月の会期スタートを迎えることになる。
8人のプロデューサーは、2年弱をかけて、どのような創造性で大阪・関西万博のテーマを実装していこうというのか。またこの万博にかける思いは。それぞれのプロデューサーに聞いた。
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宮田裕章
慶應義塾大学教授
ともに未来を、その先の世界を考える場所に
データサイエンスで社会変革に貢献すべく研究を重ねる宮田裕章。そのビジョンのひとつは「いのちを響き合わせる」こと。「デジタル革命の本質は新しいつながり。そのつながりは、一人ひとりに寄り添うものでなければならない。持続可能な未来と人々の多様なウェルビーイングが調和することが重要です」。その視点から“静けさの森”を通じて人々がつながり、響き合う仕組みを考えている。「岡本太郎さんの言葉を一部借りれば、“すべての人が未来への可能性を己の中から燃え上がらせて響き合う体験”。参加者の方々と一緒になり、そうした体験にたどり着くことができればと思います」
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中島さち子
音楽家、数学研究者、STEAM 教育家
みんなを巻き込みながら、大きな世界のウネリをつくりたい
ジャズピアニストにして数学者。日本チームからの唯一の国際数学オリンピック女性金メダリストである中島さち子が掲げるテーマは「いのちを高める」。いのちや創造性にとって大事なものを「揺らぎのある遊び」だとし、ワークショップやギャラリー、参加者同士がともに協奏するシアターなどをつくる。「コロナやさまざまなことで痛み、時に疲れ、苦しんできたいまだからこそ、世界中の方がお祭り的に集う“万博”という場がもつ可能性を思いっきり開き、世界をつなぎ、遊び、生命の讃歌を歌い上げたい」と意欲を語る。
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石黒 浩
大阪大学教授、ATR 石黒浩特別研究所 客員所長
かつての大阪万博のように、多くのレガシーを後世に残したい
ロボット研究の第一人者である石黒浩の作品に、人間とはなにかという疑問を見る者に突きつける、自分そっくりのロボットがある。「いのちを拡げる」と掲げたテーマについても「我々は技術によってその能力を拡張し、快適に暮らし、寿命を延ばし、いのちを拡げているのです」と明確な視点をもつ。本万博では、アンドロイドロボットと人間がともに働く最先端の生活空間の中を来館者が歩き、未来を体験する。ロボット音楽ライブというアイデアも。「未来の人間は、社会はどのように進化するか、具体的に感じ、考える機会をもってもらえればと思っています」
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落合陽一
メディアアーティスト
未踏の空間芸術の一部として歴史に刻まれていくために
「プロデューサーに就任したとき32歳でした。万博のときは36歳になっています。万博は現在の技術的、社会的環境を突破した視座を見せるまたとない機会だと考えています。30代の代表作をつくるつもりで自分の情熱を傾けています」と語るのは、メディアアーティストでありデジタルネイチャー(計算機自然)研究者の落合陽一。「いのちを磨く」というテーマをデジタルとアナログ、2つの鏡で表現するパビリオンに落とし込む。「デジタル時代の新しい民藝性や臨場感体験を通じ、生と死、データと身体性についての論理的な理解だけでなく、身体的、直感的な理解を得られるでしょう」と語る。
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福岡伸一
生物学者、青山学院大学教授
未来に必要な哲学を、展示空間に象徴的に提示したいか
生物学者の福岡伸一は、提唱する「動的平衡」を「いのちを知る」というテーマのなかで表現する。「人間もまた地球生命系の一員として、いかに動的平衡を成立させる利他性を考えるべきか、その生命哲学を提示します」。パビリオンでは、来場者が大きな生命の流れの中に溶け込み、悠久の生命史を追体験できるようにする。未来をひらくために必要なものはフィロソフィーと語る福岡。「かつて岡本太郎が“人類の進歩と調和”というEXPO70のテーマにアンチテーゼを叫んで50年。その叫びを未来につなぐためにも、ポストコロナの生命哲学が必要だと痛感しています」
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小山薫堂
放送作家、京都芸術大学副学長
当たり前の価値や幸せに気づいていただく機会に
「いのちをつむぐ」というテーマをプロデュースするのは、食に精通し、食をテーマにさまざまなプロジェクトに携わってきた小山薫堂。本万博でプロデューサーを務めるにあたっての思いを語る。「大きな時代の転換期にあたり、地球環境の改善につながる“新しい食べ方”の提言にも挑戦してみたいと考えました。食べることと向き合い、考えることで、一人ひとりが循環の一員であるという認識が、この大阪・関西万博を節目に当たり前の社会になってゆくことを願っています」。自然の循環のなかで資源(いのち)をいただきながら人間が生きていることを「いのちをつむぐ」というテーマで表現する。
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河森正治
アニメーション監督、メカニックデザイナー
いま生きている奇跡、そこから未来がつくられる
大阪万博当時は小学校5年生。ワクワクした感情がいまでも自分のべースになっているという河森正治は、数々の名作をつくったアニメーション監督。「当時は高度成長期。未来は明るいと疑いなく言えていたけれど、いまはそう簡単には言えない。世界には歪みがあり、問題が起きている。次の新しい時代に、当時と同じように社会にインパクトを残せるようなことができればと参加しました」。EXPO2025では「いのちを育む」というテーマで、宇宙・太陽・大地に宿るあらゆるいのちのつながりを感じ、共に守り育てることを表現する。命の循環を感じ、地球を旅するような体験に注目だ。
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河瀨直美
映画作家
命を守るために、世界に満ちあふれた「分断」を解決したい
カンヌ国際映画祭をはじめ、世界各国の映画祭で多くの賞を受賞している映画監督の河瀨直美。「誰もが対話ができる機会をもてる場所、映画監督である私の表現方法でもあるスクリーンを通して対話をする“対話シアター”を思いつきました」と、命を守るために、世界に満ちあふれた「分断」を解決したいという。そして、大阪・関西万博に来る子どもたちになにを残せるかが大事だとも話す。「彼らが大人になったときに、2025年の万博でのキラキラした体験を、自分たちの子どもに話し聞かせている、100年後にも語り継がれるメッセージを残せる万博にしたい」
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いよいよ動きだした、大阪・関西万博とは
「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに掲げる大阪・関西万博は、未来社会の実験場をコンセプトに開催される。会場は大阪市臨海部の埋立地である夢洲(ゆめしま)。2025年4月13日から10月13日までの開催期間で、約2,820万人の来場者数を想定。SDGsの目標年である2030年の5年前にあたり、SDGs達成とその先に向けた姿を描くことも期待されている。テクノロジーにも着目し、IoT、AI、ロボティクスそしてビッグデータ等の先端技術を活用した超スマート社会実現のための実験として、会場全体は未来社会を先取りした超スマート会場とし、社会実装への挑戦を行う。
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●2025年日本国際博覧会協会 info@expo2025.or.jp
https://www.expo2025.or.jp/