エリザベス女王がカントリーウェアとして愛用した、英国を代表するバブアーのアウター

  • 文:小暮昌弘(LOST & FOUND)
  • 写真:宇田川 淳
  • スタイリング:井藤成一
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バブアーを代表する「BEDALE(ビデイル)」を現代的なスマートなシルエットにアップデートさせた「BEDALE SL(ビデイル スリムフィット)」。生地は撥水性や防水性に優れた「オイルドクロス」を採用。ラグランスリーブ、サイドベンツ、ハンドウォーマー、袖口中に装備されたリブなど、乗馬用コートを連想させるディテールが特徴。スリムなシルエットなので、スーツやジャケットなどのドレススタイルとの相性も抜群だ。¥53,900/バブアー

「大人の名品図鑑」英国王室編 #1

世界約200カ国のなかで「王室」がある国は30に満たないが、「王室」と聞いて多くの人が思い浮かべるのは英国王室ではないだろうか。イギリス国民から圧倒的な支持を受け、その動向はすぐにニュースとなる。いまや英国王室御用達=ロイヤルワラントは完全にブランドのようになっている。今回は、そんな英国王室から愛された名品を取り上げる。

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2022年9月、英王室から発せられた衝撃的なニュースが世界を駆け巡った。イギリスの君主として歴代最長、70年にわたって在位してきたエリザベス女王が9月8日に静養先のスコットランド・バルモラル城で亡くなったのだ。96歳、愛する家族たちに囲まれて穏やかに天に召されたと報道されている。国葬が行われたのは同19日。女王の棺は、安置されていたウェストミンスター・ホールから海軍の砲車に乗せられてウェストミンスター寺院に運ばれた。葬儀は遺族に加えて、イギリス政界幹部や首相経験者、世界各国の元首や政府首脳らが出席。日本からも天皇皇后両陛下が参列した。その様子は日本にも同時中継されたが、1000年の歴史を持つ英国王室らしい荘厳で美しく、見事な葬送だった。

エリザベス女王。正式には女王エリザベス2世。1926年4月21日、ヨーク公アルバート王子とエリザベス妃の第1子・長女として誕生する。叔父のエドワード8世の退位にともない、父がジョージ6世として英国王に即位すると、エリザベス王女は王位継承順位第1位となった。1952年、ジョージ6世崩御で25歳という若さで王位についた。もちろんイギリスだけでなく、カナダ、オーストラリアなど、英連邦各国の元首でもある。イギリスでは国家元首として議会の開会式を行い、首相を任命、彼女の署名なくして議会制定法は成立しない。この名品図鑑にも登場したウィンストン・チャーチルからリズ・トラスまで実に14人もの首相たちが女王のもとで任命されている。奇しくもバルモラル城でトラスを首相に任命した2日後に女王は亡くなっている。ついでながら女王から最後の任命を受けたトラスはすでに辞任。『エリザベス女王』(中公新書)を著した君塚直隆は「この国で政治的な経験を長く保てる唯一の政治家」と女王を評する。

女王が崩御されたニュースが流れると、ロンドンのバッキンガム宮殿やウェストミンスターホールには多くの市民が詰めかけた。

女王ほど国民から愛された君主はいない。21歳の誕生日に「私は、全生涯をイギリス連邦に捧げます」と女王は宣言しているが、女王の存在そのものがイギリスのようなものであり、ある意味国民の心のよりどころ。だから女王の一挙手一等足がニュースとして流れる。

それはファッションについても同じだ。中野香織は著書『ロイヤルスタイル 英国王室ファッション史』(吉川弘文館)のなかで、女王はいつも「コートドレスを基本とした原色のセットアップ、揃いの色の帽子。そしてバッグ(ブランドはローナー)と靴はほぼ必ず黒、たまに白」と書く。コートドレスのシルエットは常に変わらず、ありとあらゆる色を着こなすという「ワンスタイル、マルチシェード(スタイルはひとつ、色は多色)」の着こなしに特徴があると解説する。

その真意は何か。中野はこういった彼女のスタイルは「遠くからでも『あそこに女王がいる!』とわかるように、という女王の考えを反映したスタイルである」と書く。崩御のニュースのなかで「英国国民の3人に1人が女王に会った経験がある」との報道があったが、国民との距離がそれほど近い女王のスタイルにも、国民に寄り添う姿勢が感じられるのではないだろうか。

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3つのロイヤルワラントをもつバブアー

英国を代表する名品のなかにも女王が愛用したアイテムがある。日本でも大人気のアウトドア・ライフスタイルブランドのバブアーだ。パソコンで検索してみると、頭にスカーフをかぶり、タータンチェックのスカートをはいて、バブアーのアウターを着用している女王の写真がすぐにヒットする。2006年に公開された『クィーン』は97年のダイアナ元皇太子妃の交通事故死の只中の英国王室を描いた作品だ。この作品で女王を演じたヘレン・ミレンがバブアーを着用、バルモラル城の敷地で自らハンドルを握り、4WDを運転する姿が何度も登場する。コートドレスが女王のシティウェアならば、バブアーは女王のカントリーウェアとして欠かせないアウターとみて間違いないだろう。

バブアーの創業者ジョン・バブアーが、イングランド北東部のサウスシールズで防水の衣料を扱う店を開いたのが1894年。この町は北海を目の前にした港町で、漁業や造船業が盛んだった。この地で働く漁師や水夫、港湾労働者のために生地にワックスを塗布し、防水・防風機能を備えた「オイルドクロス」を提供し、その生地を使ったジャケットを開発、発売した。機能溢れるジャケットはバブアーの名を世に広め、第一次、第二次世界大戦ではイギリス軍に防水服を供給していたという。

1974年にエディンバラ公から、82年にはエリザベス女王から、87年にはチャールズ皇太子から英国王室御用達(ロイヤル・ワラント)の栄誉を受けているが、バブアーはワラントを3つ保持している希少な存在。エディンバラ公とエリザベス女王の2人はすでに逝去されているが、最長2年間は紋章を使い続けることができる。バブアーのHPを見ると、今年の秋冬のシーズンから3ワラントから2ワラントに切り替わった織りネームが付けられた商品が日本に入ってくる予定だと明記されている。

今回紹介するのはセレクトショップの雄、ビームスFで扱っている「BEDALE SL(ビデイル スリムフィット)」というモデル。オイルドクロスにウォッシュ加工を施し、長年着込んだような風合いの生地に仕上げている。シルエットもすっきりと着こなせるモダンなフィッティングで、バブアーらしい機能的なデザインはそのままに、街着としてバブアーを着こなす人に最適なモデルではないだろうか。

2020年の報道によれば、女王は25年以上も同じバブアーのアウターを愛用し、12年ごろ、ワックスの修繕をバブアーに依頼したことがあったという。そのときバブアー側は新しいジャケットの提供を申し出たが、女王の秘書から「女王は古いものの返却を求めています」という連絡が入ったとも書かれている。田舎で愛馬と戯れながらバブアーのジャケットを着ているのが、女王の最も幸せな時間だったとの報道もある。女王をも魅了した、唯一無二の名品アウターと言えるのではないだろうか。

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エリザベス女王、エジンバラ公、チャールズ国王から英国王室御用達の栄誉を受けていた希少な存在。裏地に使われているタータンチェックもイギリスらしい。

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ブランド名が刻印されたリング状のジッパー。手がかじかんだとき、手袋をしたままでも楽にジッパーが開閉できるようにと考案された、機能性まで考えられたデザイン。

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バブアーのラインナップでも高い人気を誇る「BEDALE(ビデイル)」。1980年に乗馬用ジャケットとして誕生したモデルで、乗馬するときにジャケットの裾が邪魔にならないようにと、背面の裾には両サイドに切れ込み(ベント)が入っている。

問い合わせ先/ビームス F TEL:03-3470-3946

https://www.beams.co.jp/beamsf/

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