〈鹿児島県霧島市〉
竹林の湯
鹿児島空港からクルマで10分走った国道沿いに、奇跡的な「野湯(のゆ)」がある。商業利用されていない自然の中で自噴する温泉を野湯というが、大半はたどり着くまでに困難が伴う。しかしここは国道から竹林の谷を川に向かって下ること3分。これほど簡単に極楽の野湯にたどり着けること自体、奇跡なのである。決まった管理者は不在。成り立ちはわからないが、地元ではいつからか「竹林の湯」と呼ばれるようになった。
川沿いの丘からこんこんと湧き出している温泉は50℃。川に向かって湯が流れ落ちる岩肌は赤茶色に染まり、その途中にふたつの湯船がある。もちろん湯船といっても完全な人工物ではなく、天然の岩の凹みを人が少しずつ掘ったものと推測できる。流れ落ちる間に湯は冷まされ、上段の湯船は43℃前後、下段になると40℃と絶妙の湯加減になっている。もちろん更衣室はない。服を脱ぎ、足場の悪い坂を少々下って、天然の湯船に浸かる。「あぁ」という極楽のため息しか出ない。川のせせらぎに耳を傾けながら、ゆっくりと目を閉じる。笹の葉をゆらす風が青い匂いを運んできて、身体のなかをきれいにしていく。額にうっすらと汗がにじんできたので、川に飛び込んだ。天然の水風呂の、これまたなんと心地よいことよ!
温冷浴を繰り返しているうちに仲間も増えていた。これほど贅沢な湯を共にすると見知らぬ仲でも打ち解けてゆく。
24時間、人を選ぶことなく湧き続けているこの湯を見て、崇敬の念を抱いた。
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竹林の湯
住所:鹿児島県霧島市牧園町宿窪田
定休日:無休
料金:無料
※この記事はPen 2022年11月号より再編集した記事です。