日本のフレンチに新風を吹かせる「フロリレージュ」シェフの川手寛康と、ミュージシャンでありながら食にも精通するホフディランの小宮山雄飛が、昼の陽光が注ぎ込む部屋でシングルモルトウイスキー「グレングラント」を飲み、語り合う。
明るい陽射しの差し込むテーブルには、川手寛康が腕を奮った料理が並ぶ。「昼のホームパーティを、ウイスキーとともに愉しむなら」というコンセプトでつくられた料理は、目にも楽しく鮮やかな彩り。
グレングラント「アルボラリス」は、スコットランドのスペイサイドでつくられている。その味わいは、いわゆるスコッチのスモーキーなフレーバーとは異なり、明るく爽やか、さらにはフルーティーな香りを漂わせ、ウイスキー好きの間で話題になっている。ウイスキーのもつ既成概念を軽やかに飛び越える。そんなウイスキーがこのグレングラント「アルボラリス」だ。
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2022年9月14日にニューアルバム『Island CD』をリリースしたホフディランの小宮山雄飛は、いつもハイボールでウイスキーを楽しんでいるという。そんな小宮山の前には、「アルボラリス」でつくったハイボール。
「家で飲みやすいウイスキーという印象のお酒ですね。これまでウイスキーといえば渋い雰囲気のバーで一人静かにグラスを傾ける、というイメージが強くありましたが、もっと気軽に家で飲むのが似合う感じがしました。ちょうどいまのように、明るい昼のうちから飲むのも良いな、という印象です」
「アルボラリス」の意味は“木漏れ日”。夜の重厚なムードとは異なり、昼の明るい陽射しをイメージしたお酒は、口当たりもなめらか。シェリー樽とバーボン樽で熟成された原酒ならではの甘くてフルーティーな特徴をもつ。水色も明るい黄金色で、ソーダ割にするとそのフレッシュな表情がキラキラと輝く。
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この「アルボラリス」にあわせて川手シェフが用意した料理は3品。「色々野菜のピクルスサラダ」「魚のフライ 奈良漬けタルタルソース」そして「カキの缶詰をつかった プーパッポンカレー」。
「カレー好きな小宮山さんにお出しするのは、僕にとってチャレンジではありましたが(笑)」と、笑って話す川手シェフ。ウイスキーはストレートで飲むという川手シェフは「アルボラリス」の印象をこう話す。
「僕はこういうペアリングの機会があるとカレーをつくることがけっこうあるんです。というのも、カレーはみんなが自由に気軽に美味しく、そしてある意味、マニアックにも食べられるものなので、“アルボラリス”に合わせるには良い料理なのかな、と。“アルボラリス”はいままでのウイスキーのイメージとはちょっと違って、料理人の側から考えるとどんな料理にも合ってしまうような優しさがありました。だから逆に、この味になにを当てていこうかなというのが難しくもありましたね」
朝、ピクルス液に野菜を漬け込んだだけという野菜のピクルスをつまみながら小宮山も言う。
「“アルボラリス”は軽やかで、飲みやすいウイスキーで、このピクルスの酸味も優しく受け止めてくれる印象です。浅漬けということですが、しっかり酸味と甘味が入っていますね。このカレーもおいしいですよ。どっしりとした深い味わいがあって」
カレーにうるさい小宮山雄飛も舌鼓を打つそのカレーは、提供する直前に川手シェフがさらっとつくったもの。「こういうものをシェフがささっとつくっちゃうって、かっこいいんですよね」と小宮山。
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「“アルボラリス”は、ウイスキーのイメージでもあるスモーキーさがないということで、あえて料理の側にそういう要素を入れました。缶詰のカキは燻製されて香りがあり、それをココナッツミルクと玉ねぎ、セロリ、長ネギ、それにカレー粉とラードを少し加えて軽く炒めただけ。家庭でも簡単につくれますよ。魚のフライにもタルタルソースを添えているのですが、このタルタルソースには刻んだ奈良漬けを入れています。乳酸発酵の深みを少し入れてあげることで、優しい味わいの“アルボラリス”と合わせると面白いのかなと考えました」
実際、川手シェフがカレーをつくるのに使った時間はわずか15分程度。魚のフライに添えたタルタルソースは、奈良漬けを刻むひと手間を加えただけ。ピクルスに至っては、ピクルス液を満たした瓶に野菜を入れただけ。どの料理も難しいテクニックは必要としない。
“アルボラリス”にインスパイアされた料理を説明する川手シェフは、「家庭でも簡単にできる」と繰り返す。入手するのが難しい食材や複雑な調理も必要としない。ウイスキーと合わせるからと構える必要もない。それが川手シェフの提案だった。
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「“アルボラリス”は、暖炉の火などのイメージじゃないですよね。年齢層もカレーやフライを好むような若い人たちのイメージです。ハイボールなどいまどきの軽い飲み方にもとても合う印象ですね」
川手シェフがいう「若い人たちのイメージ」という言葉に小宮山もうなずく。
「気軽に楽しめるということが、この“アルボラリス”からは強く感じられますね。一人で構えて飲むウイスキーではなくて、友達を呼び、楽しんで飲める明るいお酒。僕は家で飲むときはだんだんお酒を強くしていくんですが、“アルボラリス”ならハイボールから始めて、途中からストレートやロックで飲んでいくということも楽しくできそうです」
伝統的なウイスキーがある種のスタイルを押し付けてくるのとは異なり、「アルボラリス」はカジュアルに楽しめる軽やかなウイスキー。「新しいスタイル」ということについていえば、フレンチというジャンルのなかでサステイナブルへの意識を料理に反映している川手シェフも、しばしば新しいスタイルの提唱者として注目される存在だ。
「イノベーティブに新しいフレンチをつくることについていうと、新しいことをするのに、僕自身は意外と楽に入っていけたんです。というのもちょうどいまの時代、自分がやりたいと考えたものを、お客様たちから応援してもらえるムードになっていたからです。それは日本だけにとどまらず、世界的にもそうですね。僕の少し上の世代が最後のクラシックなフレンチで、僕らの世代はどちらかというと、時代が新しいスタイルを求めていたのかもしれません」
小宮山もまた、ホフディランというユニットを通じて独特の音楽スタイルで認められている存在だ。
「音楽って昔から割と閉鎖的なところがあって、ロックをやるならこうじゃないといけないとか、ミュージシャンはこうあるべきだとか。でも、たとえばロックで言うなら、本来はもっと自由だったはずなんです。時代とともにどんどん崩れてきて、いま逆にちょうどいい感じになっているのかもしれませんね。昔と違っていまは情報がいくらでも手に入るじゃないですか。だからこそ、逆にアーティストとしては世界中でライバルが増えてきたなという印象もあります」
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お酒が入り、徐々に二人の雰囲気も穏やかになり、会話も自然に弾みだす。ニューヨークでの新しい料理のトレンド、人気のアーティスト、共通の知人とのエピソード。陽射しを浴びながらウイスキーを楽しみ、とめどなく会話は弾む。川手シェフは言う。
「いままでのウイスキーだと、夜中のバーで、ふたりでじっくり話すみたいな感じがありましたが、“アルボラリス”を飲むなら、気のおけない男友達だけで集まって、こんなふうにざっくばらんにいろいろな話をしながら笑って飲みたい感じですね」
お酒はひとりで楽しむことも多かったという小宮山も続けて話す。
「友達と集まって飲むようなシチュエーションはすごく合ってる気がしますね。気軽に家でつくれる料理で、僕はそれほど大人数でもなく3人くらいとかで楽しく飲む。“アルボラリス”を飲むならそんなかたちがいいのかも、と思いました」
気がつけばグラスは空に。終始笑いの絶えないなか、二人はフレッシュに酔いしれていった。