ル・コルビュジエの従兄弟であり、1922年には共同で事務所を設立した重要なパートナーとしても知られている建築家のピエール・ジャンヌレ。建築設計にとどまらず、家具のデザインから都市計画までに携わったジャンヌレによって、1950年代に北インドの都市計画のためにデザインされた一連の家具が復刻した。シリーズの名は「プロジェクト・チャンディーガル・コレクション」。そのモデルのひとつである「Low Cane Stool」の日本で初となる展示受注販売を機に、「51% Tokyo」を会場にコレクションを一堂に集めた展示が9月17日より実施される。そのデザインとクオリティが高く評価されながらも、インド国外に出る機会の少なかったこのシリーズについて振り返りたい。
「チャンディーガル」とは、ル・コルビュジエが世界で唯一、都市計画を実現した北インドの都市名だ。1947年にインド・パキスタンがイギリスから分離独立後、両国に分割されたパンジャーブ州の州都ラホールがパキスタン側となり、インドでは新たな州都を建設することが決まった。そして、インドで初となる近代都市計画を託されたのがル・コルビュジエだ。ジャンヌレはこのプロジェクトにも初期段階から関わり、およそ15年にわたって現地に滞在して現場監督を務めた。
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公共施設や議員の居住区などで使用する家具シリーズ全体のデザイン言語は、ジャンヌレによってディレクションされたが、現地のデザイナーたちのデザインも多く採用されたという。当然ながら、一定量以上の家具を限られた期間で製造するためには、地域に伝わる手工芸技術を用いることが効率的であり、チーク材や籐などの現地で入手しやすい素材を選ぶことが理にかなっている。そうしたローカルなデザイン要素をジャンヌレが編集することによって、一定のクオリティとモダンな佇まいの統一感をコレクション全体で実現した。また、家具の図面は単一のメーカーにライセンス供与されることなく、「オープンソースデザイン」としてインド各地の組織や職人の手に渡り、チャンディーガル発のデザイン家具がインド各地に普及した。現在のSDGsの考えを先取りするかのように、地域に根ざした技術と素材を用い、経済水準にも見合った最適なものづくりの実現を目指したことがわかる。
一方、そうした狙いの反作用ではないが、木の太さや角度、製造工程の異なる多くのバリエーションが作られ、オリジナルの家具を見極められない状況も生まれてしまった。そもそも世界的に高い評価を受けたデザイン家具だ。オークションハウスではオリジナルがより高額で取引されるようになり、デザイン価値を見出したインド政府が輸出制限をしていたこともあり、さらに価格の高騰を加速させた。
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2015年、ピエール・ジャンヌレのデザイン思想とインドの職人技術を現代に継承するインド・ベンガルール(旧バンガロール)の工房「ファントム・ハンズ」が、チャンディーガルの家具を再生産するプロジェクトを始動させた。オリジナル図面をもとに、ひとつひとつ職人の手仕事で仕上げる「工芸家具」としてチャンディーガルの家具を復刻させ、「プロジェクト・チャンディーガル・コレクション」として再生産を開始したのだ。今年より復刻と販売を開始したモデルが「Low Cane Stool」であり、チーク材のフレームには曲線が用いられ、籐編みの座面を組み合わせたデザインが特徴的だ。パンジャブ州議会議員の居住区のためにデザインされたこのスツールは、座ることはもちろん、ラウンジチェアの足置きとしても使用できる。会期中には、通常は展示していないモデルも含むコレクション15モデル、計17点が一堂に展示・受注販売される。1950年代のインドに発端するストーリーを思い返しながら、モダンで優美で温かみも備えたコレクションを堪能してほしい。手工芸とモダンデザインが融合したひとつの理想の形を感じられるはずだ。
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The Launch Event of Low Cane Stool
開催期間:2022年9月17日(土)〜25日(日)
開催場所:51%Tokyo
東京都渋谷区代々木5-67-2 前田ビル1F
TEL:03-5577-6293
開館時間:12時〜17時
※最終入場は16時30分まで
会期中無休
入場無料
※会期中にかぎり予約不要
https://pierrejeanneret.jp