【インタビュー】韓国人アーティスト、キム・ジュンスが日本初個展を開催。レザーによって生まれる、生命を映したオブジェ

  • 写真:溝口拓
  • インタビュー&文:Pen編集部
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ロエベ(LOEWE)財団によるロエベ ファンデーション クラフト プライズ2022のファイナリストに選ばれ、世界で注目を集める韓国人アーティストのキム・ジュンスが日本で初の個展を開催中だ。

「革は命そのもの。絶えた命にオブジェとしての新たな命を吹き込みたい」

キム・ジュンスが生み出すのは、薄い革を組み合わせ、厚みや絶妙な色彩の違いを瞑想的に重ね合わせた器たち。

今回、個展の開催に合わせて来日したキム・ジュンスにインタビュー。日本で個展を開催することへの思いや作品、今後の活動などについて、話を訊いた。

日本で初となる個展

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――日本での初個展、おめでとうございます。大盛況ですね。日本で個展を開くことになって、いかがでしたか?

キム・ジュンス「個人的には3回目の個展で、日本では初めて個展を開くことになりました。日本という、工芸が社会的に称賛を受けている国で開催できることが非常に嬉しいですし、ギャラリーの代表の方に招待いただいて、ありがたい気持ちでいっぱいです」

――ロエベ財団のクラフトプライズファイナリストにも選ばれました。世界中から才能が集まる注目の賞ですが、ファイナリストに選ばれたときはどうでしたか? 何か反響はありましたか?

キム・ジュンス「ロエベの賞自体が5回目の開催だったのですが、それまで出場している作家さんたちの方が経験も豊富でした。私は年齢もまだ若くて、経験もそんなに多くはなかったのですが、私の扱っている素材がレザーということで、少し珍しく特徴的だったので(周りの方が)応募を薦めてくださったんです。なのでファイナリストに選ばれたときはとても光栄でしたし、嬉しかったです。ロエベというと世界的にとても影響力の高いブランドでもありますし、そのプライズでファイナリストになれたというのは、今回の個展開催にももしかしたらつながったのかもしれません」

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生命を投影した作品たち

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――作品を見たとき、革とは思えないその姿とバランスの取れた形の美しさに見とれてしまったのですが、こちらはどのようにつくられているのでしょうか。とても不思議です。

キム・ジュンス「まず、こちらの素材は牛革を使用していて、ベジタブルタンニンレザーというレザーを使っています。牛革を使っているのは、表面に生命力がより感じられて、革独特の風合いが感じやすいからです。(ベジタブルタンニンレザーというのは)革をそのまま使うのではなくて、ベジタブルタンニンという植物から取られたタンニン(※)を使って皮をなめしてできたものなのですが、こちらの革を細く切って、下から順に巻いて制作しています。動物の皮なので、牛一頭、革として使えない部分が出てくるのですが、それらを加工してすべて使っています。革の部分によって風合いや性質が全然違うので、手で触りながら、自分の感覚で確認しながら巻いていき、ひとつの作品をつくり上げています。見ていただくとわかるのですが、色が若干違う部分があるんです。黒だったりベージュの部分があったり。革の性質や、タンニングをすることで革の風合いが変わってくるので、その特異性を生かしながらつくっています。一回に切れる革の長さが違うので、短いのや長いのを合わせることによって、なだらかな曲線が生まれたり、自然なカーブ、ナチュラルな風合いが生まれるのが特徴です」

(※)動物の生皮を革になめす性質をもつ一群の収斂(しゅうれん)性の植物ポリフェノールに対する慣用的総称名。(コトバンクより)

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――革を切ってひとつにつなげて巻いてるのですよね? つなぎ目が全然わからないですね。

キム・ジュンス「細く切った革を接着剤でつなげて、ホイル上にぐるぐる巻いています。やすりや、あとは木でできた特殊なツールがあるのですが、それを使いながら撫でるというか、少し削ったりして、やわらかい、つーっとした引っかかりがないようなもの(革)をところどころに足しながら、自然にひとつの面として成り立つように最終的な仕上げをしています」

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――それがまたバランスが取れて、美しく立っているのが不思議なのですが、どうしたらこのように立つのでしょうか?

キム・ジュンス「基本的にはオブジェとして自立するように、初めに計算します。触っていただくとわかるのですが、底の方はやっぱり、重みがあるというか、かなり固くしてつくっているのでバランスが安定します。上の方に行くと少し厚みが薄くなっているのがわかると思います。上の方に行けば多少薄くても自立はするのですが、やはり下は厚みを持たせないとバランスが取れなくなってしまうので、ここは重要視して作品をつくる前に考えますね」

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イタリアでの経験で生まれた、革、生命への特別な思い

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――革に対して興味を持ち、これを作品にしてみようと思ったのは何かきっかけがあったのでしょうか?

キム・ジュンス「もともとはメタル・鉄鋼系を材料にした工芸を専門にしていて、革は趣味として、少し興味を持っている程度でした。材料を扱う際に、いろんな材料を混ぜて作品をつくるということもしていて、そのなかのひとつに革もありました。大学院時代に一週間ほどイタリアのトスカーナ地方へ行って、ベジタブルタンニンレザーのワークショップに参加することになったんです。世界中から10名ほど研究者や作家などが招待されて、工場見学に行ったり、ワークショップを通じて実際に体験したりしたのですが、そこでベジタブルタンニンレザーに出合ったのが、自分にとってかなり衝撃的でした。もっと集中してこの材料について学びたいと思ったのと、実際に材料にして作品をつくりたいと思ったのが大きなきっかけでした」

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――実際に目にしたことで、大きな衝撃を受けたのですね。

キム・ジュンス「韓国で大学院に通っていた時は特に深い知識はなく、ただ単に材料として革を使っているという意識だったのですが、イタリアのワークショップに行き、動物の毛が残っている状態の皮が加工されている工程を見て、衝撃を受けました。そこで、生命の循環というもの――作品のテーマにもなっているのですが――を感じたんです。それを使って、作品にして表現していこうと思いました」

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今後の活動について

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――これからの作品づくりで、何かチャレンジしてみたいことはありますか?今後の活動について教えてください。

キム・ジュンス「いまは革の風合いがダイレクトにわかるようなものもあれば、漆を表面に塗っているような少し風合いが変わったものなど、主にオブジェとして使われるものをつくっています。色を混ぜ込んだものなど、オブジェよりも多様な形というか、見る方によってストーリーが違うようなものもつくり始めていて、そういったものも今後積極的につくっていきたいです。また、人々の生活で機能的に使えるようなものもつくっていきたい。たとえば、鏡だったり、オブジェとしても飾れて、そのうえで人々の生活に馴染むような機能性を持っているものを、今後は集中的につくっていきたいという思いもあります」

――ありがとうございます。最後に、個展を見に来てくださる日本の方にメッセージをお願いします。

キム・ジュンス「このテーマが“Sense of forest”ということで、sense、感覚というところでは直接見ていただくのもそうですし、作品をぜひ直接触ってくださいということを伝えたいです。体全体で、五感で感じていただいて、写真で見るだけでなく個展に来て感じていただけたら嬉しいです」

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『KIM JUNSU CURATOR’S CUBE 2022 7th』

開催期間:~9月18日(日)
開催場所:東京都港区西新橋2-17-1 八雲ビル3F
開館時間:12時~17時
TEL:03-6721-5255
※展示期間・時間などが変更となる場合があります。

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