英国が誇るスポーツクーペ、アストンマーティン・ヴァンテージの特別モデル、F1エディション。F1グランプリ参戦復帰を記念して発売され、V12エンジンのモデルを除けばアストンマーティンでもっとも戦闘力が高い市販モデルだ。とはいうものの、いわゆるステッカーを貼っただけの特別仕様ではない。
エアロダイナミズムや足まわりを強化し、最大出力は527馬力に引き上げられた。ワイルドなV8エンジンを搭載したFRのスポーツクーペらしさを残しつつも、サーキットでよりタイムを削り出すための進化をはたした。これまでのヴァンテージは後輪の自由度が高い、どちらかというとドリフト志向の強いスポーツカーだった。リアを滑らせるのはご愛敬。操作性は抜群だから「英国紳士(ジェームズ・ボンド)のように乗りこなしてね」ってイメージですよ(笑)。F1エディションは、このやんちゃな後輪軸の癖がぐっと落ち着いたこと。
後輪軸のスプリングレートを高め、ブッシュ類を強化。一方で前輪軸はスプリングレートを変えずバンプストッパーを硬くし、フロントシアパネルの厚みを2倍に強化することでより安定したステアリングフィールを実現する。この足まわりの改良により、路面に対するタイヤの追従性が大幅に増したんだな。
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結果的にもともと卓越していたフラットなハンドリング特性に磨きがかかった。さらにドライブモードにおける「トラック」モードと「スポーツプラス」モードとの違いが際立つことになったんだ。
トラックモードはアフターファイヤー音を炸裂させる、V8エンジンの化身モード。アクセルを踏み込めば爆音とともに3500回転付近で猛烈にシフトアップしていく。エンジン性能をフルスペックで引き出すスモーキーなビーストモードといえるはず(笑)。このモードは相変わらず最高なんだけど、今回の足回りの改変によりキャラクターをひき立てるのは「スポーツプラス」モードの方なんだ。これが看板車種であるDB11にも通じる、とてもアストンマーティンらしいドライブモードに仕上がっている。
舵角に対して自然な遊びを残しつつ、吸い込まれるようにカーブへ侵入。前荷重のままステアリングを切りこめば、フレームの強さが際立つグリップ走行が気持ちよい。足回りはしなやかでエンジンとフレーム、ブレーキが高いレベルで調和していて、一日中峠を走っていても飽きることがない。
それに、なんでしょうね。この色気。クルマがすべてのタイミングを伝えてくる感覚があり、タイヤの限界を越えて走ることへの柔らかな拒絶がある。それって真に偉大な人生の先輩、たとえばニック・ケイヴ(音楽家&作家)とドライブしているような感覚なのね(笑)。限界に近づこうとすると「(やるなとは言わないが)魅力的とは思えないね」とクールにコメントされる感じですよ(笑)。思わず「すごく熟成されましたね」とステアリングに向けて語りかけたくなるんだ。
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そして長いドライブを通じて感動させられていたのは、重心の捉え方に他ならなかった。ヴァンテージF1エディションは決して重いクルマではないんだけど、重心移動の様子がステアリングからつぶさに伝わってくる。機敏だけど軽くない手応え。正確にいうとその手応えをドライバーが感じられるように、残しているんだ。その「ヴァンテージ・ポイント」と呼びたい手のひらのグリップポイントこそがこのクルマの高級性能の集約点だということに気づかされる。
だからドリフト走行にしろ、グリップ走行にしろ、重心をかけていく瞬間に至上の喜びを感じられる。ノーマルモードで流していても、手のひらから存在そのものを感じ続けられるスポーツカー。「アストンマーティンをドライブする」とは成熟した寡黙さの価値に似ていて、とても骨太でエクスクルーシブな感覚の内にある。これもまた「とても英国的である」と表現せずにはいられないんだ。
アストンマーティン・ヴァンテージ F1 エディション
サイズ(全長×全幅×全高):4490×1952×1274ミリ
排気量:3982cc
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
最高出力:535ps/6000rpm
最大トルク:685Nm/2000~5000rpm
車両価格:¥24,500,000(税込)
問い合わせ先/アストンマーティン ジャパン
www.astonmartin.com/ja