<高層建築の課題を解決すべく、水平に展開する野心的なコンセプトが飛び出した>
世界一の高層建築であるドバイのブルジュ・ハリファ。その周囲を美しい円環の建造物で囲む、大胆なコンセプト案が出現した。もし実現すれば、大胆なデザインの高層建築でビジネスと観光客を惹きつけるドバイに、さらなる個性をもたらしそうだ。
コンセプトは8月、ドバイの建築事務所であるゼネラ・スペースが発表した。「ダウンタウン・サークル」と名付けられた環のなかに、都市や人工的な自然環境を構築する案だ。オフィスや商業施設などが入居し、住宅や公共施設なども整備される。環は全長3キロに及ぶ大規模なもので、内部を5層に区切って開発する。
この環を垂直な柱で支持し、ドバイ中心部の多くの高層ビルを上回る高さ550メートルに浮かべる計画だ。ブルジュ・ハリファの高さが829.8メートルなので、ちょうどその3分の2ほどの位置に相当する。おなじ環状の建造物との比較では、外周約1.5キロのペンタゴン(米国防総省本庁舎)や米アップル本社の倍の規模となっている。それを空中で保持するという大胆な構想だ。
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孤立する高層タワーへの課題意識
ゼネラ・スペースによると、斬新な形態のダウンタウン・サークルには、乱立する既存の高層建築の問題を解消したいという意図が込められているという。世界各地の大都市では高層ビルが次々と建てられているが、これらはそれぞれ独立した建造物となっており、その大部分は閉ざされた空間だ。住民やオフィス勤務者たちは建物内で多くの時間を過ごし、都市環境や自然から切り離された生活を送っている。
ダウンタウン・サークルはこうした問題点を解消するひとつのアイデアとして、一体となった巨大な都市を上空に展開するコンセプトを打ち出した。5層のうち1層は、スカイパークと呼ばれる広大な庭園になっている。人工的な森林のなかを遊歩道がめぐり、人々は歩いてほかのエリアへと移動できる設計だ。
パークでは自然光を浴びることができ、外壁越しにドバイの街並みを見下ろすこともできるという。コンクリートと砂嵐にまみれたドバイにあって、植物と新鮮な酸素に触れられる貴重な安らぎの場所となりそうだ。
最下層にはモノレール型の移動ポッドが吊り下げられ、環に沿って最高時速100キロで運行する。徒歩で行くには遠すぎる他地区へのスムーズな移動手段となるという。層として広がるスカイパークとあわせて、ダウンタウン・サークルでは水平方向への移動が容易となっている。垂直方向に展開し孤立してきた従来の高層ビルとは違った特性を実現するよう意図されているようだ。
実際に建築するのであれば、日本の感覚では既存の建物の日照権が問題となりそうだ。灼熱のドバイでは、市街地の日差しを遮るダウンタウン・サークルはむしろ好都合となるのだろうか。
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スカイライン一新の案にさまざまな反応
本案はコンセプトであり、現時点で具体的な建設計画は未定となっている。イメージを発表したゼネラ・スペースは、人々の議論を喚起することが目的だと表明している。
反応はさまざまだ。あまりに非現実的との声がある一方、壮大な建造物を疑似体験できるコンセプト案として価値があるなど、さまざまな声が飛び交っている。
米エスクァイア誌の中東版は、「ドバイのスカイラインを一変させる計画」だとして肯定的に報じている。著名建築サイトであるイタリアの「デザインブーム」は、「最先端のメトロポリス」だと評価した。
建築情報サイトの「アーキネクト」では、読者が激論を交わしている。ある読者は発表元がコンセプト・イメージを多く発表しているものの、過去8年間で建築に着手したひとつもないと指摘し、空想の産物だと揶揄している。
これに対し別の読者は、イメージ画像であっても価値があると反論した。この読者は、私たちの多くは世界の著名建築のほとんどを実際に訪れたことがなく、写真を通じて疑似体験していると述べている。コンセプト画像は同様の疑似体験を促すものであり、そこから思索を巡らせることに価値があるとの主張だ。
すでにユニークな建築が揃うドバイだが、もし実現すればひときわ目を引く存在となりそうだ。
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ダウンタウン・サークルのイメージ
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青葉やまと
フリーライター・翻訳者。都内大手メーカー系システム会社での勤務を経て、2010年に文筆業に転身。文化・テクノロジー分野を中心に、複数のメディアで執筆中。本業の傍ら海外で開かれるカンファレンスの運営にも携わっている。
※この記事はニューズウィーク日本版からの転載記事です。