老後資金の2000万円を準備するよりも、重要なことをご存じだろうか。それは「収入の範囲内で生活する力」だ。収入の範囲内で生活する力とは、爪に火を灯して節約するということでは、ない。「満足度を下げずに支出を減らす」ことができる家計のことだ。
コンパクトな生活を実現できていれば、自動的に経済的自由に近づくのだ。経済的自由とは何か? これをよく考えてみて欲しい。一般的には、資産収入だけで生活できることをいう。そういうと「資産収入だけの生活」に注目してしまう方がいる。しかし、よく考えて欲しい。資産収入で生活できる以前に、コンパクトな生活ができなければ、資産があっても経済的自由は手にはいらない。コンパクトな生活ができている人ほど、大きな資産がなくても経済的自由が手に入りやすくなるのだ。
つまり、満足できるコンパクトな生活ができるようになれば、老後資金を1億円貯めるとか2000万円が必須だとか、まったく関係なくなるということだ。さらにそれは能力がなくても誰でも必ずできることなのだ。
稼ぐためには、学歴や資格、仕事の能力などが必要だ。学歴は大人になってから取得するのはとても大変だ。生まれた家の家計にも影響されるので、あなたの力だけではどうにもならない。一方倹約は、やりさえすれば誰でも同じように結果を出すことができる。投資の方法を習うよりも、最も再現性が高い。支出を抑えてお金を貯めるのは、誰でもできることだ。
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貯蓄が必要ない人ほど貯蓄できている
「いくらあれば老後は安心して暮らせるでしょうか?」仕事柄、筆者はこのような質問をよくいただく。老後資金がいくら必要なのかは、人それぞれだから、万人に合う金額を設定するのは難しい。老後にいくら必要なのかを考えるよりも「毎月いくらで生活できているのかを知る」ことの方が重要だ。
毎月、ご夫婦で20万円くらいの金額で生活できていれば老後のお金はそれほど心配はいらなくなる。総務省統計局発表の『家計調査報告(家計収支編)2020年(令和2年)平均結果の概要』によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の実収入は、25万6,660円。手取りでは22万5,501円だ。
つまり毎月20万円で生活できていれば老後の生活費の不足額は必要ではなくなるのだ。月々の支出が少ない人ほど、老後に必要な貯蓄額も少なくなるのだが、皮肉なことに月々の支出が少ない人は貯蓄額も多くなる傾向が顕著だ。つまり、貯蓄する必要性が薄い人ほど貯蓄ができているということだ。
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ゆとりのある老後に必要な支出とは?
前述した通り、万人に共通する老後資産の金額を設定するのは難しいことだ。目安として必要な老後の貯蓄はいくらあればいいのか考えてみよう。まず老後の生活費を調べてみる。生命保険文化センターが行った意識調査によると、夫婦2人で老後生活を送る上で必要と考える最低日常生活費は月額で平均22.1万円となっている。
また、ゆとりある老後生活を送るための費用として、最低日常生活費以外に必要と考える金額は平均14万円となっている。必要な生活費と合算すると36.1万円になる。老後のゆとりのための上乗せ額はどんな資金なのだろうか。生命保険文化センター「生活保障に関する調査」によると老後のゆとりのための上乗せ額の使途は、下記のようになっている。
・旅行やレジャー 60.7%
・趣味や教養 51.1%
・日常生活費の充実 49.6%
・身内とのつきあい 48.8%
・耐久消費財の買い替え 30%
・子どもや孫への資金援助 22.4%
・隣人や友人とのつきあい 15.5%
・とりあえず貯金 3.7%
どれも必要と感じられる費用だ。老後資金を計算する時は、「ゆとりのある老後生活費」の36.1万円で計算しておこう。
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ゆとりのある老後資金は貯金だけでは難しい
年金はいくら支給されるのかは、前述した通り手取りで約22万円だ。旅行や人とのつきあいを考えた、ゆとりのある老後に必要なのは、月額で14万円だ。ゆとりの費用を計算するには、平均寿命ではなく平均余命で計算することを筆者はお勧めしている。なぜなら、寿命と余命は似ているが別モノなのだ。余命というのは、それぞれの年齢の人が、あと何年生きるのかを示した数字で、寿命というのは0歳の人の平均余命のことを指す。ちなみに厚生労働省のまとめによると、日本人の平均寿命は女性87.45歳、男性81.41歳だ。
夫婦の場合、女性の方が長生きだから妻の平均余命で老後資金を考えてみるといいだろう。65歳女性の平均余命は、24.63年だ。小数点以下を切り上げて65歳に足すと90歳となる。なので平均的な老後期間は25年となる。ゆとりのある老後生活費は14万円。これを老後期間の25年で計算すると14万円×12ヶ月×25年で、4,200万円となる。人付き合いや趣味や旅行の費用を考えると4,200万円は必要と考えられる。
4,200万円をすべて預金で準備しようとすると、かなりの負担になる。教育費の負担が軽減する50歳から準備すると15年、年間280万円ほどの貯金が必要になる。月額だと22万円。ゼロ金利の預金では、実現するのは難しい。ゆとりのある老後資金を考えると資産運用(投資)も必要になってくる。
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投資は経験がモノをいう
60歳で退職金を手にして、それを元に資産運用したいと相談をいただくことは多い。それでも筆者は、一度に投資することは、お勧めしていない。なぜなら投資というのは、基本的に経験がモノを言う世界だからだ。場数を踏んだ人には絶対にかなわない。株式市場が大きく変動することはよくあることだ。特に下落する時は、ナイアガラの滝のように急降下してしまう。
これは「損したくない」という人が我先にと株を手放すので株価が急降下してしまうのだ。逆に株価が上がる時は、様子をみながら少しずつ上昇していく。投資経験が長い人は、市場が大きく変動した時にも慌てずに対処ができ、資産を減らすことは少ない。
ところが経験が浅い人は、株価が急落する様を見て慌てて売却をしてしまうのだ。これを「狼狽売り」という。株式市場が暴落した時に絶対にやってはいけないのは「狼狽売り」だ。それを避けるには、市場の変動で失敗しても影響を及ぼさない金額で挑戦するしかない。よく言われる「余裕資金」で、はじめるということだ。退職金がすべて余裕資金といえる方は少ないのではないだろうか。
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現役時代に資産運用を始める
退職金を一括で資産運用に振り向けるのではなく、労働収入の一部を早くから資産運用に振り向けることだ。50歳からでも、十分に間に合う。退職金が1,500万円支給される予定ならば、余裕資金の4,200万円の内2,700万円を準備することになる。平均で7%で運用できれば、複利効果を期待して毎月8万4,400円くらいを資産運用したらいい。
もしも、パートナーが働いていないのならば、扶養の範囲内で働いたパート収入を運用できれば可能な金額だ。共働きならば、夫婦で折半したら月4万2,200円となる。万が一、失敗してしまったとしてもリカバリーできる。15年間投資できれば経験値としても十分だ。年金の収入くらいの20万円くらいで生活できる習慣ができていれば、老後の楽しみのための資金は十分準備できるのだ。
【執筆者】
川畑明美●ファイナンシャルプランナー 「私立中学に行きたいと」子どもに言われてから、お金に向き合い赤字家計からたった6年で2000万円を貯蓄した経験をもとに家計管理と資産運用を教えている。HP:https://www.akemikawabata.com/