靴の芸術品として知られるフランスのベルルッティ。伝統のヴェネチアレザーに宿る芸術的なカラーに世界中の紳士たちがどれだけ魅せられてきたことか。その卓越した職人技をビスポークで楽しめる、特別なサービスがある。
ベルルッティの創業は1895年。ブランドの象徴である革靴だけでなく、レザーグッズ、さらにはウェア類までトータルで展開している。実はベルルッティはウェアからシューズまで、身に着けるものすべてをビスポークで愉しめるサービスを備えている。数ヶ月に一度、パリから職人が来日した際に注文を受けるというこのサービス、コロナ禍の影響でしばらくストップしていたが、この夏からいよいよ再開したという。この規模のメゾンでは世界で随一といえるこのサービスの特徴やテクニック、オーダーの流れなどを紹介しよう。
まずは靴のビスポークから。「最初のミーティングが大事です」と来日したビスポーク専門の靴職人は話す。採寸だけでなく、どんなイメージの靴を望んでいるかを顧客から聞き出すことが重要だそう。普段、どんなライフスタイルを送っているか。スーツをよく着るのか? あるいはカジュアルが好みなのか? そうしたことを把握した上で、顧客に合ったモデルを提案するが、場合によっては新たにデザイン画から起こすこともあるそうだ。もちろん既存のコレクションや過去に製作したモデルをカスタマイズすることも可能だという。靴に自分のイニシャルを刻印することもできるし、ベルルッティならではな「パティーヌ」の色選びも自由。人気の「スクリット」「タトゥー」といったアレンジも自在に入れられる。
採寸は「マスターシューメーカー」と呼ばれる職人が、足の6〜10箇所を計測して行う。採寸後は、木型づくりだ。木型は「足のかたちに限りなく近いものをつくることが重要」と話すが、ベルルッティの靴は締め付けるのではなく、足に寄り添うことが基本だからである。実際に試着できるのは、2回目のミーティングとなる。仮の革でつくられた試着品を顧客が履き、表の革をカットして靴に収まった足の状態までチェックするという丁寧さ。そのうえで木型を再調整してから、型紙を起こし、本生産へと向かう。採寸から試着までは約3ヶ月、さらに完成まで約6か月、合計約9か月で世界にひとつだけの靴を手にすることができる。
続いてウェア類のビスポークについて紹介しよう。まずはどんなものがオーダーできるかを聞いてみた。
「コート、スーツ、ジャケット、ベスト、シャツ、パンツ、スポーティなブルゾンまで、メンズの服であればどんなものでもできますよ。」と来日したテーラリング職人は話す。ベルルッティがウェアのビスポークを始めたのは2012年から。「右岸のエルメス、左岸のアルニス」と称された、老舗メゾンのアルニスを傘下におさめてからだ。アルニスの創業は1933年。コクトー、ピカソ、サルトルなどの有名人が通った伝説のメゾンで、職人たちはそのまま残り、ベルルッティのビスポークに携わっている。彼らの技術を駆使したスーツやジャケットはもちろん、建築家ル・コルビュジエがアルニスに依頼した「フォレスティエール」と呼ばれる特別なジャケットまで注文することができる。
顧客の要望に応じてどんなアイテムでもつくれるというが、たとえばスーツで「ベルルッティモデル」と言えるものはあるのだろうか。
「特別にこれというデザインはないのですが、強いて言えば、私たちのスーツは腰の位置が高めで、着た人をスマートに、背が高く見せるように仕上げるのが基本です」と話す。また、イギリス流の構築的な仕立てでありながら、イタリア流の軽さも併せもつ。スーツ内部の芯地も馬の毛を使用。縫製もすべて手作業で、約3万個のステッチが施される。ボタンホールも手縫いで、使われる糸はシルク。まさにノーブルなビスポークではないか。
靴の場合同様、初回のミーティングが重要だと職人は話す。顧客がどんな服を望み、どんなライフスタイルを送っているかを徹底してヒアリングする。次のステップが採寸だ。採寸は、専門の「マスターテーラー」と呼ばれる職人が行う。肩幅から脚の長さまで20箇所以上を計測し、その後、デザインの相談や膨大なサンプルの中から好みの生地を選んでいく。
このミーティングを経た後、型紙やアイテムの制作はすべてパリのアトリエで行われる。途中、仮縫いによるフィッティングを2度行い、完成するまでには約3ヶ月を要するという。
「ビスポーク」とは、「be -spoken」に由来するという説がある。顧客と職人がコミュニケーションを取りながら、ひとつのものをつくり上げていく作業だ。ベルルッティが行っているオーダーのサービスは、まさにこれだ。しかもそれを、日本にいながら味わうことができる。これも同ブランドの素晴らしいサービスのひとつではないだろうか。
問い合わせ先/ベルルッティ・インフォメーション・デスク TEL:0120-203-718
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