エルメス一夜限りのナイトクラブ「テクノ・エケストル」と、極上リビング空間でギネスビールを楽しむ「Dream’ん」を振り返る
TRIP#4 YOSHIROTTEN×NORI対談

  • 編集:穂上愛
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©Yasuyuki Takaki

グラフィック・空間・映像・アートピースなど、さまざまなアプローチで制作活動を行うアーティストYOSHIROTTEN。

この連載では「TRIP」と題して、古くからの友人であるNORI氏を聞き手に迎え、自身の作品、アート、音楽、妄想、プライベートなことなどを織り交ぜながら、過去から現在そしてこれからを、行ったり来たり、いろんな場所を“トリップ”しながら対談します。

エルメス2022年秋冬コレクションの世界観を伝える、一夜限りのナイトクラブ「テクノ・エケストル」

NORI イベント盛りだくさんだった6月。お疲れ様でした。ヨシローくんのイベント、僕も自分で見れたものと、見れてないもの両方あるので。今日は振り返りながら、あれが楽しかったこれが良かったとか、話せればなと思ってます。

6月頭に開催されたエルメスの一夜限りのイベント「Techno Equestre(テクノ・エケストル)」。僕、行けなかったんですけど。これはどんな経緯で?

YOSHIROTTEN 僕が初めてエルメスと仕事したのが、2019年の「RADIO HERMÈS」なんだけど。原宿を拠点にラジオをテーマにした、1カ月のイベントでした。そのイベントでは空間デザイン、アートディレクションをやってものすごく良い経験になった。そこから表参道のエルメスがオープンするときのビジュアルをやらせてもらったり、パリやロンドン、最近だとベネチアのイベントへ招待してもらったりファミリーのような関係性を築けてとても嬉しい。

そんな流れで、また声をかけていただいて。今回は、「テクノ×乗馬」をテーマに一夜限りのイベントをしようという企画。2022−23年秋冬シーズンの「テクノエケストル」というテーマのウィメンズコレクションを、ショーとは違うスタイルで紹介する内容。

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©Yasuyuki Takaki

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©Yasuyuki Takaki

NORI 「 Equestre(エケストル)」っていうのは乗馬って意味なんですね。

YOSHIROTTEN そうそう。「テクノクラブ」と「乗馬クラブ」のふたつを混ぜるっていうイベントで、それを聞いたときに、もうやりたいって思って。受けさせてもらいました。

NORI この言葉やテーマはブランド側ですでに決まっていて、そこからヨシローくんが膨らませたり、ビジュアルつくったりしたんですね。セットもつくったんですか?

YOSHIROTTEN 最初はインビテーションのデザインだけだったのが最終的に空間デザイン、アートディレクションまで関わることになった。

「テクノ」と「乗馬」をテーマにしたビジュアルで、カセットテープをインビテーションにするっていうアイデアもすでにお題にあったんだよね。テープに入っている曲も、ランウェイミュージックの巨匠、フレデリック・サンチェスが手掛けるということも決まってた。

カセットテープの生産自体はこっちで進めて、原宿のテープ屋さんで、透明のカセットテープをセパレートにして、何個生産できるか?最低400〜500個からの生産になるとかっていう話を進めたり、そこからグラフィックはどうしよう?とか、馬とテクノの要素を入れる、あとはタイポグラフィをどうやって入れていくか?とか。あとは今回のコレクションの柄をどうやって入れていくか?っていう設計を考えていった。

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YOSHIROTTEN カセットテープのケースがあって、それを外してテープを抜くと、インビテーションが入っている。今回はそういうレイヤーになったデザインをつくりたかったから。

カセットテープのケース、テープ、インビテーション。それらがすべて透けて見える、三段階になっているデザイン。そのプロトタイプをエルメスの本国のチームに見せたら、すごく気に入ってくれて、イベントの空間のデザインのオファーをもらったんだ。

会場のベースのレイアウトはすでに決まっていたんだけど。そこから会場に行って「具体的になにをやろう?」って。
“テクノクラブ”っていうのも僕が昔からずっと居る場所だから、そこでどうやってお客さんを楽しませるか?っていうのは、自然に考えられた。

NORI 話を聞いてたら、行きたくなってきた(笑)。

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「テクノ・エケストル」のインビテーション。

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楽曲は「乗馬」と「テクノ」をテーマに、フレデリック・サンチェスが担当。

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©Yasuyuki Takaki

YOSHIROTTEN この場所は、東京オリンピックのときに作られた、ランニング施設(※新豊洲Brilliaランニングスタジアム)なんだけど。元々、馬小屋みたいな建物で、天井の大きな屋根部分も木で組まれていて。会場とイベントの親和性があって、いいなって。

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©Yasuyuki Takaki

YOSHIROTTEN 入り口にイベントのロゴをネオンで入れて。会場へ入っていくと、さらに奥へと誘うようにLEDが点滅していて。メイン会場の天井には乗馬で使う障害物のポールをイメージしてつくった照明を吊るして。このエルメスの今季のコレクションで使っているカラーを選んで全体的に散りばめた。

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©Yasuyuki Takaki

YOSHIROTTEN 巨大なカセットテープの形をした巨大ソファを、アクリルでつくって。黒いアクリルでつくっているんだけど、そこまで主張はしないんだけど、光が動くと、「あれ?カセットテープ?」って気づくような仕掛けにしていたり、こっちは超巨大なLEDに、今回のイベントのテーマになっている、エルメスのカレの柄を投影して、VJ的に扱ったり。
バーカウンターには、手前から奥へネオンの馬が走って、ポールが点滅していくっていうデザインにしたり。こっちは現物のカレを展示して、じっくり見れるソファ席。

NORI 改めて聞くと、施工が大変そうですね。

YOSHIROTTEN 一夜のために、4日間の施工でみんなで作りあげました。

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©Yasuyuki Takaki

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YOSHIROTTEN ソファー席の足元には牧草を敷いたり、巨大な馬小屋のなかでテクノイベントをやってるようなイメージでつくった。素晴らしいダンスショーの後にはサプライズで本物の馬も登場したんだよね。

NORI 製作途中にヨシローくんから話は聞いてたけど、いろんなことがあったんですね。

YOSHIROTTEN 今回はコンセプトを、平面から立体までトータル的に見せられることができた。
あと今回、ショーをやるステージと、馬が登場するステージの転換を1時間でやらないといけなくて。当初は転換に3時間はかかるって言われてたんだけど、実際は40分でバラしてた。すごい日本のパワー。

NORI へー!

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メインステージでは、2022−23年秋冬コレクションをまとったモデルたちが登場。ダンスパフォーマンスと舞台演出はMIKIKOとRhizomatiksが担当した。©Yasuyuki Takaki

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©Yasuyuki Takaki
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©Yasuyuki Takaki


YOSHIROTTEN あとおもしろかったのは、このタイミングで、海外の人たちも少しずつ日本に来れるような状況になっていて、ちょうどパーティも開けたタイミングだったから。あんなに大勢の人が集まって、楽しんでっていうことが、何年ぶりかにできたなぁと。

NORI レインボーディスコクラブに続き、日常が戻ってきたっていうか。

YOSHIROTTEN そうだね。

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極上リビング空間でギネスビールを楽しむイベント「Dream’ん」

NORI 6月頭にエルメスのイベント、そこが一段落してから、6月中旬には、ギネスビールのイベント「Dream’ん」もあって。平行してましたね。

YOSHIROTTEN そう。平行していて。本当はギネスのほうが早くて、5月の末の予定だったんだけどね。

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©Shuhei Kojima

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©Shuhei Kojima

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©Shuhei Kojima

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NORI ギネスのほうは、青山のスパイラルホールで「んoon(ふーん)」っていうバンドを招待してました。ヨシローくんはどのくらいの段階のアイデアから、関わってたんですか?

YOSHIROTTEN 企画自体が、「クリエイターとクラフトする」っていう企画で。何人かのアーティストたちと、“五感”をテーマに、香りのアーティストだったり、味のアーティストだったり、そういう人たちとコラボレーションしていて。その企画の最後に、ギネスを楽しむ空間をつくって、そこでイベントをやりますっていうことだけは決まってて。そのコラボレーターとして依頼があった。

NORI なるほど。

YOSHIROTTEN なにをするか?どこでやるか?何日間やるか?みたいなところから、やりたいことを考えはじめて。まずは僕がギネスを飲んで、なにを考えるか?っていうところから、自由にやらせてもらった。

「Chill In Guinness」っていうのがキャンペーンのテーマで。ギネスって、飲んでいる層の年齢層がわりと高めで、渋くて、いわゆる黒ビールっていうイメージがあるけど、新しい世代だったり、まだ飲んだことがない人たちだったりに、ギネスの良さを伝えたいっていう、ギネスのブランド側の思いがあって。

ギネスって、居酒屋でガブガブ飲むようなビールとかではなくて、家帰って、Netflixを見ながらとか、一人で過ごす時間に合うようなビールなんじゃないかなっていうのが、ギネス側にあったみたいで。そういうのをイベントでは押し出して行きましょうっていうところから「Chill In Guinness」っていうテーマが決まったそう。

NORI なるほど。

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©Tomohiro Takeshita
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YOSHIROTTEN 僕もそれを聞いたときに、たしかに自分もギネス飲むときは、ひとりでバーで飲んだり、家でゆっくりしているときだったり、そんな感じだなと思って。
ギネスを改めて自分で飲んだときに、クリーミーな泡と、缶のなかに白い球が入っていて、それを見たときに、泡が雲みたいで、球が惑星みたいだなって思って。

NORI あの球ってなんなんですか?

YOSHIROTTEN ビールの味をまろやかにするみたい。「フローティング・ウィジェット」っていうんだけど。
あとギネスビールの「黒い」イメージを払拭したいって言ってたから、イベントでは鮮やかなイメージを使ってもいいんじゃないかなって考えたり。

ギネスのパッケージにはハープが使われていて、ギネスといえばハープだな、と。ちょうど半年くらい前にライブのフライヤー作った「んoon」のことを思い出したんだよね。4人編成で、メンバーにひとりハープ奏者がいるんだけど。ライブを見て、めちゃくちゃ好きになってたから、どうにかできないかな?って思って。

ちょうど茨城で「んoon」がライブをやってたから、ギネスを飲んだイメージを持ったまま、とくに連絡もせず、ひとりで行ったんだよね。ライブを見て、今回のイベントにめちゃくちゃ合うって確信した。その後、一緒にイベントをやりたいと「んoon」に連絡したら、ぜひと言ってくれて。


NORI なるほど。

YOSHIROTTEN そこから2カ月くらい、「んoon」とやり取りを続けてた。僕がイメージをつくって、「んoon」が音で返す。そのバック・トゥー・バックみたいなことをやって、僕は16枚のアートワークをつくって、「んoon」が1時間におよぶ楽曲をつくって。そのあと、場所が青山のスパイラルに決まって、その曲を会場で流そうと。
イベントは、本当は1日限定じゃなく、4日間くらいやりたかったんだけど。
空間は“究極のリビング空間”みたいなイメージで、ゆったりとギネスを楽しめるようなイベントにしませんか?と提案して、進んでいったんだよね。

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©Shuhei Kojima

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©Tomohiro Takeshita

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©Tomohiro Takeshita

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©Shuhei Kojima

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NORI 7インチ配ってましたよね。

YOSHIROTTEN うん。7インチは、せっかく音もつくったしと思って、僕と「んoon」の自主制作という形でつくったんだけど。知り合いのDJだったり、レコードを好きな人たちに配っただけなんだけど。

僕はそこが結構、大事なところで、プロダクトがあるっていうのは、ただイベントだけで終わらないから、ずっと楽しめるし。イベントに来れなかった人たちも、YouTubeで1時間の動画と音楽が楽しめるようになっていたり、SpotifyとかAppleMusicで、コラボ楽曲をリリースしたり。
イベントのあった1日だけじゃなくて、そのあとも続いていくように。いろんな人に家で、楽しんでもらいたいなって思って。

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YOSHIROTTENと「んoon」の自主制作で、限定的に配られた7インチレコード。

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NORI 1時間に及ぶ楽曲をつくったんですね。

YOSHIROTTEN そう。実際は会場に合わせて、40分ちょっとにしてもらって。

NORI ライブで演奏してたのは、別の曲ですか?

YOSHIROTTEN ライブでは自由にその空間に合わせて演奏してもらった。

NORI 「んoon」のライブすごく良くて、びっくりしました。

YOSHIROTTEN めちゃめちゃいいでしょう? タイトルは最初「Dreamin‘」で僕が提案したら、商標を取ってるとかで、できないって言われて。それで「んoon」の“ん”を使って、「Dream’ん」って、なんかよくわかんない言葉にしたんだよね。そしたらすごいハマった。「んoon」と一緒にやった感じも出るし。

NORI 空間の生かし方もカッコよかったですね。会場で流してた映像もすごいきれいでびっくりしました。

YOSHIROTTEN この映像を流してたプロジェクターは、3万ルーメンっていう、日本で最強のプロジェクターを使った。RAYさんありがとうございました。

あと僕、青山のスパイラルっていう場所が、学生の頃からの憧れの場所っていうか。有名なグラフィックの人たちが、よくここで大きい展示とかやってきているのを見てきていたから、今回のイベント用のフラッグ(※スパイラルの入り口に掲げられていた)を見たときは嬉しかったなあ。

NORI この日は、すごいよかったです。僕はすごいいい思い出になりました。

※TRIP#5に続く

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YOSHIROTTEN

グラフィックアーティスト、アートディレクター

1983年生まれ。デジタルと身体性、都市のユースカルチャーと自然世界など、領域を往来するアーティスト。2015年にクリエイティブスタジオ「YAR」を設立。銀色の太陽を描いた365枚のデジタルイメージを軸に、さまざまな媒体で表現した「SUN」シリーズを発表し話題に。24年秋に鹿児島県霧島アートの森にて自身初となる美術館での個展が決定。


Official Site / YAR

YOSHIROTTEN

グラフィックアーティスト、アートディレクター

1983年生まれ。デジタルと身体性、都市のユースカルチャーと自然世界など、領域を往来するアーティスト。2015年にクリエイティブスタジオ「YAR」を設立。銀色の太陽を描いた365枚のデジタルイメージを軸に、さまざまな媒体で表現した「SUN」シリーズを発表し話題に。24年秋に鹿児島県霧島アートの森にて自身初となる美術館での個展が決定。


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