“濃い” 情報ばかりが拡散される、SNS社会に警鐘を鳴らす

  • 文:武田砂鉄(ライター)
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【Penが選んだ、今月の読むべき1冊】
『デマの影響力 なぜデマは真実よりも速く、広く、力強く伝わるのか?』

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シナン・アラル 著 夏目 大 訳 ダイヤモンド社 ¥2,420
シナン・アラル●著者のシナン・アラルは科学者、起業家、投資家。MITの経営学、マーケティング、IT、データ・サイエンスの教授。フェイスブック、ヤフー、ツイッター、リンクトイン、スナップチャットなどと連携して研究活動を続ける。

自分が学生の頃、学校で友達と別れると、翌朝まで連絡を取り合う機会はほとんどなく、つまり、友達の意向に影響されることはなかった。当時、そんな自覚はなかったが、部屋で一人、自分が何を考えていて、何に悩んでいるのかを見つめるしかなかった。

いまはもう、これが難しい。こうして原稿を書いている最中にもスマホに最新ニュースが飛び込んでくるし、急ぎのメールを確認している。自分の考えが、本当に自分の考えなのかどうかと問われるとなかなか怪しい。自分の考えを他人に管理されている、とまでは思わないが、確実に侵入してくるし、その侵入を嫌がってもいない。アルゴリズムで自分用に提示される情報が、どんどん精度を上げ、心地よい状態で届く。

MIT教授であるシナン・アラルがソーシャルメディアによるリアルタイムコミュニケーションが生む問題点に迫った本書は、旧聞の議論も多いが、なぜこのような状
態がつくり上げられたのか、問題の根っこを捕まえている。集団的知性の基礎となるのは「独立、多様性、平等」だが、ソーシャルメディアは「この三本の柱を腐食させ、知を狂気に変えることが多々ある」とアラルは言う。

フェイクニュースの拡散は、事実を知らせるニュースよりスピードが早く、多くの人がフェイクだと気づいてもそのままネット空間を漂う。トランプ前大統領の振る
舞いが象徴的で、フェイクニュースをばら撒きつつ、自分への批判を「フェイクニュース!」と断じる手法は、支持者を熱狂させた。

日常的なコミュニケーションも民主主義のあり方も、デマが歪ませている。事実より味付けの問題になってしまう。濃ければ濃いほど、「うまいうまい」と食べてしまう。「これじゃ、ネタとして薄い」。なんか最近どこかで言われた記憶がある。情報に溺れる社会、どこへ向かうのだろう。

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※この記事はPen 2022年9月号より再編集した記事です。