関連し合う世界を捉える、李禹煥の軌跡と最新作
1960年代末に日本で始まった美術の動向「もの派」を代表する美術家で、近年もグッゲンハイム美術館、ヴェルサイユ宮殿、ポンピドゥー・センター・メッスなどでの個展で世界の注目を集める李禹煥。代表作が会する展覧会が東京で開幕する。
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一枚の鉄板、ひとつの石、ひと筆のストローク。素材の選択や構成を最小限にとどめ、「自己を最小限に限定することによって最大限に世界と関わりたい」との姿勢を貫いてきた李禹煥(リウファン)。自らの活動を本人はいま、こう振り返る。
「孤独に闘ってきました。大変厳しい、難しい、つらい道のりだったことには間違いありません」
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60年代後半から70年代初め、世界は大きなうねりの中にあった。
「出来上がった近代社会への懐疑が高まり、既成概念を一度打ち壊して新たな地平を探りたいとの考えでした」
その当時、もの派に至る前の初期作より、今回の大規模個展の会場はスタートする。会場で最初に目にできるのは、68年制作の平面作品。ピンク色の蛍光塗料が空間を染めるかのような錯視効果をもたらす三連画だ。
「私が現代美術に足を踏み入れた時期のものです。見ることの不確かさや曖昧さを提示し、絵画ではありますが、空間を表すものでもありました」
李の代表作となった「関係項」シリーズの誕生も同年のこと。
「もの派は、それまでの近代美術と異なり、つくらないものを表現の場に導入する動きで、ほとんど手を加えていない石、木、土など既にそこにあるものを再提示する試みでした。そのなかで私が見出したのが、外部や他者を作品に引き入れることです」
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70年代には、行為の痕跡で時の経過を表す絵画も発表。80年代には荒々しい筆致の作品を発表するが、2000年代に入るとストロークはわずかになっていく。
「描写と空白が響き合うことで大きな広がりを感じさせられないかと。有限である人間の存在でどう無限を表現できるのかを探り始めたのは90年前後でしたが、他者や外部との関係のなかで無限が現れると考えました」
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昨今の絵画には新たな色彩も加わるなど、果敢な探求のなかで開かれてきたさまざまな関係性。その活動と切り離せないのは、「人間の生命のありよう」と語る身体への視点だ。制作においても、キャンバスを床に置いて全身で覆いかぶさるように描く方法を貫く。
「こうすることで作品に身体が入り、自分が動くことでなにごとかが起こる。自らの意識よりも遙かに大きな関わりがそこには生じる。未知とつながっているのがまさに身体なのです」
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鮮烈な初期作品から精神性の高い近年の作品まで、約60年間の彫刻、絵画の作品を時系列で紹介する本展。展示構成も李自身が手がけており、「作品は、外界と内面の刺激的な出合いの場でありたい」と述べる作家の考えが、美術館空間とどう響き合っているのかも興味深い。展示室の壁に直に描くウォールペインティングも含み、展示の締めくくりでは新たな境地を示す最新作を披露。屋外でも大型彫刻が2作品、紹介されている。
いずれも、「作品は、外界と内面の刺激的な出合いの場」と述べる作家の長きにわたる闘いの軌跡であり、その全身から発せられてきた。私たちが、それぞれの身体で受け止めることを待つ作品なのである。
『国立新美術館開館15周年記念 李禹煥』
開催期間:8/10~11/7
会場:国立新美術館
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10時~18時 ※金、土は20時まで、入場は閉館30分前まで
休館日:火曜日
料金:一般¥1,700
https://leeufan.exhibit.jp
※この記事はPen 2022年9月号より再編集した記事です。