【Penが選んだ、今月の音楽】
『ソー・アイヴ・ハード』
J・ラモッタ・すずめの新作『ソー・アイヴ・ハード』は、これまでさまざまな音楽文化を吸収して作品を仕上げてきた彼女のひとつの到達点を思わせる。
イスラエルのテルアビブに生まれ、アラブ音楽を聴いて育ち、やがてボブ・マーリーに開眼。その後はジャズに興味をもってジャズスクールに通った彼女は、自身のオリジナルを求め、ドイツのベルリンに向かう。多様な文化が交錯するこの都市で、音楽制作のインスピレーションを得たのだろう。ベルリン発のデビュー作で、注目を集めることになった。
全編母国語であるヘブライ語を軸につくられた本作は、彼女がこれまで聴いてきた音楽をいかに糧にして、オリジナルをつくり上げたかがうかがい知れる内容だ。
レゲエ、R&Bなどのリズムトラックに、緩やかなメロディライン、親しみやすく打ち解けた歌の表情や、リラックス感を誘う温かみのある歌声等々。生み出される音から伝わる個性に磨きがかかっている。音楽シーン全体の流れの中では、まだまだインディペンデントな存在ではあっても、彼女ならではの存在感が発揮されている。
また本作で気付いたのは、彼女はなかなかのメロディメイカーであることだ。各曲は微妙に変化し、聴き手を飽きさせない。シンガー、ラッパーとしてだけでなく、ギターなどの楽器演奏のほか、ビートメイカー(リズムトラックを制作する人)までこなす多才な肩書よりも、音楽創作の基本であるソングライティングが印象に残るということは、彼女がもつ“音楽を生み出す力”の証明であると思う。
気になる「すずめ」という名前は、日本人の友人に教えてもらった言葉だそう。雀を救った経験や、ヘブライ語で雀とは自由を意味する言葉でもあることから名付けたようだ。自由に羽ばたくすずめさんは、さらに進化していきそうな予感がする。
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※この記事はPen 2022年9月号より再編集した記事です。