BMWの「アートカー」を知っていますか?
BMWは5月末にコンテンポラリーアート界の雄、ジェフ・クーンズが手がけた「M850i XDriveグランクーペ」を発表しました。コンテンポラリーアートと自動車のコラボレーション。BMWにしかできない世界がここにはあります。

1975年のル・マン24時間レース。ここにド派手なBMW3.0CSLが出場しました。ドライバーはフランス人エルヴェ・プーランをはじめとする3人。残念ながら途中でリタイアとなりましたが、このド派手なレーシングカーがBMWアートカーの始まりでした。ド派手な外観を手がけたのはアメリカの彫刻家アレクサンダー・カルダー。ドライバーのプーランがカルダーに個人的にお願いし自ら操るマシンの外観をデザインしてもらったのでした。サーキットを走るカルダーデザインのレーシングカーは特別な存在感を示し、多くの観客にインパクトを与えました。
そして77年。BMWのツーリングマシンは320へとモデルチェンジをします。そのデザインを引き受けたのはポップアートの大巨匠ロイ・リキテンスタイン。トレードマークである「ベン・デイ・ドット」が施されたマシンは、ル・マン24時間レースでクラス優勝、総合9位という快挙をなしとげます。しかもこのマシンを操ったドライバーは、初代アートカーを考案したエルヴェ・プーランでした。
そして79年には、アンディ・ウォーホルが、BMW最新鋭のミドシップスポーツモデル、BMW M1のデザインを手がけます。これまでのアーティスト同様、自ら筆を握り約6kgの塗料を使って、わずか28分で車両にペイントを施しました。「視覚的なスピードを表現した」と語るこのペイントは独特で、描き終わった後に「I love that car. It has turned it better than the artwork.(僕はあのクルマを愛している。アート作品よりいい)」と残すほど満足していたようです。ル・マンでもその速さを証明。最終的には総合6位という好成績を残しました。
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その後、BMWのアートカーはレースカーだけなく、市販車やプロトタイプカーにも広がっていきます。世界中のアーティストと1台限りのコラボレーションによって生まれる特別なBMW。なかには、1990年式BMW535iと日本人アーティスト加山又造による作品など。その世界はどんどん広がっていったのです。いままでに制作されたアートカーはデイヴィッド・ホックニーやオラファー・エリアソンの作品も含め、全19台。今後も不定期で増えそうです。
最初に紹介したジェフ・クーンズは2010年にBMW M3 GT2のアートカーを作成しています。実際には「THE 8 X JEFF KOONS」は、1台限りの「アートカー」ではありません。BMWの純正色を使い、99台の限定市販モデルです。純正色を厳密に使用している理由は、ぶつけてしまっても補修が可能ということでアートカーとは違います。ただし、こうして40年前からアーティストに敬意を払い、ともにコラボレーションを続けてきたBMWでないとできないモデルであることは確かです。「過去のアーティストの参加がなければ、ここまでのアーティストとコラボレートした特別モデルを制作することは難しい」。そんなことを考えさせられました。

『Pen』所属のエディター、クルマ担当
1970年、東京都生まれ。日本大学卒業後、出版社へ。モノ系雑誌に関わり、『Pen』の編集者に。20年ほど前からイタリアの小さなスポーツカーに目覚め、アルファロメオやランチア、アバルトの60年代モデルを所有し、自分でメンテナンスまで手がける。2019年、CCCカーライフラボよりクラシックカー専門誌『Vマガジン』の創刊に携わった。
1970年、東京都生まれ。日本大学卒業後、出版社へ。モノ系雑誌に関わり、『Pen』の編集者に。20年ほど前からイタリアの小さなスポーツカーに目覚め、アルファロメオやランチア、アバルトの60年代モデルを所有し、自分でメンテナンスまで手がける。2019年、CCCカーライフラボよりクラシックカー専門誌『Vマガジン』の創刊に携わった。