近年、日本の西洋美術コレクションが海外で注目を集めている。日本のコレクターたちの厚き情熱と審美眼によって集められた美術品は、いま日本各地に貯蔵されている。海外の美術関係者たちが注視する質の高い名作絵画がどこに潜んでいるのか……。ヨーロッパでアートの現場で活躍する下記3名のコメントを交えながら、東京・竹橋にある東京国立近代美術館を訪れた。
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都心にありながらも、皇居や北の丸公園、千鳥ヶ淵に囲まれた自然豊かな環境に立つ東京国立近代美術館。19世紀末から現代までの近現代の美術品(絵画、彫刻、写真、映像など約13000点)を収蔵する。会期ごとに厳選された約200点を展示する所蔵作品展『MOMATコレクション』には、日本美術の名作とともに、西洋美術の傑作も数多く紹介され、常にチェックしたい内容だ。
カーンは「大好きな日本には11回訪問していますが、次回はぜひ東京国立近代美術館を訪れてみたい。自分の専門であるボナールの新収蔵作品や他の所蔵コレクションもぜひ見てみたいです」と感想を述べる。ピカソやマティス、パウル・クレーなどを所蔵するが、ペランも、ピカソの有名なドキュメンタリー映画『ミステリアス・ピカソ 天才の秘密』(1956年)に登場する大作がここ東京国立近代美術館に所蔵(現在は貸し出し巡回中)されていたことに心を揺さぶられたようだ。
本館は4500㎡の展示スペースを有し、所蔵品ギャラリーでは年に3~4回、テーマに基づいた所蔵作品展が開催される。また1階の企画展ギャラリーでは年に数回、企画展を開催。現在同時開催中の企画展『ゲルハルト・リヒター』と併せて、近現代美術の世界に飛び込んでみたい。
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パウル・クレー『花のテラス』
「色彩と線の魔術師」と称されるクレー。スイスのベルン郊外に生まれ、両親の影響で音楽の道に進むが、1898年以降、絵画に転向。1914年のチュニジア旅行を転機に、クレー独自の色彩と線の作品を構築していった。「線描を主体とし、どの線を描くと縦の線に運動感が出るか、どのような感覚になるのか、線の重なりが立体的になるかなどを研究している」と同館主任研究員の成相肇は解説。クレーの作品は、油彩6点、版画9点を所蔵する。写真の作品は所蔵品ギャラリー4階にて展示中。
パブロ・ピカソ『ラ・ガループの海水浴場』
1956年、アンリ・ジョルジュ=クルーゾー監督が映画『ミステリアス・ピカソ 天才の秘密』を南仏ニースで撮った際、ピカソがカメラの前で描いた作品の第一作だ。横長の画面にビーチや人、カフェテラスなどが次々に描かれ、夜の場面では月や流れ星などが描き足され、その制作を記録するようにピカソの創作の秘密に迫っていく。この映画を実際に撮影したのは、今回コメントをいただいたソフィー・ルノワールの父、クロード・ルノワール撮影監督だったという。作品は現在貸し出し巡回中で、9月17日(土)から2023年1月15日(日)までポーラ美術館、2023年2月4日(土)から5月28日(日)までひろしま美術館で開催される『ピカソ 青の時代を超えて』展に出品の予定。
ピエール・ボナール『プロヴァンス風景』
今回の特集で、この新収蔵作品ほど注目された作品もない。カーンは、「この風景はボナールが1922年に発見し、4年後に家を購入したコート・ダジュールの村、ル・カネの高台の風景を表しているのでしょう。黒と黄色の縞模様の空に覆われた田園風景のようにも見える。現実と叙情と抽象の間で、絵画は自然の理想的なビジョンを表現しています」。画家でもあるペランは「ボナールの色彩、現実を再構築する方法に嫉妬することも。ボナールは『芸術作品とは時間の一時停止である』と言っていました」
東京国立近代美術館
場所:東京都千代田区北の丸公園3-1
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10時〜17時(火~木、日、祝) 10時〜20時(金、土) ※入館は閉館30分前まで
休館日: 月 ※祝日の場合は開館、翌平日が休館に 展示替期間 年末年始
料金:一般¥500
www.momat.go.jp
新収蔵&特別公開│ピエール・ボナール《プロヴァンス風景》
所蔵作品展「MOMATコレクション」
会期:開催中~10/2
※休館日、開館時間、展示される作品は変更の可能性があります。訪問する場合は事前に公式サイトなどでご確認ください。
※この記事はPen 2022年9月号「レンジローバーで走れ!」の第2特集「日本で見る西洋絵画の名作」より再編集した記事です。