レンジローバーは豊かな生活を演出する魔力が備わっている。フランスに暮らし、親子3代でレンジローバーに乗るオーナーに話を訊いた。
「レンジローバーが生まれた翌年、1971年に私は生まれました。クルマ好きだった父は、その頃にはもうレンジローバーが欲しくてたまらなかったそうですが実際に手に入れたのは、その20年近く後のことでした。それがこの89年型の2ドアです」
パリ郊外、セーヌ川に浮かぶ島上の閑静な住宅街にあるジェローム・カッサンの自宅には2台のレンジローバーが並んでいる。89年型のレンジ(ローバー)・クラシックは昨年亡くなった父から受け継いだものだ。
「実は私も父から遅れること10年後に、89年式のレンジ・クラシックを買ったのです。当時、我が家にはジープとミニがあったのですが、幼い子どもが3人いてどちらのクルマでも不便でした。『チャイルドシートを3つ後部座席に並べられるクルマってなんだろう』と妻と話していた時に『そうだ!父と同じレンジだ』と気付いたのです。後部座席がフラットなベンチシートだし、車体全体が四角くて無駄なスペースがなく、チャイルドロックをすれば子どもが内側から開けることができない。これ以上のクルマはない、と思ったのです。父が亡くなって、同じクルマが2台になったので私の乗っていたクルマは弟に譲り、父のクルマを私が継ぎました」
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その後、友人から2002年式の3代目レンジローバー・ヴォーグを譲り受け、行き先や目的によって2台を乗り分けている
フランス国内の家族旅行や、男同士、親子で長距離ドライブに出るときは、エンジンが静かで乗り心地もよい新しい「ヴォーグ」が活躍。そして毎年8月に恒例行事としているノルマンディへのキャンプの時は、テントや寝袋、キャンプ用品をトレーラーに積み、牽引していく。田舎町から田舎町へとキャンプ場を転々とする旅だ。
一方、自宅近くのセーヌ河畔で遊ぶときは、愛着のあるクラシックの出番だ。トレーラーでボートを牽引。暑い日には、水上スキーを興じることも。シンプルにクルマの屋根の上に、カヌーを積んで、川に出かけることもある。
2台に共通するのはLPGも使えるように改造したこと。ハッチを開けると、荷室には大きなガスタンクが横たわっている。
「レンジが生まれた時代と違い、現在は環境に配慮して乗ることが大事な条件だと思います」
カッサンのクルマ好きを受け継いだのは3人いる子どもの次男、大学生のアルチュール。休日には父と子でメカ作業に没頭する。
ファイナンス関連の仕事に就く多忙なカッサンにとって、週末は息子と工具を持ち、4台のクルマと過ごすことがリフレッシュにつながっている。
次に欲しいクルマを訊くと「もちろんまたレンジローバー」とカッサンは即答。だが息子は「その前に祖父譲りのクルマを大事にいつまでも乗り続けたい」と答える。カッサンは「そうだね。少なくともあと10年は乗ります。クラシックがいちばん美しいから。次はまだ考えたくないですね」と息子の意見に頷いた。
※この記事はPen 2022年9月号「レンジローバーで走れ!」特集より再編集した記事です。