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エリザベス女王の祝賀パレードにも! イギリス王室御用達のレンジローバー

  • 文:山名冬至郎
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イギリスの王室においてレンジローバーは特別なクルマである。公式行事で使用され、女王陛下じきじきにハンドルも握られるのだ。長きにわたる女王陛下とレンジローバーとの関係を紐解いてみる。

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2016年に行われた90歳の誕生日を祝うパレードの様子。バッキンガム宮殿から伸びるザ・マルをイギリス国民の祝福を受けながらレンジローバー艦隊が進む。当然のことながら女王陛下と王子たちのレンジローバーはロイヤルクラレットカラーの特殊架装された車両。パレード後に両サイドではストリートパーティが始まる。

エリザベス女王が世界中から愛される理由――それは抜群なユーモアセンスとお茶目さではないだろうか。ロンドンオリンピックの時は、ジェームズ・ボンドにエスコートされ、ヘリからの空中ダイブで会場入りし、今回の即位70周年を祝う式典、プラチナ・ジュビリーでは、くまのパディントンとお茶会でユーモラスな共演を果たしている。

クルマ選びのセンスも独特だ。多くの国家元首の場合、威厳を保つために重厚長大な黒塗りリムジンを選ぶ。これは非常に権威主義的な選択だ。その点、女王の場合は公私ともにレンジローバーを好んで使う。なかでも公務の場合は「ロイヤルクラレット」と呼ばれる王室専用色のワインレッドに塗られた車両を使用。ちなみにクラレットとはイギリス英語でボルドーワインのこと。中世にイギリス領だったボルドー地方に思いを馳せているのか、女王の馬車や専用列車、果てはヘリコプターまでもこの特色に塗装され、金色の縁飾りで統一されている。レンジローバーも例外ではない。パレードに登場する特殊架装された最新型レンジローバーの存在は、温故知新を大切にするイギリスらしさを感じさせてくれる。

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旧英国領などの海外での訪問先では必ずランドローバーの車両が御料車となる。これは1979年にアフリカのザンビアをフィリップ殿下と訪問されたときの様子。車両がデビューして9年後、「砂漠のロールスロイス」という異名をもつ初代レンジローバーの面目躍如の瞬間だ。 photo by Getty Images

プライベートにおいてもまた、女王がレンジローバーの運転を楽しむ姿が何度か報道されている。サングラスにヘッドスカーフというスタイルは、若い頃からなにも変わっていない。王室の直轄領で犬を乗せて走るレンジローバーも、本来あるべき姿といえるだろう。ただ一般のクルマとの違いは、ボンネットの中心で銀色に輝き鎮座する、可愛らしいレトリバーの大きなマスコットだ。心から犬を愛する女王の気持ちが表れてのことだと思うが、このようなオーナメントは視界を遮るだけでなく、事故の際に歩行者などに危険が及ぶ可能性がある。イギリスの交通法に抵触する改造だが、正確にいうと違法ではない。なぜなら女王は免許をもつ必要もなければ、交通違反に問われない唯一の人。理由はイギリス国民に免許を与える人だからである。

長年にわたり王室とのパートナーシップを続けているランドローバー社はエリザベス女王の父、ジョージ6世より1951年にロイヤルワラント(王室御用達認定証)を授与された。以来、王室は歴代で30台以上のさまざまなランドローバーを所有してきた。あの装甲車のようなディフェンダーですらも、軽く乗りこなしてしまう女王には、シンプルに敬服する。

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3つのロイヤルワラント/イギリスの王室御用達を表すマークは3種類。授与できるのはエリザベス女王、フィリップ殿下、チャールズ皇太子の3人のみ。かつてはクイーンマザーも授与できたため、ランドローバー社は4つのワラントホルダーだった。現在は3つだが、すべてのワラントを有する自動車メーカーはほかにない。

「ローバー」という名前は、50〜60年代にイギリスでポピュラーだったペットの名前だという。女王にとってのレンジローバーとは、図体こそ大きいが、ペットのようにかわいらしく、愛すべき存在なのかもしれない。

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※この記事はPen 2022年9月号「レンジローバーで走れ!」特集より再編集した記事です。

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