「大人の名品図鑑」エルヴィス・プレスリー #5
“キング・オブ・ロックンロール”と称され、いまなお世界中で多くのファンをもつエルヴィス・プレスリー。今年は彼の伝記映画『エルヴィス』も公開され、その人気が再燃することは確実だ。今回は不世出のミュージシャン、エルヴィスが愛した数々の名品を紹介する。
「セクシーにしようとは思っていない。自分を表現する方法なんだ」——エルヴィス・プレスリー
エルヴィス・プレスリーの魅力、ファッションを語る上で欠かせないのが彼の独特の髪型に違いない。
『エルヴィス雑学ノート』(前田絢子著 ダイヤモンド社)には、エルヴィスの風貌に変化が見られるようになったのはテネシー州メンフィスでヒュームズ・ハイスクールの3年生になったころと書かれている。「彼はヘアスタイルに凝って、まるで長距離トラック・ドライヴァーのように、もみあげを伸ばして、髪全体をダックテイルに整えた。課外活動でROTC(学生予備役将校訓練部隊)に入っても、髪を切ろうとしなかった」とある。また『エルヴィス・プレスリー 世界を変えた男』(東理夫著 文春新書)でも「その頃の彼は、絶えず髪を櫛けずる落ち着きのない人間と思われていた。だが、彼の髪へのこだわりは、単に長髪への気取りではなかった。それは彼の自己表現だった。自分が他の人間と違う。そのことを彼は長い髪と、独特な色遣いの服装によってあらわそうとしていたのだった」とある。当時、入部したフットボール部ではエルヴィスは髪を切れとイジメにもあったとまで書かれている。エルヴィスがティーンエージャーだった50年代初めは、若者はみんな髪を切り込んだクルーカットにしているような時代だった。そんな時代に独自の髪型で現れたエルヴィスは、まわりから異端児と見られたのだろう。
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エルヴィスが使用していた整髪料
2021年に発行された『THE★ロカビリー エルヴィス』(シンコー・ミュージック・ムック)というMOOK本があるが、巻頭にエルヴィスのファッションが特集されていて、そこで彼のヘア・スタイルのことが詳しく載っている。
1956年にエルヴィスはテレビ出演し、テレビで初めて「ハウンド・ドッグ」を披露する。あの動きで髪を振り乱したエルヴィスの歌が終わると、司会のミルトン・バールが彼に聴いたのは「どんな整髪料を使っているの?」ということ。エルヴィスは「POM!(ポマードの意味)」と答えたと書かれている。ダックテイルでスキがないほどにきれいに髪を整えた彼の髪型が、テレビの司会者には衝撃だったのだろう。
同書によれば、当時メンフィスでつくられていたポマードの銘柄は「ロイヤルクラウン」「ディキシー・ピーチ」「ブラック・アンド・ホワイト」「ラバーズ・ムーン」など。エルヴィスがどれを使っていたかは不明だが、柔らかいポマードを愛用していたと推測する。
ちなみに「ダックテイル」とは、髪の毛がアヒルのお尻みたいになっていることから命名されたもの。これはアメリカ流の言い方で、日本では「リーゼント」「リーゼントヘアー」と呼ばれることが多い。ついでながら、「ポマード」はねり油に香料を混ぜた整髪料で、もともとは油性だった。リーゼントやオールバックスタイルに適した整髪料で、現在の主流を占めるワックスよりも歴史はずっと古く、日本では昭和の初期から男性たちに愛用されていた。
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日本発のバーバーが開発するポマード
エルヴィスが愛用していたポマードのイメージを求めて今回、探し当てたのが「ブロッシュポマード(BROSH PAMADO)」。これは2015年に東京・原宿にオープンしたMR.BROTHERS CUT CLUBと、バーバー業界でレジェンドとして知られる北海道・旭川のBARBER SHOP APACHEの両ショップが、コラボレーションしてつくり上げたオリジナルのポマード。日本人の髪質でもしっかりとおさえつけられる強いホールド力を実現し、伸びのよさが特徴なので、手に取って伸ばす際も煩わしさがない。しかも水性のポマードなので、シャンプーで簡単に洗い流せる。
今回紹介するポマードは音楽を根底におき、色気を感じるスタイリングを提案する。人気ブランドのワコマリアと共同開発したもので、いわばトリプルコラボレーションとも言える特別なポマードだ。古き良きアメリカのバーバーカルチャーと、世界に誇るトーキョーカルチャーが合体したポマードと言える。
もう一度、エルヴィスがその歌声と髪型で、世界中を熱狂させた50年代に話を戻そう。
エルヴィスがデビューした50年代は、第二次世界大戦が終わり、アメリカの経済がようやく安定し、国全体が中流化に向かった時代である。郊外に同じような住宅が建設され、誰もがクルマやテレビ、電気洗濯機など持つようになり、都市を結ぶハイウェイ網も発達、社会全体が画一化していったと言われる。そこに現れたのが、エルヴィス。2歳からゴスペルを歌い、黒人のリズム&ブルースと白人のカントリーミュージックを融合した曲を歌い、誰にも似ていない独創性をエルヴィスは常に追求した。画一化した生き方を嫌う若者たちから彼の歌は熱狂的に支持され、「エルヴィス・クレイズ(熱狂)」と呼ばれる興奮の渦に人々を巻き込んでいく。ときには社会から攻撃もされるが、60年代には映画を中心に活躍、70年代にはステージでその本領を再び発揮する。
しかし1977年8月16日、エルヴィスは42歳の若さで突然天に召される。ときの米大統領ジミー・カーターは、追悼のメッセージでこう述べている。
「われわれアメリカ人は、エルヴィス・プレスリーの死によって、国の一部を失ってしまった。彼は独創的で比類なのない存在だった。彼は二十年以上前に忽然と世に姿を現し、まったく先例のない、今後も二度と見ることのない大きな衝撃を巻き起こした」
エルヴィスが亡くなってからはや45年。今回彼が愛したモノをいろいろと挙げてきたが、彼の素晴らしい歌声を改めて聴くと、その声こそ、天から贈られた名品だと思わずにはいられない。
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