「DE&I」という言葉をご存知でしょうか?
ダイバーシティの「D」、エクイティの「E」、インクルージョンの「I」。それぞれの頭文字を取った言葉です。
D(Diversity: ダイバーシティ)
年齢、国籍、性別、民族、宗教、疾病、性自認、性的指向、教育、学歴等の違いを尊重すること。
E(Equity: エクイティ)
すべての人が、さまざまな情報、機会、リソースへのアクセスが公平に保たれるように保証すること。
I(Inclusion: インクルージョン)
包括性や帰属意識。あらゆる個人や集団が、尊重、支援、評価、歓迎され、参加できる環境をつくること。
以前はD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)という言葉で表されることが多かったのですが、ここ数年ほど、D&Iに公平性を表す「E: エクイティ」の概念を加えて考えることが必要不可欠であるといわれています。
たとえば、あらゆるバックグラウンドの元に生まれた、スタート地点が異なる人々に、同じ機会を同じように与えたとします。そうすると、ある人は生まれながらの環境(富裕層など)によって、その機会を十分に生かすことができますが、別の人(貧困層など)にとっては、その機会を十分に生かすことができない可能性があるからです。
“持続可能な社会”というと、どうしても気候変動の話に目が向けられがちですが、多様性、平等性、包括性なしには“持続可能な社会”は語れません。さらにコロナ禍を経た世界的な状況を鑑みても、D&Iだけでは足りないのです。
ゲッティイメージズでは現在、「どのようにすればビジュアルで世界が変えられるのか?」というテーマの元、シティグループとともに「CITI DEI Imagery Toolkit」という、それぞれの国ごとの「DE&I」の状況をまとめたガイドラインをつくるプロジェクトを進めていて、日本版も近日ローンチ予定です。
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日常的に目にするビジュアルと自分自身が結びつかない
私たちのチームが行っている、最新のビジュアル市場調査「Visual GPS」によると、グローバルの消費者の5人に4人 が企業に対してあらゆる多様性の尊重を望むと回答しました(日本の消費者に関してもパーセンテージは同様でした)。
しかしながら、日々目にする広告などで、多様性が正確に表されていると感じるグローバルの消費者はわずか14% (日本は3%)、しかも2人に1人(日本では10人に7人)が、メディアや広告の表現において、自分のような人、そして、共感できるライフスタイルが反映されていないと感じており、日常的に目にするビジュアルと自分自身が結びつかないと考えている人が大半である、という結果になりました。
また、大多数の消費者がメディアや広告に対して、様々な民族やバックグランドを持った人が広告に登場するだけでは不十分であり、企業はそういった人々の本物のライフスタイルや文化を捉えることに、もっと力を入れる必要があると回答しています(日本の消費者に関してもパーセンテージは同様でした)。
この結果が表わしているのは、様々な人種、肌の色の違い、障害を持つ人、LGBTQ+コミュニティの人々など、特定の人々を取り上げることだけが重要なのではない、ということです。そのような人たちの“日常生活”が、忠実に描かれているのか、そういった点が消費者にとっては最重要であることがわかります。
ゲッティイメージズでは、撮影対象と撮影者がイコール、平等の立場の関係性を築けているか?といったことも考慮してビジュアルづくりを行っています。
たとえば障害を持つ人を撮影する際に、まず障害を持つクリエーターとコラボレーションできないかという点に関して考えます。また障害を持たないクリエーターに対しては、障害を持つ人と同じ目線で撮影をするためのガイドラインをつくるなどして、平等性が現場レベルでも保たれるように注意を払っています。
また取り扱う作品に関しても、障害者慈善団体とのパートナーシップによる「Disability Collection」というコレクションを展開しています。障害者慈善団体がキューレーションに携わることで、このコミュニティの真の姿を反映する作品を制作すること、選択することが可能になります。
たとえば、カメラアングル、表情、ボディランゲージ、補装具などに関しても細かくチェックをします。特に車椅子や吸入器などは、病院の緊急時に使われるものと、日常的に使用されるものは異なる場合があるので、シーンに応じて何が適正であるのか、など細かいディテールにこだわってキュレーションを行います。
それでは実際にどのような表現が「うわべだけ」ではないといえるのか?障害者の人々の日常をビジュアル化した作品を見ながら考えていきましょう。
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“できないこと”ではなく、“できること”にフォーカスしたビジュアル
世界の障害者数は10億人。人口の15%がなんらかの障害を持って生活していることになります(日本の場合は900万人以上。人口の7.4%)。
このように世界中で障害者人口が多いにも関わらず、メディアやマーケティングにおいては、パラリンピックスポーツ関連以外の場面で、障害を持つ人々を目にすることが少ないのが現状です。
ここ1年、ゲッティイメージズのサイト上でダウンロードされたビジュアルのうち、障害者のアイデンティティを持つ人が含まれているビジュアルはたった1%ほど。使用されるビジュアルは、ステレオタイプに限定されていることが多く、たとえば、車椅子を使用している人がケアされる姿や、義肢などの補装具のみに焦点が当てられたものが多く、日常生活の生き生きとした姿が描かれているものはごく一部でした。
こちらのビジュアルはどうでしょうか?オーストラリアの大学で講義を受ける学生たち。学生の一人は聴覚に障害があり、手話を使って講師とコミュニケーションを図る日常がとてもさりげなく表現されています。
テニスコートでレッスンの準備をする少年たち。右の少年が、普段使いの車椅子から、競技用の車椅子に乗り換える準備をする姿がさりげなく捉えられています。
視覚障害を持つ方女性が、自宅で食事の準備する日常の風景。拡大鏡を使って食品パッケージのラベルを読んでいる姿が伝わってきます。
視覚障害を持つ男性。実際にスマホのアクセシビリティ機能を利用する様子が分かりやすく伝わってきます。
特別な存在としてではなく日常的な存在として描写されることで、障害を持たない人たちへの理解も深まるだけでなく、障害を持つ人たちが、日常的に目にするビジュアルと自分自身を結びつける事を可能にすると言えるのではないでしょうか。
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ビジネスや日常の一コマに溶け込む女性の活躍
女性のビジネスリーダーの同僚とともにあるオフィスでの日常を、さりげなく表現したビジュアル。女性が義足を利用していることに気づかない方もいらっしゃるのではないでしょうか。洋服や、髪型などのスタイリングも個性が光っていて、一列にズラーっと並んだお決まりのリーダーたちのポートレートよりも、いっそう身近に、パワフルに響きます。
自宅のスタジオで、子供たちに絵のワークショップを行う、対麻痺を持つ美術の先生。オンライン授業を行っている様子は、とても自然で日常的であり、女性の活躍の幅を助けるビジュアルではないかと思います。
また、障害を持つムスリムの女性であり、教育者であるという様々なアイデンティティが交差している点をビジュアル化していることも大きなポイントと言えます。
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これらの自然なビジュアル表現によって、より多くの人々の受容や理解を促すことができるだけでなく、今まで先入観や偏見によって生まれていた個人個人の「生きづらさ」を解消し、「DE&I」をさらに強調できるのではないかと思います。
ビジュアル表現において、ビジネスにおいてもライフスタイルにおいても、「多様なコミュニティって、一体何なのだろう」ということを常に考えていくことが大事だと言えます。
Getty Images/iStock クリエイティブ・インサイト マネージャー
ビジュアルメディアの学歴を持ち、映画業界に従事。2016年からはGetty Images/iStockのクリエイティブチームに所属。世界中のデータや事例をもとに、広告におけるビジュアルの動向をまとめた「Creative Insights」を発信。多くのクリエイターをサポートしながら、インスピレーションに満ちたイメージ作りを目指している。
ビジュアルメディアの学歴を持ち、映画業界に従事。2016年からはGetty Images/iStockのクリエイティブチームに所属。世界中のデータや事例をもとに、広告におけるビジュアルの動向をまとめた「Creative Insights」を発信。多くのクリエイターをサポートしながら、インスピレーションに満ちたイメージ作りを目指している。