<かつて人間をみれば逃げていた野生動物が、水を奪うため人間に襲いかかるようになった>
エチオピアなど東アフリカで、干ばつによる被害が深刻化している。気候変動による国内作物の不作と、ウクライナ情勢による国際的な食糧危機が重なり、過去数十年で最悪の飢餓に発展した。
年に2回訪れるはずの雨季は、もう4期連続でまとまった雨をもたらしていない。植物の生育不良を受け、野生動物が凶暴化の兆しをみせている。このところ報告が増えているのは、サルの襲撃事例だ。
英NGOのセーブ・ザ・チルドレンの幹部は、米ABCニュースに対し、「多くの家族が、空腹のサルたちを棒で追いはらう必要に駆られている。このような報告を複数受けています」と語った。この地域のサルは通常ヒトを襲うことはないが、干ばつ被害の深刻な地域を中心に行動が変容しているという。
同団体はまた、エチオピア、ケニア、ソマリアを合わせ、2300万人以上が「極度の飢餓状態」にあると発表している。
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「数十年で最悪の飢餓」家畜小屋の水を飲んで凌ぐ日々
団体は現状を、「ここ数十年で最悪の世界的飢餓の危機」であると指摘している。当該地域の人々は「生きるため、家畜小屋の飼い葉桶に溜まった水を飲み、腐敗した肉を食べ、食糧をめぐり野生動物と戦うなど、極端な手段に訴えている」という。
かねてから数年単位の干ばつが続いていたところ、新型コロナの影響で経済情勢が悪化した。さらにウクライナ紛争を受け、小麦とひまわり油など生活必需品の価格が高騰しており、現地で食糧を入手することは至難の業となっている。
被害はアフリカ東部に突き出た、「アフリカの角(つの)」と呼ばれる半島部分で深刻だ。この地域には、エチオピア、ソマリア、ケニア北部などが含まれる。
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巨体のイボイノシシが家屋に突入
ケニア北部では、食糧だけでなく水を奪う目的でもサルが人を襲うようになった。水場から運んで帰る途中、女性や子供がねらわれる例が相次いで発生している。このほか、体重が最大で150キロほどにも達するイボイノシシが家屋に突入し、食べ物を漁る事例もたびたび報告されるようになった。
英デイリー・メール紙は、「以前であれば人の匂いがした途端に逃げていた野生動物たちが、いまではまるで去ろうとしない」と指摘している。
同地域で活動する栄養士は、惨状を次のように語る。「病気が至る所に蔓延しており、これらは飢えと渇きに起因しています。耳にした情報によると、いくつかの集落では状況が非常に悪く、家畜が飢えて死んだあと、腐ったその肉を食べなければならなかったようです。ほかに食べ物を手に入れる手段がなかったのです。」
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助けを求める旅の途中、娘は死んだ......ある家族の話
飢えに耐えかね、住み慣れた村を捨てたという一家もあるようだ。北アイルランドのアイリッシュ・ニュース紙は現地を取材し、そこで出会った家族の例を報じている。
夫婦と8人の子供たちから成るこの一家は、かねてから干ばつで農作物の不作に喘いでいた。そこへ、多数飼っていたヤギも最後の一匹が死に、食糧のつてをすべて失ったという。助けを求めて村を発ち、20日間をかけて70キロの道のりを歩いていたところ、取材班に出会った模様だ。
直近まで子供は9人いたが、一家は3歳のフェイサルちゃんを旅の途中で亡くした。飢えによる衰弱だったという。父親は同紙に、悲痛な面持ちで語っている。「旅に出たその週のうちに、彼女の命は尽きました。亡骸は道端に埋め、旅を続けなければなりませんでした。ほかに手はなかったのです。残された家族の命を救わなければなりませんでした。」
記事によるとこうした痛ましい出来事は、現地ではめずらしい話ではないのだという。ソマリア南東部のゲド地域では、比較的よくある事態だと同紙は述べている。
東アフリカにおける日照りは改善の見込みが立たず、10月から始まるはずの次の雨季も、降雨は見込めないと予測されている。悲惨な事例が続くことのないよう、状況の好転が望まれる。
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動画:干ばつ被害が深刻な東アフリカ
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動画:干ばつ被害が深刻な東アフリカ
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動画:干ばつ被害が深刻な東アフリカ
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動画:干ばつ被害が深刻な東アフリカ
青葉やまと
フリーライター・翻訳者。都内大手メーカー系システム会社での勤務を経て、2010年に文筆業に転身。文化・テクノロジー分野を中心に、複数のメディアで執筆中。本業の傍ら海外で開かれるカンファレンスの運営にも携わっている。
※この記事はNewsweek 日本版からの転載です。