「大人の名品図鑑」エルヴィス・プレスリー #3
“キング・オブ・ロックンロール”と称され、いまなお世界中で多くのファンをもつエルヴィス・プレスリー。今年は彼の伝記映画『エルヴィス』も公開され、その人気が再燃することは確実だ。今回は不世出のミュージシャン、エルヴィスが愛した数々の名品を紹介する。
「20世紀最大に、まったく新しい社会変革を起こしたのが、エルヴィス」——レナード・バーンスタイン
エルヴィス・プレスリーにまつわる名品の中で、必ずと言っていいほど取り上げられるのが、ハミルトンの名腕時計「ベンチュラ」だ。現在は本拠地をスイスに移しているが、ハミルトンはそもそもアメリカ発祥のブランドで、1892年にペンシルバニア州ランカスターにて創業した。ハミルトンの時計が広くアメリカで知られるようになったのは、アメリカの鉄道創成期のころと言われる。当時のアメリカは国をあげて鉄道建設に取り組んでいて、ハミルトンが製作した精密な鉄道従事者向けの時計が、鉄道事故の防止につながったと評判を呼んだという。また航空時計も早くから製作、アメリカ初の定期航空郵便の公式時計にハミルトンの時計が採用された歴史を持つ。
「ベンチュラ」がリリースされたのは1957年。エルヴィスのデビューは1954年だから、アメリカが経済成長と繁栄を謳歌した50年代の同じ時期に登場したという共通点がある。
「ベンチュラ」最大の特徴は、時計のデザインの主流であった丸形や角形という常識を打ち破り、左右非対称、トライアングル型にデザインしたことにあるだろう。ケースと文字盤は9時側に大きくせり出している、まさに唯一無二の形状。それは音楽の常識を超えて新しいサウンドに挑戦し続けたエルヴィスの存在にも似ている。
デザインを手掛けたのは、当時、アメリカナンバーワンのインダストリアルデザイナーで、テールフィンのキャデラックなどをデザインしたことでもよく知られるリチャード・アービブ。ちなみにテールフィンのピンク・キャデラックはエルヴィスがこよなく愛したクルマだった。
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世界初の電池式時計
「ベンチュラ」はデザインに加えて機構も斬新で、最初のモデルは世界初の電池式時計だった。デザイン同様、時計を動かすには“ゼンマイを巻く”という常識を覆したのだ。「ベンチュラ」登場のニュースは世界的に伝えられ、時計の歴史に新たな1ページを加えたと言っても過言ではない。事実「ベンチュラ」は、発売と同時に驚異的なセールスを記録、アメリカのスミソニアン博物館に所蔵される名時計の仲間入りを果たした。「ベンチュラ」は7年間で製造を終えるが、その後も人気は衰えることなく、1988年に復刻される。以降、ハミルトンを代表するアイコンウォッチとして不動の地位を誇り、次々と新しいモデルもリリースされ、その人気も知名度もさらにアップしている。
エルヴィス・プレスリーがこの「ベンチュラ」を身に着けて登場する映画は、61年に制作された『ブルー・ハワイ(原題:BLUE HAWAII)』。この映画の撮影に入る前、エルヴィスの元に徴兵令状が届いた。2ヶ月の猶予期間を経て、58年にアメリカ陸軍に入隊し、ドイツに駐屯する。実はこの作品の主人公チャドも2年間の軍隊生活を終えて、故郷ハワイに戻ってきた若者という設定だった。チャドはパイナップルを商う家業を嫌い、恋人マイラ(ジョーン・ブラックマン)とともにハワイに自分たちの観光会社をつくることを夢見る。マイラが務める観光会社で仕事を得たチャドは、美人の教師を含めた4人の女性一行をハワイの名所に案内するが、その中の一人エリーがチャドに恋心を抱き、いろいろな騒動になる。いわばラブコメ的な筋立て。美しい観光名所を背景にしたエルヴィスの歌があり、美しい女性との恋がある。そんなこの映画のストーリーは、その後のエルヴィス映画の定型になったと言われる作品だ。
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映画だけでなくプライベートでも愛用
余談になるが、全米制覇を狙うマネージャーのパーカー大佐は早くからハワイをターゲットのひとつに定めていた。57年には初のハワイ公演を行い、映画では『ブルー・ハワイ』以外にも『ガール! ガール! ガール』(62年)と『ハワイアン・パラダイス』(66年)の2本が製作された。73年に開催された「エルヴィス・アロハ・フロム・ハワイ」は全世界に向けて衛星生中継され、新たな映像も加え、アメリカ国内で放映された作品は視聴率75%を記録した。
映画『ブルー・ハワイ』でエルヴィスがずっと着けた「ベンチュラ」はゴールドの本体に黒文字盤のモデルだ。レザーのブレスレットは黒とゴールドのコンビネーション。『ウォッチコンシェルジェ・メゾンガイド』(松阿彌靖著 小学館)によれば、この時計を選んだのは『ブルー・ハワイ』で監督を務めたノーマン・タウログらしいが、エルヴィスはこの時計を気に入り、プライベートでも愛用。クリスマスの贈り物として何本かを注文した記録も残されていると書かれている。
エルヴィスの代表曲としていまでも人気がある「好きにならずにいられない」はこの『ブルー・ハワイ』のサントラ盤に収められた一曲。ビング・クロスビーの名曲をカヴァーした「ブルー・ハワイ」や、クライマックスに使われた「ハワイアン・ウェディング・ソング」など、全14曲のサントラ盤は、ビルボードアルバムチャート1位に駆け上がり、61年から62年にかけて20週も連続で1位を記録したという。もちろん映画そのものも空前の大ヒットを遂げ、エルヴィスの代表作の1つとなった。映画だけでなく、映画に使われた歌も大ヒット。まさにエルヴィスは20世紀が産んだ稀代のエンターテイナーだ。そんな彼の大活躍に20世紀のアメリカの黄金期、ミッドチェンチュリーモダンなデザインを備えたハミルトンの「ベンチュラ」が一役買っているのは確実だ。
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問い合わせ先/ハミルトン/スウォッチ グループ ジャパン:03-6254-7371
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