「大人の名品図鑑」番外編
ダンヒルから1970年代に発表され、爆発的なヒットとなった「ローラガス」と呼ばれたライター。同ブランドのアイコンと言えるこの名品から着想を得たコレクションが今季発表された。ライターの表面に刻まれた意匠を活かしたレザーとデザインが特徴的。老舗の歴史と唯一無二の存在感を感じるコレクションだ。
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馬具から喫煙具、やがてファッションブランドへ
欧米のラグジュアリーブランドには馬具づくりにルーツをもつ老舗が多いが、ダンヒルもそのひとつだ。ダンヒルの創業者であるアルフレッド・ダンヒルは、1880年代に父が営む馬具専門卸売業で働き始め、1893年に弱冠21歳の若さで家業を受け継ぎ、自身の名を冠したブランドを起業した。便利なもの。機能性を信頼できるもの。美しいもの。長持ちするもの。そして何より最上のものでなければならない——創業者アルフレッドは自らのブランドで創造するものをこう定義した。
19世紀後半、自動車の出現で交通手段が大きく変わることは必至と見たアルフレッドは、Motoring(自動車)とPriorities(優先)を組み合わせた造語「Motorities(モートリティーズ)」を考案し、“エンジン以外のものすべて”をモットーに、自動車愛好家のためのアクセサリーからカーコート、ラゲージ(鞄)などを生み出していった。自身もクルマを愛し運転もしたアルフレッドは、懐中時計をそのままダッシュボードに取り付けられる「ダッシュボードクロック」(1910年)を考案し、注目を集めた。さらには警官をいち早く発見し、スピード違反を逃れるための双眼鏡「ボビー・ファインダーズ」(1903年)など、ユーモアと革新性を備えた製品を次々とデザインし、英国の紳士たちの間でそのブランドの名前が知れ渡るようになる。
1907年、アルフレッド・ダンヒルは新しいビジネスに挑戦する。ロンドンのデュークストリート(現在のジャーミンストリートにあたる)31番地に新しいブティックをオープン、それは喫煙具専門店という当時では革新的な店舗だった。そこで彼は、きざみ煙草を顧客に合わせて一つひとつブレンドして提供するというサービスを行なった。「マイ・ミクスチュアー」と呼ばれた顧客ごとのブレンドは店の台帳にすべて記録され、永久に保存される。それはダンヒルの高いホスピタリティ精神を示すもので、たちまちこのブティックは人気を集め、紳士が集う人気店となった。同時にダンヒルは喫煙具でも「ウインドシールド・パイプ」(1904年)や「エヴリタイム」(1926年)、「ユニーク」(1927年)といったライターなどを開発し、その品揃えの充実をはかった。長年このブティックの顧客だったのが、英国首相だったかのウィンストン・チャーチル。第二次世界大戦中、ドイツ空軍からこのブティックが攻撃を受けたときも、「あなたの葉巻は大丈夫です」と店のマネージャーが首相官邸に連絡したという有名な逸話が残されている。
以来、製品の実用性とこだわりをもつことの楽しみに敬意を払いながら、世界中の紳士たちから圧倒的な支持を受けるラグジュアリーブランドとして、確固たるポジションを築き上げている。
そして2017年、このダンヒルにクリエイティブ・ディレクターとして加わったのがマーク・ウェストンだ。9年間在籍したバーバリー時代、CEOだったクリストファー・ベイリーの右腕として敏腕を振るっていた人物で、英国紳士に愛されてきた老舗の伝統を尊重しながら、モダンでクラシックなコレクションを披露し、高い評価を得ている。
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「ローラガスライター」のデザインを表現した新コレクション
そんな彼が2022 AUTUMN WINTERコレクションで提案したのが、アーカイブからインスパイアされた「ローラガスコレクション」(ROLLAGAS COLLECTION)だ。インスパイアの元となったデザインは1970年代に発売されたものだが、元々「ローラガス」は1950年代に発表されたライターで、そのモデル名に由来している。アルフレッドの娘であるメアリー・ダンヒルが書いた『ダンヒル家の仕事』(未知谷刊)によれば、「ローラガスはオイルライターに取って代わり、これまで発売したダンヒルの商品の中でも一番のヒット作になりました」と書かれ、日本でも「目覚ましい売れ行きを見せた」と記されているので、記憶されている方も多いだろう。名品と断言できるこのライターのデザインを再構築し、ウェアやレザーグッズ、アクセサリーなどに落とし込んだのがこのコレクションの大きな特徴だ。
7月から店頭やオンラインで順次発売されるが、今回紹介するのは「ローラガス」ライターの表面に刻まれたチューブ状のパターンを、エンボス加工で表現したバッグの数々。柔らかく高級感溢れる風合いに仕上げられたレザーには、ほかのモデルには見られない独特の凹凸を備えている。しかしデザインは極めてモダンだ。現代のライフスタイルにマッチするようにデザインされ、ビジネスから普段づかい、トラベルなどで使えるように緻密に考えられている。
サイズはコンパクトで使い回しが利き、クラシックからカジュアルまで、さまざまなスタイリングにもマッチする。メッセンジャーバッグタイプやバックパックタイプをはじめ、クロスボディバッグからバッグインバッグなどさまざまなシーンに使えるモデルまで、多彩なデザインと豊富なバリエーションを用意。さらにウォレットなどのスモールレザーグッズまでラインナップされ、充実の品揃えを誇る。
ラグジュアリーブランドを熟知し、毎シーズン、新しい英国紳士像を見せてくれるマーク・ウェストンらしい発想のスペシャルなコレクションと言えるが、同時にそれは英国のクラフツマンシップを基盤にしながらも、時代に先駆けて革新を常にもたらしてきたアルフレッド・ダンヒルの意志である。
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問い合わせ先/ダンヒル TEL: 0800-000-0835
dunhill.com
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