温暖化問題を乗り越える、サッポロビールの挑戦

  • 写真:山本雷太
  • 文:喜多布由子
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実験用に植えられた何種類もの大麦が黄金色に輝くサッポロビール原料開発研究所の大麦畑。

もはや日本の風習ともいえるだろう。季節とともに至福をもたらすのは麦畑のごとく金色に輝く、1杯のビール。

そんな美味しいビールの一杯はどのようにつくられるのだろうか。ビール造りは、主に収穫したビール大麦を工場で吸水・発芽・乾燥させ(この一連の工程を「製麦」という)、麦芽をつくることから始まる。大麦を発芽させると、内部の酵素が活性化し、麦のでんぷんを糖に、タンパク質をアミノ酸に変換。この糖は酵母のエサとなり、ビールのアルコールと二酸化炭素に分解される。大麦から生まれる麦芽こそビール独特の「色」や「味」の特徴を決めるので「ビールの魂」と呼ばれているほど。よい麦芽は、よい大麦からしかつくれないということなのだ。つまり、穀粒が均一で張りがあり、光沢と適量のでんぷん、タンパク質を含んだ大麦である。そのためには天候に恵まれた産地で、収穫されることが必要だ。

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原料開発研究所は、サッポロビールの群馬工場木崎事業所内にある。

しかし、ビールの原料である大麦に危機が迫っている。それは、地球温暖化による気候変動だ。

農産物であるがゆえ、影響を受けやすい。大麦の収穫期にゲリラ豪雨など激しい雨を受けると、収穫確保はもちろん、品質までに悪影響を及ぼす。それは、穂についた状態のまま畑で発芽してしまう穂発芽である。穂発芽した大麦は、原料として使用できない。なぜなら、 穂発芽してしまうと大麦種子は発芽力を失う。そして、製麦工程で正常な発芽ができなくなり、発芽の過程で「溶け」といわれる種子貯蔵物質の分解が正常に進まず、麦芽の品質が低下してしまうからだ。では、穂発芽の耐性を強めればいいのではないかと思うが、同じくそれも分解が進みにくく、ビールの味を低下させてしまう。これは、生産者やビールメーカーにとって深刻な問題となっている。

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麦を製して世界初未来のビイルといふ酒になる

今後、問題がさらに深刻化する可能性があり、ビールメーカー各社も問題解決に挑んでいる。開拓使に始まるサッポロビールでは創業明治9年(1876)からのこだわり、「麦とホップを製すればビイルといふ酒になる」という信念のもと、自ら麦やホップの品種改良や協働契約栽培を行なってきた。ちなみに大麦とホップの両方を育種しているビールメーカーは、世界でもほとんど例をみないという。そして、そのこだわりこそが問題解決に繋がるのである。

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サステナブルな未来のビールをつくる、新種の大麦「N68-411」。

サッポロビール原料開発研究所は、「溶けやすく、穂発芽しにくい」性質をもつ世界初の大麦 “N68-411”を発見した。この大麦の持つ特性は、「溶けやすく穂発芽しにくい」だけでなく、「発芽日数を短縮できる」可能性があるため、麦芽の製造期間短縮によるCO2排出削減も見込めるという。気候変動に具体的な対策となるサステナブルな真打ちの登場というわけだ。さらには2030年までには新品種の登録出願を目指し、2050年までに世界のビール市場での実用化に向けてサッポロビールの挑戦はこれからも続く。

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研究所では、気候変動の影響を受けた大麦を麦汁にして正常な状態との違いを可視化した濾過実験も。注目すべきは3の(通常大麦N68の麦芽を使用・1日発芽)と4の(新発見した大麦N68-411の麦芽を使用・1日発芽)。4は、抽出スピードが早く、量も多いので、コストを抑えて麦芽の製造期間短縮につながる。

原料と品質の改良を続けていく挑戦があるからこそ、美味しい未来のビールがあるのだろう。ぐいっと飲むほどに幸せを噛み締められる、未来の一杯とは一体どんな味だろうか。そのビールの幕開けはまもなくだ。グラスを手にする時がきたら、期待を込めて乾杯したい。

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未来のビールを担う、(左から)原料開発研究所グループリーダーの保木健宏さん、主任研究員の木原誠さん、所長の須田成志さん。おすすめのビールは、何杯飲んでも飲み飽きることのない、サッポロ生ビール「
黒ラベル」だそう。

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