いまの時代も示唆に富む、プルーヴェのスピリット
レンゾ・ピアノやジャン ・ヌーヴェルらが師と仰ぐジャン・プルーヴェ。パリでギャラリーを主宰するパトリック・セガンとプルーヴェ・コレクターとして知られるアートディレクター八木保の企画でプルーヴェ展が開催に。学術協力で関わる岩岡竜夫に話を聞いた。
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岩岡がそう語るジャン・プルーヴェは、アール・ヌーヴォーの一派でナンシー派の中心人物でもあった画家・彫刻家の父のもと、1901年に生まれた。24年に自身の鋳鉄工房を設け、その後家具の製作も始める。戦後は、住まいを失った人々のための住宅も手がけた。後に設けたアトリエ兼工場には300名もの工員が所属するまでに。
その中心にいた当の本人は、建築家やエンジニアといった既存の枠に自らを収めることなく「コンストラクチュール(構築家)」と表現、他に類を見ない試みを実践した人物らしい。ル・コルビュジエも「建築家であると同時に建設者」と彼をたたえた。岩岡は言う。
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「プルーヴェの建築は、解体でき、軽量で運搬や移築ができる家具のような建築。彼の建築をこうして日本で目にできるということ自体が、まさにプルーヴェ建築の醍醐味です」
その活動は素材に触れることから始められた。一例としてスチール。薄い鋼板を曲げることで強度を備える造形を模索したのは30年代初頭のこと。世の中が鉄パイプ製家具に取り組み始めた時代に強固な構造体「ポルティーク」を活かした独自の構造を探った。
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身体の骨格さながら鉄骨などの骨組を構造体とし、その骨格に「ロジカルな補足」を加えることで建物の覆いになるとの考えもかたちにした。雨戸と庇の機能を備えた可動式のアルミニウムパネル、数日間で建てられるプレハブ式住宅、キッチンなどの設備を一カ所にまとめて主要な構造体とするセンターコアシステムも実現。「興味深く、時代を超えて注目される取り組みばかり」と岩岡。
「合理的で機械的な建築ですが、その姿は風景にとけ込んでいて、自然に近い存在であることも実感します。プルーヴェならではのヒューマンスケールにもぜひ目を向けてほしい」
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本展では、組立住宅そのものの展示に注目したい。他にドアパネルや窓、複数の構造体なども紹介される。「スタンダードチェア」として知られるシリーズなど、オリジナルの家具が100点ほど並ぶ。「家具は、製図台の上では創作できない」と素材を前に構造を探り、協働者たちと改良を重ねた「構築する人」の存在をまさに知る内容だ。
「美しいものは姿形ではなく、それを構成する組織からの発露」と述べ、頭脳と手がまさに直結していた人物の活動を振り返る本展。その業績をいま目にすることの意義にも岩岡は触れる。
「いまなぜプルーヴェが注目されるのか。素材に最小限の手作業を施すことで最大の機能をもたらす家具や建築、解体や移築ができ、変化に対応しうることで長く使い続けられる建築など、住まいのあり方を今日探る上でも示唆に富んでいます。こちらから迫るほどに見えてくる。それこそがプルーヴェの魅力の深さです」
『ジャン・プルーヴェ展 椅子から建築まで』
開催期間:7/16~10/16
会場:東京都現代美術館
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10時~18時 ※展示室入場は閉館30分前まで
休館日:月曜日、7/19、9/20、10/11 ※7/18、9/19、 10/10は開館
料金:一般¥2,000
※開催の詳細はサイトで確認を
www.mot-art-museum.jp/exhibitions
※この記事はPen 2022年8月号より再編集した記事です。