ゼロ・エミッションとは、Co2をはじめとする、気候や環境に有害な温室効果ガスを一切排出(=エミッション)しないこと、およびその仕組みを指す言葉だ。
人間が活動する上で「移動」は必須だが、ガソリンを利用する乗り物を利用する場合、移動のたびに地球温暖化に貢献していることになる。近年、多くの企業が有害物質の排出量を減らたり、カーボンニュートラル(CO2排出量実質ゼロ)を目指して研究を進めており、エコカーや電気自動車も浸透し始めている。
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こうしたエコ化の流れは陸だけでなく海の乗り物にも見られる。有害物質排出量の少ないクルーザーやスーパーヨットが設計され、次々にデザインやコンセプトが公開されている。
そんな中、オランダを拠点とする「ヴァン・ギースト・デザイン(Van Geest Design)」とアイルランドを拠点とする「ロブ・ドイル・デザイン(Rob Doyle Design)」が共同で設計したスーパーヨット「ドムス(Domus)」のデザインがお披露目された。全長40mのこのヨットの特徴は「低排出」ではなく「ゼロ・エミッション」であること。世界初「“温室効果ガス排出量ゼロ”を実現する750トン超えの大型ヨット」として、業界の話題をさらっている。
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排出量ゼロへの挑戦
「Dezeen」の報道によると、「ドムス」は、水素燃料電池、水力発電(航行によるエネルギー生成)、太陽光発電を組み合わせて動力を供給するメガヨットだ。
昼間だけでなく、夜間も蓄電システムにより航行可能。停泊中は発電機や排気ガスの音が聞こえないため、完全な静寂を保つことができるという。
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なぜトリマラン?
ヨットは、船体(ハル=Hull)が1つの「モノハル(単胴船)」と船体が複数ある「マルチハル(多胴船)」がある。ヨット情報のデジタルメディア「Yachts International」によると、ここ数年、大型ヨットの場合「広い空間」「高い性能」「航海中のヒール角(横傾斜角)の低さ」を考慮し、モノハルではなく、マルチハル、中でも船体が2つある「カタマラン(双胴船)」をデザインするのがトレンドだと言う。
しかし「ドムス」は船体が3つある「トリマラン(三胴船)」だ。「Dezeen」によると、「ドムス」をデザインした2つのスタジオは、「私たちは、大型スーパーヨットをカタマランで設計する現在のトレンドは、根本的に間違っていると考えています」と言い切っている。
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「40mを超えるサイズでマルチハル(多胴船)のメリットを求めるなら、現実的な解決策はトリマランしかないと強く信じています」
2つのスタジオの代表であるヴァン・ギーストとロブ・ドイルは、多角的にカタマランとトリマランを比較し、その上での結論だった。
航行のスピードの面では、カタマランよりトリマランの方が早いことは、2010年のアメリカズカップでBMWオラクル(27mトリマラン)がアリンギ(27mカタマラン)を破ったことからも明らかだ。
しかしスピードだけではない。2人が考えたトリマランは、中心の主船体の脇にアウトリガー(舷外浮材、転覆防止のための浮き)の役割を果たす2艘を備えるというコンセプトだ。トリマランにすることで船内スペースをより広くできるだけでなく、安全性、安定性(横傾斜角2度)を高めることができると考えた。
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とにかく広い! ラグジュアリーと心地よさを兼ね備えた船内
船内を見てみると、驚くほど居住スペースが広いことが分かる。
メインデッキには、2つのVIPキャビン、4つのゲストキャビン、ソーラーパネルで覆われた2つのアトリウム、スパ、ジム、プール、ビーチプラットフォーム、映画館、ラウンジエリアがある。屋内の総面積は780 m²。その広さをふんだんに活かし、オーナーとゲストが過ごす居住スペースをワンフロアにレイアウトしている。フロア全体を独占できるので、まるで海に浮かぶバンガローにいるような開放感と心地よさを満喫できる。
ゲストエリアからは見えないが、ギャレー(船内のキッチン)、ランドリー、クルー用スペース等のサービス関連エリアはすべて主船体のロウアーデッキ(下層階)にある。サービス関連エリアもワンフロアにまとめられていることで機能性が高まり、広さも十分に確保できる。脇にある2つの船体の下層階部分は倉庫スペースとなっており、救命ボートも収納されている。
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サステナブルな国際間移動手段として
環境活動家のグレタ・トゥンベリさんが渡米する際、飛行機移動を避け、ヨットで移動したことは記憶に新しい。
「ドムス」は富裕層向けのスーパーヨットであり、一般向けの移動手段ではない。しかしこうしたヨットが開発され、ゼロ・エミッションのテクノロジーがさらなる進化をとげることで、一般移動用の船舶も増える可能性もある。
飛行機に乗るたびにどこか罪悪感を感じている人は多いが、その解決策がこうした動きから生まれることを期待したい。
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「ドムス」のデザイン&コンセプト動画はこちらから
「Dezeen」によると、「ドムス」とは古代ローマのエリートが住んでいた邸宅を指す言葉。中庭やアトリウムを中心に配置されるのが一般的だったことから、このスーパーヨットのネーミングとして採用された。