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ポケットマルシェ代表・高橋博之インタビュー「都市と地方をかき混ぜて、一次産業を活性化」

  • 写真:黒坂明美
  • 編集&文:佐野慎悟
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高橋は全国各地の生産者を訪れ、直接対話することを自身のライフワークとしている。この日は千葉県君津市で無肥料、無農薬の自然栽培を実施する、松崎裕一郎さんの「ののま自然農園」を訪れ、将来の展望について語り合った。

野菜や果物、魚介類などを生産者から直接購入できるECアプリ「ポケットマルシェ」。2016年にサービスを開始し、コロナ禍で利用者は急増。2022年3月時点で51万人にまで達した。サービスを立ち上げた代表の高橋博之は、そのほかにも農業体験やワーケーション、電力事業など、さまざまな事業を展開中だという。その根底にある思いとは何なのか、話を訊いた。

6月28日発売のPen8月号「アイデアと行動力で世界を動かす、“仕掛け人”を探せ!」から一部を抜粋して紹介する。

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高橋博之●起業家、雨風太陽代表取締役。1974年、岩手県生まれ。政治家として活動する中で、生産者と消費者をつなぐ必要性を感じて起業家に転身。2013年に毎月ひとりの生産者にスポットライトを当て、食材が付録で付いた情報誌『東北食べる通信』を創刊。16年、農家や漁師から直接食材を購入できるスマホアプリ「ポケットマルシェ」をスタート。地域と多様な関わりをもつ人々を表す「関係人口」という言葉の考案者としても知られる。Twitter::@hirobou0731/Instagram:@hirobou0731Facebook:@hiroyuki.takahashi.102

「第一次産業の六次産業化」という言葉をご存じだろうか? 一次産業である農業や漁業の現場において、二次産業の加工、三次産業のサービスや販売を掛け合わせていくことで、生産者の所得の向上や雇用の創出を目指すという取り組みだ。くしくもこのコロナ禍で、その重要性はさらに浮き彫りになったといえる。ここ数年で、既存の販路を失いあぶれてしまう生産者と食材が大量に生まれた一方で、多くの消費者の間に自炊する習慣と、それをもっと充実させようとする意識が生まれた。そんな状況の中、消費者に直接リーチしようとする生産者と、よりよい食材を直接取り寄せようとする消費者のニーズは、インターネットやSNSにタッチポイントを求めた。

その流れを後押ししたのが、国内最大級の産直ECアプリ「ポケットマルシェ(ポケマル)」だ。代表の高橋博之は、「生産者と消費者をつなぎ、都市と地方の分断を解消する」を命題に、さまざまな事業や取り組みを展開してきた人物だ。

「いまや全国の農家や漁師の手の中にはスマホがあって、それぞれが情報発信も直販もできる時代です。自ら消費社会に躍り出て、自分たちの言葉で語りかければ、共感する消費者と直接関係を築くことができるのです」と高橋。

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左:無肥料、無農薬の自然な環境で育てられた春菊を、その場で試食する高橋。周囲には雑草なども多く、野菜が自分の力で養分を探して生き延びようとするため、生命力の強い野菜に育つという。 下:そら豆はへそが黒く変色する直前が収穫の目安。生の状態で試食してみると、やわらかくて優しい甘みも感じられる。

ポケマルの特徴は、生産者側からの情報発信ばかりではなく、消費者側からのフィードバックにも重きを置いている点だ。

「いまの消費者は、ただ物を買うだけではなく、生産者や地域とのつながりをもつことにも、大きな価値を感じていると思います」

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政治活動、「東北食べる通信」「ポケットマルシェ」と、これまでのキャリアの中でいくつものフェーズを経てきた高橋博之だが、すべての活動の根底にある思いは、驚くほどに一貫している。

「都市と地方をかき混ぜる。そうすれば、都市も地方ももっと元気になれる。僕がやろうとしていることは、これに尽きます。昔からなにひとつ変わっていません」

その思いを実現させるための手段が、実際に高橋の活動内容となってきた。結果的に社会のニーズと合致したポケマルはここ数年で急成長を遂げたが、それでも高橋の頭の中には、さらなる展開が渦巻いているようだ。

「人は価値に対して対価を払いますが、地方には自然、食材、ゆとりなど、現代の都市生活者が求める価値が豊富にあります。その価値を通して、人が多すぎて困っている都市から、人が少なくて困っている地方に対して、『関係人口』やお金の流れが生まれることは、とても自然なことだと思います。そのわかりやすい例がポケマル。でもそれだけでは、目標の達成には至りません。もっと都市と地方の交流が日常的なこととして、日々の生活の中で繰り返されていかなければ意味がありません」

そんなビジョンを実現させるために、高橋はいま農業体験、地方留学、ワーケーション、電力事業と、さらに事業展開の幅を多角的に拡大させている。

「僕は顕在化したニーズに向けて事業を展開するよりも、人との対話の中から見えてくる、潜在的なニーズを掘り起こすことに力を向けています。それが、世の中を変えるということだと思うので」

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ポケットマルシェのYouTubeチャンネルでは、高橋が全国の生産者、学生、行政担当者らと歩きながら議論を交わす、「高橋博之の歩くラジオ」を展開。毎朝のウォーキングの時間を活用し、情報や意見交換を行う。

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ECアプリ「ポケットマルシェ」

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農家や漁師から直接食材を購入できるスマホアプリ。出品者は加工業者や販売業者を除く、審査に通った生産者のみ。購入前でも、食べ方や保存方法など、気になることを生産者に直接質問できる。さらに「コミュニティ」機能では、農家や漁師の方々が産地の様子や食材のおいしい食べ方などを日々現場から発信。消費者もレシピを共有するなど、双方向のコミュニケーションが生まれている。

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体験イベント「ポケマル親子地方留学」

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左:生産者のもとで田植え体験をする子どもたち。農業の他に、ホタテ養殖場での殻むき体験、自分で割った薪で火起こしをする入浴体験、食事で使う箸を自作する工作体験などのプログラムを予定している。 右:プロのハンターに同行して実施する鹿猟体験の様子。ジビエ肉の解体や調理も行う。

生産者のもとで自然に触れ、命の大切さと食の生産について学ぶ体験プログラム。宿泊施設とともにワーケーション環境も用意することで、親子の長期滞在を可能にしている。2024年中には1,000家族以上の受け入れを目指し、生産者の所得向上への寄与を狙う。

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体験イベント「Go To 生産現場」

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ライフル社が運営する、場所に縛られない働き方・生き方を実践するコミュニティで、全国にワーケーション施設を構える「LivingAnywhere Commons」とともに、宿泊と食の生産現場での体験がセットになった新サービスを開始。

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アワード「ポケマルチャレンジャーアワード2021」

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「地域」や「地球」の課題解決に向けて挑戦する、全国の生産者を表彰する独自のアワードを設立。2021年度のテーマは「一次産業の現場から、地球を持続可能に」で、9都府県から10名の生産者がアワードを受賞した。

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電力事業「ポケマルでんき」

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ポケマル登録生産者に対して、助成金等に関する情報提供や、農家同士のネットワーキングの促進などを通して、営農と同時に発電を行うソーラーシェアリングの導入を支援する。 

「みんな電力」と連携し、ソーラーシェアリング事業および電力小売事業に参入。電気と食材を同時につくるソーラーシェアリングの推進、および、生産者のつくった電気の販売を行うべく、事業展開の準備を進めている。

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農地の上部に設置した太陽光パネルを使って日射量を調節し、太陽光を農業生産と発電とで共有する取り組み。消費者に再エネ100%の電気を販売する。

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高橋博之のFAVORITE THINGS

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「骨伝導ワイヤレスヘッドフォン」

毎朝2〜3万歩のウォーキングをしながらリモート会議に参加したり、全国の生産者と対話したり。多くの仕事を屋外で行う高橋の必需品。これまで何度も交通事故の危険を感じた経験から、周りの音も聞こえやすい骨伝導タイプのヘッドフォンに行きついたという。

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※この記事はPen 2022年8月号「“仕掛け人"を探せ!」特集より再編集した記事です。