話題の広告を紹介するYouTubeチャンネル「広告ウヒョー!」。チャンネルに登場する3人が、いまヒットする広告と、2009年以降にエポックメイキングだった作品について語る。
6月28日発売のPen8月号「アイデアと行動力で世界を動かす、“仕掛け人”を探せ!」から一部を抜粋して紹介する。
「広告ウヒョー!」なるYouTubeチャンネルをご存じだろうか。CMプランナーの福里真一とクリエイティブ集団PARTYの代表を務めるクリエイティブ・ディレクター伊藤直樹、そして、広告営業を担当する山田百音の3人が、「ウヒョー!」と心を動かされた広告を取り上げ、メッセージや仕組み、波及効果などを紹介する内容だ。ユニークなチャンネル名だが、かつて存在した広告雑誌へのオマージュであることに、広告業界関係者ならお気づきだろう。
「私と伊藤さんは、学生時代から『広告批評』を愛読した広告批評チルドレン。広告を仕事にしたきっかけでもあります」と福里。しかし、このチャンネルが広告批評の動画版かといえば、少し異なるようだ。伊藤が語る。
「広告批評そのものではないが、批評が文化を育むという側面もある。批評的な視点を盛り込みつつ広告を紹介したいし、なにより広告文化を盛り上げたいのです」
一方、若手の山田はそんなふたりを異なる視点から支える。
「私の役割は若い世代の“捉え方”であり、ふたりとのギャップ。感じたままを語っています」
動画で取り上げる広告に基準や条件はあるのだろうか。
「いわゆるバズった広告です。SNSで話題になることが、いまの時代の広告のポイントですよね」
一方、純粋な“感動”を取り上げる基準にしているのが福里だ。
「観た瞬間、条件反射で『ウヒョー!』と言ってしまう広告を紹介したい。この動画の出発点ですし、そう感じられることが広告にとっても大事だと思うから」
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ファッション同様に広告にも流行がある。近年の広告におけるトレンドとは、いかなるものか。福里と伊藤の両氏に、『広告批評』が休刊した2009年以降、広告のトレンドとなった代表的な作品を選んでもらった。
「キーワードとして『リアル』と『ナンセンス』、『素直』の3つが挙げられます」と、マス広告のトレンドを示した福里に対し、伊藤はネットでの反応を解説する。
「価値観が多様化したいま、視聴するメディアや番組、スタイルもさまざま。でも、心のどこかで共有できる物語を欲していて、それがSNSでバズることで顕在化していますよね」
「ツイッターで拡散された広告が、よくも悪くも広く認識されている。実際にその広告を見ていなくても、拡散された情報で感動は共有できますから」
山田の意見を伊藤が受け取る。
「つまり、他人の感動を引き継いで感動する現象が起きている。僕はこれを“ツイ体験”と呼んでいますが、いま制作側もそうしたSNS特有の拡散の仕方を研究しています」
一方、福里はSNSでの拡散頼みの広告制作に異を唱える。
「とはいえ、バズる=世の中の総意ではないと思うし、バズる広告だけがよい広告かと言えば……。って、そういうことを言う人がいてもいいでしょ!?(笑)」
新型コロナウイルスは人々の生活を一変させた。それは、広告にも大きな影響を及ぼしている。
「人と会う機会が減り、感動する機会が制限されたいま、みな感動を欲している。より心を動かす広告が求められていると思います」という伊藤に対し、福里はつくり手目線でコメントする。
「価値観が変わったなら、企業も新たな価値観に向けた商品やサービスを開発する好機でもある。それを伝える広告側も、ですね」
山田は広告を伝えるメディア自体が変化していると指摘する。
「いま、人間そのものがメディア化しています。インフルエンサーと呼ばれる人たちはさらに増え、個性と発信力が問われる時代は、まだまだ続いていくのではないでしょうか」
YouTubeチャンネル「広告ウヒョー!」
サントリーBOSSの「宇宙人ジョーンズ」シリーズをはじめ、2000本ものCMを手がけてきたCMプランナーの福里真一と、クリエイティブ集団PARTYの代表を務める、クリエイティブ・ディレクターの伊藤直樹、広告営業を担当する山田百音の3人によるYouTubeチャンネル。思わず「ウヒョー!」となる広告を取り上げ、その魅力と手法を解説する。
https://bit.ly/3xuRAXn
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2009年以降の時代を映した話題の広告たち
2011年 CM「祝! 九州新幹線全線開業」
九州新幹線の全線開通を歓迎する沿線住民の様子を新幹線から撮影したCM。
「放映直後に東日本大震災が発生し放映中止になったものの、心温まる映像に勇気づけられるとネットで爆発的に再生された。斬新な企画や面白いストーリーより、真実こそが人の心を動かすという“リアル”の力を再認識したCMです」(福里)
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2011年 CM「Google Chrome:Hatsune Miku (初音ミク)」
世界中のアマチュアミュージシャンが、自作の曲をボーカロイドの初音ミクに歌わせ、ネット上にアップし世界へと拡散する様子を捉えた、「Google Chrome」のCM。
「現在ではメジャーなYouTuberなどクリエイターエコノミーの発生を11年前に示唆していた。Googleらしい先進性を感じました」(伊藤)
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2013年 映像「Sound of Honda/Ayrton Senna 1989」
1989年のF1日本グランプリの予選で“音速の貴公子”アイルトン・セナが樹立した鈴鹿サーキットの最速ラップを、走行データを基に光とエキゾーストノートで再現した。
「カンヌライオンズのグランプリを獲得し、翌年には同賞にクリエイティブ・データ部門が誕生。つまり新部門を設立させた作品です」(伊藤)
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2014年 CM「日清カレーメシ『カレーメシ登場』篇」
不条理な展開が満載の“ナンセンス”CMの先駆け。
「私をはじめこれまでのプランナーはどうしても意味ある面白さを考えてしまうが、この脈絡のなさが、若者にウケるんですよね。でも、ある程度の年齢になるとできないんだよなぁ」(福里)。「フリやオチという予定調和ではない展開が面白いんですよ」(山田)
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2020年 CM「カロリーメイト『見えないもの』篇」
コロナで野球大会も中止になり受験勉強に向かわざるを得なかった生徒と、顧問の先生との心の会話を描く。
「以前はちょっと捻ったり深いところを掘り下げるのがよいCMだったが、これはとても“素直”な語り口で描かれている。コロナ禍のいま、そうしたCMが心を動かすことを認識させられました」(福里)
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2022年 3D屋外広告「3D巨大猫動画 #ネコにルンバを」
新宿駅東口駅前広場前にある、3DのLEDビジョン広告内に“住む”猫で、渋谷のハチ公や池袋のいけふくろうに並ぶ、新宿の名物キャラ。
「人気が出てからは広告にも登場するように。いま、この企画を提案した会社に、コラボ広告制作の依頼が舞い込んでいるとか。素晴らしいビジネスモデルでもあります」(伊藤)
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2022年 屋外広告「Netflix×Tinder」
動画配信の「Netflix」とマッチングアプリ「Tinder」が、渋谷のビルボードを舞台に展開したコラボ広告。
「ビルボードをリングとした、“広告のプロレス”であることが面白い。本気の喧嘩だった昔の比較広告とは違い、お互いの作品をやんわり否定し合っているところに進化を感じました」(伊藤)
※この記事はPen 2022年8月号「“仕掛け人"を探せ!」特集より再編集した記事です。