北海道砂川市発の化粧品ブランド、SHIROが市民とつくる「みんなの工場」。来春のオープンに向け、SHIROの今井会長とクリエイティブ・ディレクターのムラカミがその想いを語る。
雄大なピンネシリ岳の麓、命を育む石狩川のほとり。北海道砂川市発の化粧品ブランドSHIRO(シロ)がいま、地元と一体で進めているまちづくりが「みんなのすながわプロジェクト」だ。発足から1年。10回を優に超えるワークショップを経て、関わる有志たちの輪は膨らみ、計画の要となるシロの新施設「みんなの工場」は、来春オープンの予定。この5月、ついに着工の時を迎えた。
「SHIROを育ててくれた砂川への恩返しに注力したい」と、自ら旗振り役となって奔走するのが、SHIRO会長兼プロジェクト実行委員長の今井浩恵。彼女とともにプロジェクトのクリエイティブ・パートを担うのが、シロのブランディングを手がけるムラカミカイエだ。新しい時代の等身大な世界観をビジュアルで表現してきたムラカミ。今井とは企業とクリエイティブのあり方について日頃から意見を交わしてきた。グッドデザイン賞の審査委員を務めるなど、これからの社会に必要なデザインを考え続ける彼にとって、今回の挑戦は自分の転機とも重なったと語る。
「ファッションやビューティといった分野は、時代の憧れの最前線にいます。しかし、環境問題が深刻になり、経済が停滞した世の中ではそれらが社会悪になることもある。世の中が本質的なものを望みはじめた時、このままでいいのだろうか、人や社会の欲望の矛先を、自分ごととして、あるべき方向に戻したいと考えていました」
コロナ禍で世相が変化し、憧れや美しさの価値転換を図るイノベーティブな海外企業の事例を、ムラカミはいくつも目にした。
「そうした話に今井さんが反応し、新工場移転を機に、地域住民のためになるコトを起こそうと、意気投合しました」
SHIROがやってきた、本質的なものづくり。廃棄される昆布や酒粕などの原料を採取し、自然の底力を蘇らせて製品へと活用する。そうした工程に光を当てる施設を建て、市民の居場所として開放すれば、それこそがSHIROらしい社会貢献ではないか。共創のための工場、それが「みんなの工場」のアイデアとなった。
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企業の独りよがりではなく、これからの地域に向けて
市民、企業とクリエイター。初めはそれぞれの意識が異なり、同じ方向を向くのに時間がかかったと、今井は振り返る。
「私たちがつくるべきは子どもたちの場所だと、最初は思い込んでいました。でも、市民の声を聞くと、大人も居場所がほしい。SHIROでは、自分がほしい商品を真摯につくったら、みんなも欲しがってくれた。今度は企業の独断ではなく、地域が本当に必要とするものをつくろうと思った時、行動が変わったんです」
ワークショップを起点に、関わる人のどんな小さな疑問も取り除くプロセスを徹底した。決して、東京のクリエイターが過去の栄光を持ち込むだけの地域創生にならないように。ムラカミは言う。
「工場の設計コンペも、未来をつくる世代に打席を与えたいという思いから若手のアリイ イリエ アーキテクツを選んだ。不安がないといえば嘘になるけれど、結果として間違いなかったですね。彼らはこれからの時代や社会の内なる声を理解していて、それがプランにも色濃く出ていました」
アリイ イリエは市民と対話し、そのたびに図面を直した。根本から覆すようなプラン変更もあったという。
「それでも怒らず、市民にとってこのほうがよかったです、と喜んでくれた。彼らのそんな姿勢に感動しました」と、今井は語る。
オープンは来年だが、今年12月には新工場が稼働する。いまムラカミが進めているのは、サイン計画やユニフォームのデザイン。イッセイミヤケ出身の彼にとって、ユニフォームは専門領域だ。狙いは「工場で働く人たちの地位を上げること」だと今井は言う。
「彼らがいるからこんな素敵な製品ができる。職人の魅力的な姿に接して、子どもたちが憧れと希望を抱くような見せ方をしたい」
関わる誰もが当事者になれる「みんなのすながわプロジェクト」に、ムラカミはクリエイティブの本道を見ていると語る。
「市民がいて、企業が寄り添うことで強くなり、地域が変わる。かたちがなかったり、終わりのないデザインがあってもいい。社会の幸せの分母を増やしていく手段として、デザインの可能性をより広めていきたいですね」
https://shiro-sunagawa.jp