グラフィック・空間・映像・アートピースなど、さまざまなアプローチで制作活動を行うアーティストYOSHIROTTEN。
この連載では「TRIP」と題して、古くからの友人であるNORI氏を聞き手に迎え、自身の作品、アート、音楽、妄想、プライベートなことなどを織り交ぜながら、過去から現在そしてこれからを、行ったり来たり、いろんな場所を“トリップ”しながら対談します。
NORI いま我々は、山梨県北杜市にあるガスボンという施設にいます。僕が企画を担当しているCALM & PUNK GALLERYの母体で、クリエイティブエージェンシーのGas As Interfaceが1年ほどかけて地元の大工さんや色んな方々の協力の下、リノベーションを進めています。
元々はベルボンという、三脚の専業メーカーの簡易工場兼、倉庫だった建物が二棟あって。土地と床で総面積1700平米ぐらいで、最初は腰抜かすくらい大きく感じました。ゆくゆくはこの場所を、僕たちだけじゃなくて、この環境をおもしろがってくれる人たちがいろんな楽しみ方ができるような総合施設にしたいと思っていて、この夏にオフィシャルにオープンする予定です。
NORI 今日は先ほどヨシローくんの作品、SUNの撮影を終えたところです。
先日のRAINBOW DISCO CLUBで見かけた人もいるであろう、ヨシローくんの新シリーズ「SUN」なんですけど。今年のRAINBOW DISCO CLUB、楽しかったですね。
YOSHIROTTEN うん。4年ぶりにいつもの東伊豆で開催することができたので、盛り上がってました。これは行った人たちしかわからないけど、なにかとってもいい空気感で。
NORI うんうん。
YOSHIROTTEN 天気は悪かったんですけど、みんなが楽しい感じは久しぶりで。「帰ってきたなぁ」という感じがありましたね。
そうなるであろうということは僕は参加する前から分かってたので(笑)、これで今年も参加しないことにはって、モヤモヤしていたときに、RAINBOW DISCO CLUBに出店していたバーの人から「ヨシローくん、今年は展示やらないの?」って言われて、やれるならやりたいなって。4年前のRAINBOW DISCO CLUBでは、ジョニー・ナッシュっていうアーティストと、森のなかでインスタレーションをやったんですけど、今年も同じ場所で新しい自分の作品を展示して、そこで起きるなにかをつくりたくて。
自分がコロナ禍にずっと制作し続けてきた、SUNっていう作品のシリーズを発表する場にしようと思ったんだよね。一部ではあるけれど、SUNをフィジカルで形にしたのは初めての試みです。
NORI 参加したいというのは、ヨシローくんからRAINBOW DISCO CLUBに提案したんですよね?
YOSHIROTTEN そうです。
NORI 僕はひそかに今回のRAINBOW DISCO CLUBのなかで、究極の参加者だなと思ってました(笑)。あの作品を持ち込んで、パーティも楽しんで。その感じいいなって思って見てました。
SUNのシリーズをつくり始めたきっかけはいつからだったんですか?
YOSHIROTTEN SUNをつくりだしたのは、この3年の間なんだけど、この3年間は、毎日なにかをつくっていこうという気持ちが、いままでよりも芽生えた時期だった。コロナ禍になって、どんなことが起きるかわからない時代になったじゃない? 展示しようと思ってたことや、仕事でやろうとしていたこととか、アウトプットできなくなってしまったことが、すごく色々とあったので。逆にできたことも、もちろんあったんだけど。
でも、「つくれない」っていうことに、自分のなかで反発したいというのがあって。衝動的に「つくりたい」っていう気持ちが高まってきていたなかで、毎日なにかをつくっていく、毎日ひとつつくりあげようと思っていたときに、僕がイメージした架空の世界っていうのがあるんですけど、その世界のなかの太陽っていう設定で、365日分作品をつくるっていうのを、とくに人に宣言してやり始めたわけではないんですけど、やり始めたのがSUNのシリーズのきっかけかな。
NORI いま300くらい?
YOSHIROTTEN いまだいたい数としては、それくらいできてますね。できない日もあったんだけど、できる日はつくっていっていて。
NORI いままで、SUNはおもに平面の支持体やディスプレイ上で見るものだったかと思うのですが。今回はRAINBOW DISCO CLUBがあったから、モノリスみたいなあの形になったんですか?
YOSHIROTTEN そう。自分の作品は昔から、別な光を通すことで現実の世界が変化して見えるって仮説に基づいて制作をしているので。その象徴的な光っていうのが、フィジカルな太陽の光を作品に当てると考えたとき、太陽光とコネクトするというか、作品と融合してみるということを表現したかったので、その場所に平面の物体を置くというのではなく、光っていうものを捉えるようなマテリアルを使った立体物にした。太陽の光とか夜のライトが当たったりする場所で、作品を見せるためにあの設計で。モノリスのような箱型のものを置いてみようということになった。
NORI そういう意図もあって、光を反射しやすいあの素材を選んだんですね。
YOSHIROTTEN 元々、自分の作品はアルミやステンレスなどの反射素材を使ったり鉄を使ったり、人が見る角度によって色が変わったり、すごくシャイニーになったり。その場所と、時間、光、鑑賞者の位置によって、見え方が変わる。今回使った素材も光をすごく反映する。
もちろん、365個の作品すべてを形にしたいんだけど、数も大きさも半端ないんで、まずはちょっとずつ。あとはメタバース上でも見せていくというプランもあります。
NORI ガスボンのギャラリースペースの、一番大きな開口部のシャッターを開けて、自然光が入る場所にSUNを展示したんですけど、自然光との相性が抜群で。ただ見え方は刻々と変化していく。時間によって光は移動していくし、雲がかかってくると光源が弱くなっていくんですけど、作品と光がバチっとハマった、5分間とか10分間がすごく綺麗でしたよね。人工の照明は一切ナシで。
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NORI これからこの作品を、ほかの場所に展示したいとかありますか?
YOSHIROTTEN SUNを湖に浮かべてみたり、砂漠に置いてみたり、いろんなところに移動して現れる作品にしたいなって思ってる。その環境によって光や街がつくり出す光ってすごく変わってくるので。時間や時期、場所でも変わってくる。そういうのは意識してる。
NORI すごく神々しい感じがしましたね。ヨシローくんから、SUNは“別の世界へのインターフェース”って聞いていて、頭で考えているときはどういう解釈なんだろうと思って。まだ言語化できてないのですが、SUNと光がバチっとハマった瞬間を目にしたとき、映画のワンシーンを見ているような気分で、感覚的にはスっと附に腑に落ちました。
YOSHIROTTEN 現実的に起きている話で、中国とかドイツで人工太陽の研究が進められていて、それは人工太陽を人類の新しいエネルギー源にするための計画らしくて。そういう事象も、作品に取り入れているところがあるんだよね。
SUNの世界観が、すべて架空の話というよりも、いま現実と仮想の世界が混じり合っていっている境目だと思うので、自分が生きる環境を投影していくというのもひとつのテーマとしてある。
NORI 撮影してて、ちょっと休憩するのに外へ出たんですけど、目の前に南アルプスの山々が連なっていて田んぼが見えていて。「自然すげえな」って言ってたんですけど、この自然からインスピレーションを得て、SUNがあって。その対比が、なんかおもしろかったんですよね。本物の太陽は上空にあって、“SUNは下にある”のも面白かった。
YOSHIROTTEN 光がないとなにも見えないし、空気がないと音も聞こえないし、水がないと生きていけない。そういう究極のところに太陽はあって、やっぱり太陽ってすごいとんでもない存在だなっていうのはずっと思っているから。それをモチーフとした作品をつくるというのは、自分としてしっくりくるんだよね。
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NORI 話がRAINBOW DISCO CLUBに戻っちゃうんですが、僕が現場にいるとき、台風のような体感の大雨のなか、楽しもうとして踊り続ける人たちの「集まって踊りたい」っていう、太古から変わらない人間の欲求みたいな様子を見て、すごい畏怖の念を感じてしまっていて。自分も「さっきシャワー浴びたっけ?」みたいなくらいびしょ濡れで。現場では気づけなかったけど、いまそことSUNにリンクするものがあったことに気づきました(笑)。原始的で強い欲求とか象徴というか。
自然ってすごいソースだな、みたいなクリシェを正面から思い切り感じてしまって。そういう意味でもSUNって根源的なテーマを持った作品ですね。
YOSHIROTTEN そうだね。FUTURE NATUREのアザーサイド的な形で、4年前のRAINBOW DISCO CLUBでも光を捉えるスティックを森の中に置いて、回転させるというインスタレーションをやってきたりしてたんだけど。今回のプロジェクトも同じで、自然と融合する作品を見せることによって、自然への意識をもたせることができたり、なにか既成概念を変えることができたら、それは僕のなかではパンクだなって思っていて。
そこはずっと継続してやっている、一番つくりたいもの。そこをもっと強く表現していきたいっていうのはある。
連載記事
- TRIP#1
「Future Nature」には、本当にぶっ飛ばされました - TRIP#2
限定500冊のアートブック『ヴェルク(WERK)』をめぐって
グラフィックアーティスト、アートディレクター
1983年生まれ。デジタルと身体性、都市のユースカルチャーと自然世界など、領域を往来するアーティスト。2015年にクリエイティブスタジオ「YAR」を設立。銀色の太陽を描いた365枚のデジタルイメージを軸に、さまざまな媒体で表現した「SUN」シリーズを発表し話題に。24年秋に鹿児島県霧島アートの森にて自身初となる美術館での個展が決定。
Official Site / YAR
1983年生まれ。デジタルと身体性、都市のユースカルチャーと自然世界など、領域を往来するアーティスト。2015年にクリエイティブスタジオ「YAR」を設立。銀色の太陽を描いた365枚のデジタルイメージを軸に、さまざまな媒体で表現した「SUN」シリーズを発表し話題に。24年秋に鹿児島県霧島アートの森にて自身初となる美術館での個展が決定。
Official Site / YAR