ロードトリップでとらえた、現代アメリカの叙情と詩情
2004年にホイットニー・ビエンナーレに選出され、写真集『Sleeping by the Mississippi』で話題をさらったアレック・ソス。ニューヨークの大学で美術を学んだのちに写真へ転向し、故郷ミネソタを拠点に活動している。日本の美術館では初となる待望の個展が開幕する。
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今年刊行されたアレック・ソスの最新作品集は『A Pound of Pictures』。その最後のページに収められたのは、撮影に向かう際のクルマのハンドルを撮った一枚だ。そこにはメモが貼られ、撮影のリストが並ぶ。
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コンセプトを明快にしたうえで、「冒険に出かけるような気持ちで、旅をしている」と語るソス。ウォーカー・エヴァンスやロバート・フランクらからつながるアメリカならではのオンザロード系写真の現代の担い手だ。ヴィム・ヴェンダースの映画『さすらい』を目にして旅への情熱を強くしたという。
今回の個展は、ミシシッピ川流域を旅して撮影し、彼の存在を世界に示した『Sleeping by the Mississippi』をはじめ、『NIAGARA』『Broken Manual』『Songbook』『A Pound of Pictures』から選りすぐった作品を鑑賞できる貴重な機会。所属する写真家集団マグナム・フォトの世界巡回展も話題だが、それとは異なり、本展のための独自構成を満喫できる。
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世界を移動する行為そのものに関心を抱き、そのことから写真を表現手段としたソスの作品の魅力について、神奈川県立近代美術館のキュレーター、三本松倫代は語る。
「本来の性格はとてもシャイで、レンズを通し、被写体との距離を意識して写真にとらえてきたと本人は語っています。世界と写真家を隔てる空間の意味は、近年ソスの内面で豊かな変化を遂げており、これらの作品を体験することで、私たち自身と世界との関係もあらためて意識させられるところです」
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映画制作さながらコンセプトを練りに練り、「中身を入れる容器」となるタイトルも決めて撮影地に向かう一方、「写真の意味は観る人によって変わるもの。十分な余白が大切」と考えるソス。綿密な準備とていねいなアプローチ、控えめな眼差しでとらえた写真は、被写体の存在や彼らを包む空気を伝える。人々の心の奥を静かに浮かびあがらせるかのようだ。
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「明確なフレーミングを定めた撮影から、詩的でメランコリックな表現が生まれ出ています。最新作『A Pound of Pictures』にはヴァナキュラー写真と呼ばれる無名の人々が撮った写真も含まれています。写真というメディアを探る一貫した姿勢とともに、自身以外のものを受け入れようとする姿勢や態度が、ソス作品に滲みでてきているのです」と三本松。
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写真家の世界を空間で鑑賞できるのが、展覧会としての醍醐味だ。
「写真集が話題となっているので作品を目にしたことのある方もいると思いますが、オリジナルプリントの美しさを、ぜひ感じていただければ。展示された作品と作品のあいだの余白や、視界に入る作品の関係など、空間における経験すべてを通して、叙情的な作品に触れる醍醐味を味わっていただけると思います」
海に面し、山が目の前に広がるロケーションでの展覧会。会場に向かう路上の時間そのものも、ロードトリップを大切にするソスの世界に近づくものとなりそうだ。
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『アレック・ソス Gathered Leaves』
開催期間:6/25~10/10
会場:神奈川県立近代美術館 葉山
TEL:046-875-2800
開館時間:9時30分~17時 ※入館は閉館30分前まで
休館日:月曜日 ※7/18、9/19、 10/10は開館
入場料:一般¥1,200
※開催の詳細はサイトで確認を
www.moma.pref.kanagawa.jp/hayama
※この記事はPen 2022年7月号より再編集した記事です。