チグリス川とユーフラテス川が干ばつに見舞われているイラクで、湖底から古代都市の遺跡が出現した。渇水による流域の農作物へのダメージを防ぐため、イラク最大のダムであるモスルダムから水を汲み上げ続けた結果、3400年前の古代都市がダムの水面下から姿を現した。
遺跡はダムの水量が回復すれば、再び湖底に姿を消すことになる。時間との戦いのなか、考古学者たちが現地に急行し、調査にあたった。顕著な成果が上がっており、発掘チームは都市全域の建物図を記録することに成功している。また、くさび形文字が刻まれた陶器など、多くの出土品も確認された。
遺跡の存在自体はこれまでにも知られており、2018年の干ばつの際にも同様のスピード調査が行われている。当時、宮殿跡から鮮やかな赤や青に彩られた壁画の痕跡が発見され、学者たちは色めきたった。宮殿は巨大なもので、高さ6.7メートル、厚さ1.8メートルという大規模な壁に囲まれている。
非常に重要な発見だったが、当時は水位回復までの時間的猶予がなく、都市の全体像の把握には至らなかった。そこで、今回の追加調査が実施される運びとなった。調査は今年1月から2月にかけて実施され、このほどカール大がプレスリリースを通じその成果を発表した。
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発掘作業は時間との戦いだった
考古学者たちは、このチャンスを待ちわびていたようだ。イラクの考古学チームと共同で発掘を進めたドイツ・エバーハルト・カール大学テュービンゲン校の発表によると、ダムの水位低下を受け、「数日のうちに救出考古学のチームが組織された」ほどのスピード感だったという。
チームは即座に支援財団から資金援助を取り付けると、「貯水池の水がいつまた上昇するか知れないという計り知れないほどの時間的プレッシャー」のなか、現地での作業にあたった。
苦労の甲斐あって、2018年に記録がほぼ完了していた宮殿に加え、古代都市の大部分を地図に書き起こすことができたようだ。今回新たに、塔のある巨大要塞や、複数の階層からなる大型の貯蔵庫、作業場兼倉庫として使われていた複合的建造物などが確認された。
遺跡の詳細は研究中だが、米スミソニアン誌は、紀元前1350年ごろまで栄華を誇ったミタンニ帝国の古代都市・ザキクではないかと伝えている。ミタンニ帝国はインド・イラン人が建国した数ある王国のひとつで、最盛期には1000キロ近くにわたり支配を及ぼしていた。
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保存状態の良さに驚愕
カール大の発表によると、都市全体のあまりの保存状態の良さに、「研究チームは衝撃を受けた」という。1980年にダムが建造されて以来、泥を日干ししただけのレンガでできた建物が40年以上、水深数メートルに沈んでいたことになる。しかし、建物の状態は良好だった。
研究チームはその理由として、偶然にも大昔の地震が考古学上の好影響を残したとみている。紀元前1350年ごろ発生した地震に見舞われ、都市の広い地域で、高さ3メートルほどある壁の上部が崩壊した。上部から降ったがれきに建物下部が埋没したことで、日干しレンガがダムの水気から保護されたという。
古代の地震と現代の渇水という2つの偶然が重なりあい。往時の街の様子が解き明かされたようだ。
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【画像】湖底から姿を現した3400年前の古代都市
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