絶好調の『トップガン マーヴェリック』。首都圏では週末のIMAXのチケットが争奪戦状態で、予約販売開始と同時に座席を確保しなければ買えない状態になっている。
興行成績の記録を塗り替え、トム・クルーズは、ストリーミングの台頭やコロナによる映画館閉鎖で先行きが不安だった映画界の救世主となった。
だが、飛ぶ鳥を落とす勢いの『トップガン マーヴェリック』に暗雲が立ち込めつつある。
著作権侵害で訴えられたのだ。
Paramount Hit With ‘Top Gun’ Copyright Lawsuit From Original Article Author’s Heirs https://t.co/rOazUEpbT5
— The Hollywood Reporter (@THR) June 6, 2022
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訴えたのは原作者の遺族
『トップガン』(1986)は、『California』という雑誌に掲載された「Top Guns」という記事が元になっている。執筆したのは故エフド・ヨナイ。パラマウントは、1983年の4月にこの記事が出るとすぐに映画化権を取得。ヨナイは、同年10月に著作権を登録した。
映画化された『トップガン』は、トム・クルーズとヴァル・キルマーの掛け合いや、迫力のあるドッグファイトが好評で興行成績的にも大ヒット。トム・クルーズは続編製作に意欲的であったものの、作品のクオリティとブランドを守るためにオファーを断り続けてきた。
そして、2018年に全ての条件が整い、35年という時を経て『トップガン マーヴェリック』のプロダクションが動き出したのだが、ここで著作権をめぐるちょっとした問題が発生。
実は、アメリカの著作権法では、1977年以降の著作物は35年経過すると使用権利が著作権所有者に戻される。つまり、『Top Guns』(1983)は2018年で35年を迎え、使用権を戻せる状態になっていた。
エフド・ヨナイの妻と息子は、2020年1月24日をもってして使用権の停止をパラマウント側に言い渡した。
ところが、すでにプロダクションに入っていたパラマウントは重要視していなかったらしい。それもそのはず。『トップガン マーヴェリック』の公開予定日は2019年夏に設定されていたため、順調にいけば、使用権がパラマウント側にある間に公開できるはずだったのだ。
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大きな誤算
だが、ここで大きな誤算が発生する。
製作期間がのびただけでなく、新型コロナウイルス感染の広がりを受けて映画館が閉鎖されたのだ。劇場上映にこそ意味があると思っていたスタジオ側は配信という選択肢などはなから考えていない。
そして、コロナが私たちの日常になりつつある2022年5月27日、ついに劇場公開という運びになった。完成した作品を観た人たちは、口を揃えて「劇場公開まで待った甲斐があった」「配信にしなくてよかった」と言い、喜んだ。
しかし、華やかなムードの裏で、著作権侵害の訴訟準備が進んでいた。
何を隠そう、パラマウントは2020年1月24日の時点で『Top Guns』の使用権を持っていなかった。ヨナイの妻と息子がパラマウントに使用権停止を告げたとき、パラマウントは延長の交渉や手続きを踏まなかったからだ。
結果的に、ヨナイの妻と息子は著作権所有者として、2022年5月13日に著作権侵害行為による『トップガン マーヴェリック』の公開停止をパラマウント側に送った。にもかかわらず、それを無視して映画は公開を迎えたため訴訟に至ったようだ。
訴訟を受け、パラマウント側は戦う意向を発表。「これは価値のない主張であり、精力的に弁護する」と書いている。
泥沼の争いになりそうな予感がするが、大ヒット作が著作権侵害で訴えられることは決して珍しいことではない。せっかくなので、意外な「訴えられた映画たち」も併せて紹介しよう。
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著作権侵害で訴えられた映画たち
『マトリックス』
日本のアニメが海外で高く評価されていることを認知させた作品としても知られるSF映画『マトリックス』(1999)。ソフィー・スチュワートは、自身が執筆した『The Third Eye』という脚本がウォッシャウスキー姉妹に無断で使用されたと主張。(『ターミネーター』にも使われたと主張している)。
スチュワートは法廷に現れなかったため、訴訟は棄却された。
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『パイレーツ・オブ・カリビアン』
ディズニーパークの人気アトラクション「カリブの海賊」を映画化した『パイレーツ・オブ・カリビアン』を著作権侵害で訴えたのは、超常現象小説家のロイス・マシュー。
彼は、海賊が昼夜で姿をかえていることなどのアイディアが盗まれたとしてディズニーを訴えた。
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『ファインディング・ニモ』
本物と見紛う3DCG映像で高い評価を得たディズニー・ピクサー共同製作『ファインディング・ニモ』(2003)は、フランスの児童文学作家であるフランク・レ・カルヴェツにより訴えられた。
だが、のちにカルヴェツの絵本こそが『ファインディング・ニモ』から着想を得ていたことが明らかになった。
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『パージ』
現在5作目にあたる『フォーエバー・パージ』が公開中の『パージ』シリーズも、著作権侵害による訴訟で4年間争った。
脚本家であるダグラス・ジョーダン=べネルは、2013年公開の『パージ』の内容が、ユナイテッド・タレント・エージェンシーに提出した『Sttler's Day』という脚本と同じだと主張し、ユニバーサルを訴えた。
『パージ』の訴訟が他と異なるのは、ジョーダン=ベネルだけでなく、エージェンシーとUCLAの映画学部教授であるリチャード・ウォルターも証人として名前を連ねていることだ。
ウォルター教授は、『Settler's Day』と『パージ』の脚本を読み比べた上で「『パージ』と『Settler's Day』の酷似性は疑いようもなく、『Setller's Day』失くして『パージ』が作られるのは不可能とも言えるだろう」と言い切っている。
だが、ジョーダン=ベネルが映画化の中止を求めているのではなく金銭を要求していたことと、『パージ』の脚本家であるジェームズ・デモナコがいちはやくアイディアを思いついたことを示唆するデータを提示できたことで、両者は和解した。
ここで紹介したのは一部でしかないが、これだけでも映画が著作権侵害で訴えられることが珍しくないのは理解してもらえただろう。
そして、『トップガン マーヴェリック』の訴訟問題が、他とは異なるケースだということも……。
ヨナイの妻と息子には、やり手の著作権弁護士のマーク・トブロフがついたそうだ。どのような戦いが繰り広げられるかはわからないが、上映停止なんてことにならないことを祈る。
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