【Penが選んだ、今月の音楽】
『スペル 31』
キューバをルーツにもつ双子姉妹。もうそれだけでインパクト大なのだが、さらに唯一無二の音楽性をもつとなると無敵としか言いようがない。そう考えると、現在の音楽シーンにおいてイベイーほどユニークなグループはなかなか見当たらない。2014年にメジャーデビューを果たしたリサ=カインデ・ディアスとナオミ・ディアスの二人組は、すでに『イベイー』『アッシュ』という2枚の傑作アルバムを発表しているが、さらにディープな世界観を伴った5年ぶりの3作目がこの『スペル 31』である。
彼女たちの最大の持ち味は、最先端のアブストラクトなビートとプリミティヴなアフロ・キューバンのテイストを融合させた音楽性。バタ・ドラムというキューバの太鼓が刻むリズムに乗ってヨルバの神を称える呪術的な「Sangoma」から、一気にイベイー・ワールドへ引き込まれていく。とにかく鮮烈でどこか不思議なコーラスワークは圧倒的な存在感だが、そこにラップが乗っかってきたり、強烈な電子音が鳴り響いたりする瞬間は、とにかくスリリングで片時も聴き流せない。おまけに、グラミーにノミネートされたジョルジャ・スミスや、トリニダード・トバゴ出身の新星バーウィンといった話題のアーティストがフィーチャーされているのも抜かりない。とにかく半歩未来に進んだ音世界は圧巻だ。
なおかつ、イベイーの音楽は非常にメッセージ性が高いことでも知られている。過去にも彼女たちのルーツや家族といったパーソナルな事象から、ジェンダーや人種差別のような社会問題までをテーマにしてきたが、今作では運命や調和といった観念的なキーワードがちりばめられ、聴く者にじわじわと刺激を与えてくれるのだ。ただ、けっして難解でもなく、重厚過ぎず、ポップ性もしっかりと持ち合わせている。聴けば聴くほど不思議で魅力的なデュオなのだ。
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※この記事はPen 2022年7月号より再編集した記事です。