かつての日本酒の世界ではありえなかった新機軸が、愛好家を騒がせている。それが、日本酒蔵のスピリッツやウイスキー業界への参入だ。いままでも酒粕を使った粕取り焼酎や日本酒がベースのリキュールなど、日本酒づくりの延長で他の酒を手がける日本酒蔵は少なくなかった。しかし、昨今は日本の蒸留酒人気に触発されるように、単独のブランドとしてこれらをつくる日本酒蔵が増えている。
1.希少な薬草や柑橘の個性が表現され、上質でナチュラルな飲み心地
まずは、「風の森」で知られる油長酒造の「橘花キッカ ジン」を紹介したい。地元の奈良は漢方薬伝来の地として歴史があり、希少な薬草が採れる。その特性を活かそうと、薬用酒が原点のジンを製造した。柑橘系の爽やかな香りと軽快な酸味があり、花のような可憐なニュアンスも心地いい。
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2.日本酒の原料と地元の風土を活かした、米感たっぷりの唯一無二のスピリッツ
コロナ禍の影響で、日本酒とともに需要が低下した酒米を農家のために活用するべく、「南部美人」が開発した酒米が原料の「南部美人クラフトウォッカ」も特筆したい。ウオツカづくりで外せない白樺の活性炭は、地元の白樺林から採ったもの。穀物の甘い香りと米の旨味が際立つ一本だ。
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3.世界が憧れるウイスキーを目指す、多大な可能性を秘めたシングルモルト
大手蔵の「黄桜」は、世界が認めるウイスキーを目指し、「丹波シングルモルト 1st edition」を発売した。ドライフルーツを思わせる甘い香りや余韻に残る穏やかな樽香、芯を感じるドライなタッチが鮮やかで印象的である。
今月の選酒人●山内聖子
呑む文筆家・唎酒師。日本酒歴は18年以上。日々呑んで全国の酒蔵や酒場を取材し、雑誌『dancyu』や『散歩の達人』など数々の媒体で執筆。著書に『蔵を継ぐ』(双葉文庫)、『いつも、日本酒のことばかり。』(イースト・プレス)。
※この記事はPen 2022年7月号より再編集した記事です。