MOODMANと申します。今回はちょっと遠出をして群馬県の南東部へ。桐生市周辺を小旅行気分でフィールドワークしてまいりました。
10:00AM
北千住で、伊勢崎線「特急りょうもう」に乗り換えて、群馬県に入ります。10年ほど前、仕事の関係でちょくちょく利用していた特急りょうもうですが、フィールドワークとなると景色が少し違って見えてきます。
桐生まで約1時間半。これから伺う予定のレコード屋さんの詳細をチェックしたところ、どのお店もオープンは午後かなり遅め…。このまま桐生に入っても、4時間ぐらい空白の時間が生まれそうです。であれば、そのまま電車の旅を続けてみよう。相老駅で下車し、以前から気になっていた「わたらせ渓谷鐵道」に乗り継ぐことにしました。
0:30PM 神戸駅 列車レストラン・清流
わたらせ渓谷鐵道(通称「わ鐵」)は、群馬県桐生市と栃木県日光市足尾町を結ぶローカル線です。車窓から差し込む柔らかい日差し。渓谷の景色を楽しみながら、渡良瀬川に沿って山間を進むこと約45分、神戸駅に到着しました。神戸と書いて「ごうど」と読みます。わたらせ渓谷鐵道のちょうど中間地点ぐらいでしょうか。本日はここで折り返すことにしました。
のどかな駅です。2番ホームの奥に、廃車になった東武鉄道日光線の1720型デラックス・ロマンスカー「けごん」が停まっており、車両がそのまま食事処「列車のレストラン清流」として営業しています。桐生へ戻る列車が来るまで約30分あるので、ランチをいただくことにします。
おすすめのメニューは「やまと豚弁当」のようです。食券を購入して、ロマンスカーのゆったりとした席で待つこと約10分、厨房から声がかかりました。豚ロースの焼き肉とお味噌汁。地の醤油を使った甘めのタレが特徴的です。おまけで手ぬぐいがついてくるし、なかなかお得です。わ鐡のキャラクター「わっしー」がかわいい。
1720型デラックス・ロマンスカーには現役時、ジュークボックスのついたサロンルームが設置されていたそうです。このゆったりとした車内で、どんな音楽が流れていたのでしょうか。優雅な時代です。今回は弁当をがっつり食べてしまいましたが、山菜の天ぷらなど単品を頼んでビールを一杯…というスタイルでも良かったかも。食後のお茶を飲んでいたら、列車が到着しました。再び、わたらせ渓谷鐵道に乗り込んで桐生に戻ります。
1:00PM 水沼駅 水沼駅温泉センター
桐生に戻る途中、花輪駅で下車して話題の「丸美屋自販機コーナー」に立ち寄ることも考えたのですが、以前、こちらのコラムでも書かせていただきましたが、どうも私は自販機コーナーとの相性が悪いので今回はスルー。代わりに少し先の水沼駅で下車しました。
水沼駅には温泉があります。というよりも、2番線ホームがそのまま温泉になっています。次の列車が来るまで1時間あるし、ゆっくりとサウナにでも。エントランスで何者かの視線を感じ振り返ると、2匹の河童がつぶらな瞳でこちらをじっと見つめています。なぜ河童がこんなところに。その疑問をあおるように、小さいスピーカーからピンクレディーの「UFO」が流れてきました。
館内のBGMは一貫して、70-80年代の歌謡曲です。竹内まりやさんの「不思議なピーチパイ」を聞きながら脱衣し、洗い場に向かうと、内風呂の中央にもエントランスと同じ河童が仁王立ちしています。ちなみにこの銅像は、漫画家・牧野圭一さんの作品とのこと。日本橋、船橋、鎌倉、長野、青森、宮城、山口…など日本各地に河童のオブジェをドロップしているお方のようです。
調べてみたところ、水沼駅温泉センターが開業したのは平成元年。この地域(釜ヶ淵)に伝わる「河童伝説」をもとに、平成3年に「かっぱ風呂」と命名。翌年には「わたらせかっぱ王国」が建国され、河童連邦共和国主催の河童サミットが開催されています。河童にも色々なタイプがいるようですが、伝説によるとこの地域の河童は会席のお膳を貸してくれたり、優しく親切な河童とのこと。
…と、つい、河童にばかり気が取られてしまいましたが、温泉センター内にはアナログレコードが展示されていたり、昭和レトロなポスターが貼ってあったり、「静かなるドン」が全巻置いてあったり、電車待ちの時間潰しに事欠きません。風呂上がりの一杯に、コカコーラの瓶の自販機があるのもナイスでした。完全にリフレッシュして再び、わたらせ渓谷鐵道に乗り込みます。
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3:00PM 桐生駅 〜 ESSENTIAL RECORDS
予定通り午後3時に桐生駅に戻ってきました。本日のアナログ探索をスタートします。桐生にDJで呼んでいただいたのはかれこれ10年以上も前のこと。街の雰囲気も少し変わりました。曇天で蒸し暑い中、桐生駅の南口を出て、最初の目的地「ESSENTIAL RECORDS」に向かいます。徒歩15分ぐらいでしょうか。帰宅時間と被ったようで、駅に向かう学生さんに逆行してひたすら歩きます。
「ESSENTIAL RECORDS」は、2017年12月にオープンしたレコード店とのこと。品揃えはオールジャンル。新譜も旧譜もしっかりセレクトされた良盤が並んでいます。中央に構える引き出し式のレコード棚が、スタイリッシュかつ選びやすくて良い感じ。300円の特価コーナーまでセンスが良く、ジャズファンク、レゲエ、ハウス…などさまざまなジャンルから、LP3枚、12インチシングル8枚をピックアップさせていただきました。
4:00PM 武正米店
いったん桐生駅方面に戻りつつ、小腹が空いてきたので軽食ができるお店を探しますが、ちょうどランチタイムが終わった時間。困っていたところ、「お米屋さん+クリーニング屋さん+焼きそば屋さん」として有名な、武正米店が営業中であることがわかりました。
「焼きそば」のノボリが出ているので、遠目にもわかりやすいかと思います。暖簾をくぐると店内にはポツンとテーブルが一つ。その横で、マスターが新聞を読んでいらっしゃいました。お持ち帰りするお客さんも多いとのことですが、店内で食べさせていただくことに。
蒸したジャガイモに桜エビとネギを入れてソースで炒めた「子供洋食」も名物とのことですが、桐生発祥のポテト入り焼きそばを注文。トッピングは「たまご」にしてみました。注文すると厨房でサクッと作ってくれるスタイル。午後の時間が心地よくすぎていきます。
5:00PM LEVEL-5跡地 〜 INCEPTION RECORDS
夕方の光に変わっていく桐生の街を散歩します。本町通りを北上して、桐生駅の反対側(北口側)へ。見覚えがある街並みだったので調べたところ、1999年から2018年まで営業していたクラブ<LEVEL-5>の跡地と思しきビルに辿り着きました。
<LEVEL-5>に私が出演させていただいたのは2008年。高橋透氏、宇川直宏氏とタッグを組んだ「ゴッドファーザー」というパーティの10周年だったと思います。もう、14年近く前のこと。記憶も曖昧です。コロナもあってみなさま疎遠になってしまっていますが、お元気でしょうか。感慨深すぎて、写真を撮るのを忘れました。
その跡地から数分のところに「INCEPTION RECORDS」はありました。2010年から営業されているお店です。ウッディーな広い店内に、さまざまなジャンルからセレクトした新譜とハウスミュージックを中心とした中古レコードが並んでいます。とりあえず、中古コーナーを端から探ります。
<LEVEL-5>のことを思い出していたせいか、2000年代のハウスミュージックが目に止まります。2000年代というとDJ機材や音源がデジタルに移行する過渡期だったこともあり、私もまだ大量の12インチを抱えて、日本中をかけずりまわってDJをしていました。なので、所有しているレコードはボロボロ。その頃のアンセムがいくつか発見できたので、適価で買い直しさせていただきました。吟味しつつ、ハウスミュージックの12インチを11枚、LPを1枚購入。お店の外にベンチと灰皿があったので、店長さんの許可を得て一服。
桐生のラストにもう一軒、駅近くの「MONSTER KILLER RECORDS」にも…とお店を探したところ、GOOGLEが示す住所にお店は見当たらず。1Fのお店の女性に聞いてみたところ、休業されてしまったとのこと。残念。ちょうど、小雨が降ってきました。
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6:30PM 足利駅〜渡瀬橋
このままだとなんとなく消化不良で終わってしまいそうだったので、帰宅がてら足利にも立ち寄ってみることにしました。桐生駅から両毛線で約15分、足利駅に到着します。
なぜ足利なのか。それは「渡良瀬橋」があるからです。森高千里さん「渡良瀬橋」の冒頭のフレーズ「渡良瀬橋で見る夕日をあなたはとても好きだったわ」の世界を体験すべく、日が暮れようとする足利の街を足早に、渡良瀬橋へ向かいます。個人的には、松浦亜弥さんや、城之内早苗さんのバージョンもフェイバリット。
足利駅から歩くこと約10分、「渡良瀬橋の歌碑」に到着しました。歌碑の左隣のボタンを押すと「渡良瀬橋」がフルコーラス流れる仕組みになっているようですが、音が大きくてちょっと恥ずかしいという書き込みを読んでいたこともあり、ぐっと我慢。渡良瀬橋のたもとまで歩き、日が暮れる瞬間まで佇んでみました。曇っていたので夕日は見れませんでしたが、歌詞の世界観には浸れました。
「渡良瀬橋」は、森高さんが地図帳からこの土地を知り、実際に歩き、橋を渡り、夕日や街並みから感じたことを詞に綴った曲だそうです。歌詞に登場する「八雲神社」「公衆電話」なども回るべきですが、すっかり暗くなってしまったので断念。代わりに、足利にもレコードを取り扱っているお店が2軒あるようなので回ってみたところ、平日だったせいか早めに店を閉めてしまっていました。これまた残念。いつかまた訪れたいと思います。
7:30PM 足利市駅
さて、そろそろ帰宅の時間です。行きと同じ電車、東武伊勢崎線に乗るために川向こうの足利市駅まで歩いてみました。渡良瀬橋はクルマ専用の橋のため、ひとつ手前の中橋をとぼとぼ渡ります。
足利市駅に着くと、ちょっとしたサプライズがありました。改札手前のショーケースに、森高千里さんのサインが飾られていたのです。さらに、ホームに出ると、電車の到着を知らせるメロディーが「渡良瀬橋」。先ほど、日和って歌碑のボタンが押せなかったモヤモヤが、ホームで解消されました。ひとけのないホームで聞くとまた切ないですね。「渡良瀬橋」巡りをするときは、足利駅ではなく、足利市駅を起点にすると良いかもしれません。ではでは。
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桐生で出会ったレコード5選
■Sven Van Hees「tsunami(inside my soul)」
スローモーションというパーティを青山のマニアックラブで行っていた頃によくかけていた一枚を買い直しました。ベルギーのDJ/プロデューサースヴェン・ヴァン・ヒーズさんが2000年に発表した12インチ。スヴェン・ヴァン・ヒーズさんといえば、90年代半ばのダンスフロアを席巻していた<R&S Records>の傘下で、<Global Cuts>を運営していた人物。レイヴカルチャー派生の知的なダンストラックを放っていました。B2の曲名が「Too Many Captain Beefhearts」。洒落てます。
■House Conductor「Tonight I‘m going to love you」
ハウスミュージックのオリジネイターの一人であるパル・ジョイさんの1990年の作品。老舗<NU GROOVE>の弟分である<JAZZY RECORDS>の1枚目。Dトレイン、ピーチボーイズなどをサンプリングした都会的なトラック系ハウスです。こちらも所有しているレコードがボロボロなので買い直しました。当時、日本ではあまり流通していなかったレコードでしたが、最近やたらと見かけるのは、デッドストックか、誰かがブートで再発したのでしょうか。
■Guillaume & The Coutu Dumonts「Face A L’Eat」
2000年代半ば、ミニマルなテックハウスにトライバルなグルーヴを盛り込んでくムーブメントが起こりましたが、その中でも異質かつ緻密な作風で前端を切り開いていたのがギヨームさん。カナダ、モントリオールの出身。同郷のスター、アクフェンさんのレーベル<Musique Risquee>から、2007年に発表されたファーストアルバム。どことなくエキゾチックな香りが漂うその特徴はこのアルバム以降、より顕著になっていきます。このレコードもよくかけてました…。
■Frankie Valentine「Scrap Iron Rebel」
90年代前半から東京をはじめ世界各地を転々としながら良質なハウスミュージックを作ってきたフランキー・バレンタインさん。本作は爽やかなギターとエレピが漂うディープハウスで、B面のダブ・バージョンも秀逸。販売元である<avex usa>は2001年から約1年間という短い活動期間で、浜崎あゆみさんの12インチを9枚、BoAさんの12インチを1枚リリース。その後、なぜかまったく毛色の違うこのシングルをリリースして終了しています。
■SADE OF JOY「MUSIC OF EL TOPO」
ジャズサイケバンドShades of Joyのメンバーであるマーティン・フィエロさんが、アレハンドロ・ホドロフスキー監督の『El Topo』に影響を受けて制作した作品です。つまり、オリジナル・サウンドトラックとは別物ですが、なかなかグッド。すべてホドロフスキー氏が作曲しています。ちなみに来日時に座禅の会を催したホドルフスキーさんですが、そのドキュメンタリーフィルムで、ホドルフスキーさんの後ろで眠りこけそうになっているメガネは私です。