映画『破戒』のあらすじと見どころ。島崎藤村の名作小説を間宮祥太朗主演で60年ぶりに映画化

  • 文:上村真徹
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©全国水平社創立100周年記念映画製作委員会

文豪・島崎藤村の代表作を原作とし、今回で60年ぶり3度目の映画化となる『破戒』のあらすじと見どころを紹介する。

【あらすじ】父から強い戒めを受けた男が、誰にも言えない秘密に苦悩を深める

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同僚教師の銀之助(右)に支えられながらも、丑松(左)は出自を誰にも言えず悩み苦しむ。©全国水平社創立100周年記念映画製作委員会

1948年に木下恵介監督、1962年に市川崑監督と名だたる巨匠が映画化してきた島崎藤村の名作小説「破戒」。その60年ぶり3度目の映画化であり、若手俳優・間宮祥太朗を主演に迎えて描く『破戒』が劇場公開される。

被差別部落に生まれ、その出自を隠し通すよう亡き父から戒めを受けた瀬川丑松(間宮祥太朗)は、地元を離れて小学校の教員として奉職することに。教師として生徒に慕われ、同僚の銀之助(矢本悠馬)と親交を深めるが、出自を隠していることに悩み、また差別の現状を体験することで心を乱される。下宿先の士族出身の女性・志保(石井杏奈)との恋に心を焦がすが、学校で出自について疑われ始め、丑松の立場が危ういものになっていく。

そんな中、丑松は被差別部落出身の思想家・猪子蓮太郎(眞島秀和)に傾倒していく。思いがけず猪子と対面する機会を得るものの、猪子に対しても自分の出自を告白できない。だが、演説会での猪子の言葉に感銘を受け、また演説後に猪子が政敵の暴漢に襲われたことから、丑松はある決意を胸に抱いて教壇へと向かう。

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【キャスト&スタッフ】名だたる俳優たちが演じた難役に若手実力派・間宮祥太朗が挑戦

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丑松は自分と同じく被差別部落出身の思想家・猪子(左)に傾倒していく。©全国水平社創立100周年記念映画製作委員会

1948年版で池部良、1962年版で市川雷蔵が演じた主人公の瀬川丑松に扮するのは、映画『東京リベンジャーズ』やTVドラマ『ナンバMG5』など多彩な作品で活躍が目覚ましい間宮祥太朗。自らの出自と父から受けた強い戒めに苦悩する若者という難役に挑戦し、“明治に生きている男”を説得力十分に好演している。

丑松に恋心を寄せつつも思いを告げられない控えめな女性・志保を演じるのは、『心が叫びたがってるんだ。』や『砕け散るところを見せてあげる』で高い演技力を披露した石井杏奈。悩める丑松を支える親友・銀之助役には、近頃出演作のオファーが絶えない若手俳優・矢本悠馬。さらに、眞島秀和、高橋和也、竹中直人、本田博太郎、田中要次、石橋蓮司、大東駿介、小林綾子などベテランの名優たちが顔を揃え、物語を重厚に彩る。

監督は、椎名桔平主演の『発熱天使』やキネマ旬報「文化映画部門」ベストテン7位に選ばれた『みみをすます』の前田和男。脚本は『クライマーズ・ハイ』『孤高のメス』『ふしぎな岬の物語』で日本アカデミー賞優秀脚本賞ほか数々の受賞歴を誇る加藤正人と、『バトル・ロワイアルⅡ 鎮魂歌』で毎日映画コンクール脚本賞を受賞した木田紀生が担当。さらに東映太秦映画村のオープンセットを中心に撮影し、明治後期の時代を違和感なく再現している。

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【見どころ】明治と現代の橋渡しとなる間宮祥太朗の“時代を超越した”存在感

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「人間はみな等しく尊厳をもつものだ」という猪子の言葉を胸に刻み、丑松はある決意と共に教壇に立つ。©全国水平社創立100周年記念映画製作委員会

100年以上も前の小説を映画として現代に蘇らせるには、当時の光景や空気をリアルに再現しつつ、観客が物語や登場人物に共感できるよう現代的な息吹も感じさせる必要がある。この“時代の橋渡し”において重要な役割を果たしたのが、主人公の瀬川丑松に扮する間宮祥太朗だ。その眼光からは明治に生きている人間の説得力があり、クランクインで和装に身を包んだその姿を一目見たスタッフは「たたずまいはどこか神秘的で、その周りだけ時空を超えたような不思議な感覚を覚えた」という。

さらに前田和男監督が衝撃を受けたのは、苦悩と葛藤にまみれた丑松に間宮が深く静かに成りきり、信じられないほどの軽みと透明感を醸し出したこと。監督が「役者が演じている顔とは違う次元に行ってしまった」と証言するその姿は美しくもはかなく、観客の心に確かな印象を刻み込む。また、映画フィルムの現像で色の彩度を下げる「銀残し」(デジタル処理で再現)も、丑松の表情に深みを加える効果をもたらしている。

100年間という時代を超越したこだわりの映像と演技によって、明治に生きる男の苦悩と葛藤を肌で感じさせる──。「現代にも相通じる物語として届けたい」という作り手たちの思いがひしひしと伝わる、心に残る作品と言えよう。

『破戒』

監督/前田和男
出演/間宮祥太朗、石井杏奈ほか 2022年 日本映画
1時間59分 7月8日(金)丸の内TOEIほか全国ロードショー

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