90分間ワンショットで高級レストランの裏側を描く!映画『ボイリング・ポイント/沸騰』の見どころとあらすじ

  • 文:上村真徹
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© MMXX Ascendant Films Limited

ロンドンの人気高級レストランを舞台に、人生の崖っぷちに立つオーナーシェフの波乱に満ちた一夜を圧倒的な臨場感で描いた人間ドラマ『ボイリング・ポイント/沸騰』のあらすじと見どころを紹介する。

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【あらすじ】人生の崖っぷちに立つオーナーシェフは、一年で最も多忙な一夜を乗り越えられるか?

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クリスマス前の金曜日、レストランはたちまち満席となり、厨房に立つオーナーシェフのアンディに怒濤の勢いでオーダーが舞い込んでくる。© MMXX Ascendant Films Limited

新鋭フィリップ・バランティーニ監督が2019年に発表した短編映画を自ら長編化。全編ワンショットで圧倒的な臨場感を醸し出す演出が高く評価され、英国アカデミー賞で4部門にノミネートされた人間ドラマ『ボイリング・ポイント/沸騰』が劇場公開される。

一年で最もにぎわうクリスマス前の金曜日。ロンドンを代表する高級レストランのオーナーシェフであるアンディ(スティーヴン・グレアム)は、最近妻子と別居して心身共に疲れ切った状態だが、店には通常の日よりも予約がぎっしり入っていて休む暇はない。しかも開店準備に追われる中、衛生監視官が抜き打ち検査にやって来て、自らの不注意で店の安全評価を「5」から「3」に落とされてしまう。また、ライバルシェフのアリステア(ジェイソン・フレミング)が来店すると聞かされ、胸騒ぎを覚える。

それでもアンディは気を取り直し、18時に店をオープンさせる。店内はたちまち満席となり、厨房のシェフもフロアスタッフも大忙し。店内では次々とトラブルが続発し、スタッフたちは一触即発状態となっていく。そんな気まずい空気の中、アリステアがグルメ評論家のサラ(ルルド・フェイバース)を同伴して来店。そして、ある脅迫じみた取引をアンディに持ちかける。

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【キャスト&スタッフ】短編の監督&主演で長編映画化

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断りもなくグルメ評論家を連れて来店したライバルシェフのアリステア(中央)は、アンディに脅迫じみた取引を持ちかける。© MMXX Ascendant Films Limited

シェフとして12年間働いたという異色の経歴を持つフィリップ・バランティーニ監督は、イギリス国内のレストランでシェフやスタッフが日常的に受けている多大なストレスを伝えようと2019年に短編映画『Boiling Point』を発表した。忙しい厨房での感覚をリアルに再現するためにワンショットで撮影するという野心的な演出が高く評価され、長編映画化のオファーが殺到。今回も、ロンドンに実在するレストランを借り切って全編ワンショットによる撮影を行った。そこにレストラン内での複雑な人間関係や業界全体の根深い問題も盛り込み、見ごたえのある長編作へとスケールアップさせた。

主人公アンディを短編版から引き続き演じるのは、監督と20年来の親友でもある『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』のスティーヴン・グレアム。崖っぷちシェフの波乱の運命を、緊迫感と悲哀をこめて体現している。他にも、アンディを支える副料理長カーリー役に「SHERLOCK/シャーロック」のヴィネット・ロビンソン、ライバルシェフのアリステア役にジェイソン・フレミングら実力派俳優たちが加わり、即興演技を交えた迫真のアンサンブルは圧巻だ。

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【見どころ】90分間ワンショットで“狂乱の一夜”の渦中に巻き込まれる

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度重なるトラブルで一触即発状態に陥ったスタッフたちは、日頃の人間関係や仕事への不満を爆発させてしまう。© MMXX Ascendant Films Limited

本作のように全編ワンショットで織りなす映画といえば、これまでにもアルフレッド・ヒッチコック監督の傑作サスペンス『ロープ』や、アカデミー作品賞受賞作『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』などがある。しかし、それらが厳密には途中でカットした映像を巧みな編集でつなぎ合わせている“疑似ワンショット”なのに対して、本作は最初から最後まで一切編集していない正真正銘のワンショット(2日間で4度撮影し、3度目のワンショットを採用)。狭い店内をカメラが撮影に失敗しないよう動き回り、俳優たちも演技の失敗が許されないという緊張感が、ありとあらゆるトラブルが“一年で最も多忙な日”にまとめて起きる一触即発な空気へと昇華されている。

さらにこうしたワンショット撮影は、緊張感だけでなく圧倒的な臨場感も醸し出し、観客に自分もレストランで働く一員のような感覚にさせる。職場の複雑な人間関係が火種となって起きる衝突や、店内での度重なるトラブルで加速していくパニックなど、華やかな高級レストランの裏側で繰り広げられるストレスフルな内幕は実にスリリング。労働環境と人間関係についての示唆に富みながら、次第に追い詰められていく主人公アンディの精神状態に呼応して物語はヒートアップし、クライマックスの“沸騰点”へと突き進んでいく一級エンターテインメントに仕上がっている。

予測不能のストーリー展開でジェットコースターのようなスリルを堪能させ、飲食業界や社会に対する見方も変える──。あらゆる出来事や感情がこれ以上詰め込みようのないほど凝縮された、“奇跡の90分”が体感できる。

『ボイリング・ポイント/沸騰』

監督/フィリップ・バランティーニ
出演/スティーヴン・グレアム、ヴィネット・ロビンソンほか 2022年 イギリス映画
1時間35分 7月15日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開

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