今月のおすすめ映画①アニメーションだから描けた、祖国を逃れた青年の壮絶な人生
今年のアカデミー賞で国際長編映画賞、長編ドキュメンタリー賞、長編アニメーション賞にノミネートされた作品が公開される。アニメーションによるドキュメンタリーという異色作のタイトルは“FLEE=逃げる”。祖国アフガニスタンから逃げることで生き延びた主人公、アミンの言葉を失うほど過酷な人生を描いた作品だ。
父が当局に連行され、命がけで国を脱出してモスクワに渡ったアミンは、家族とも別れ、やがてデンマークへたどり着く。壮絶な旅を1本の映画として完成させたのは、彼の中学時代からの友人であり、ラジオドキュメンタリーを手がけてきたヨナス・ポヘール・ラスムセン監督だ。アミンが抱え続けてきた秘密を明かすと家族の安全を守れない可能性があるため、名前も仮名に。匿名性を保つためにもアニメーションという手法を採用するのは必然だった。監督は「アニメーションのお陰でアミンは自分の話をすることに抵抗がなくなりました」と語る。
それでもなお、アミンが過去を語る場面で使われている本人の声を聞くと、告白が彼にとってたやすいものではないことが伝わってくる。長期にわたるインタビューによって語られた、アミンの苛烈な経験とトラウマ。それらを忠実に再現するために、監督は場面によってアニメーションの表現方法を巧みに変え、時折古いニュース映像から探し出した実写を挿入することで、ノンフィクションとしての強度を高めた。同性愛者であるアミンの葛藤もすくい上げた監督は「過去やセクシュアリティも含め、自分は誰なのか。それを知ることができる場所を見つける、一人の人間の物語なのです」と語る。この作品で描かれた地獄のような現実は、図らずも2022年の世界に重なる。皮肉なことではあるが、安住の地への祈りを込めたこの映画が、いま観るべき1本であることは間違いない。
『FLEE フリー』
監督/ヨナス・ポヘール ・ラスムセン
2021年 デンマーク・スウェーデン・ノルウェー・フランス合作映画 1時間29分 6月10日より新宿バルト9ほかにて公開。
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。
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今月のおすすめ映画② メキシコの俊英が格差社会を表す、戦慄のディストピア・スリラー『ニューオーダー』
裕福な名士たちが集う、華やかな結婚パーティ。近くで行われていた貧富の差への抗議運動がエスカレートし、パーティ会場に暴徒がなだれ込む。略奪の先に待っていたのは、軍部の武力による鎮圧だった。監督は『或る終焉』『母という名の女』など、複雑な余韻を残す人間ドラマを撮ってきたミシェル・フランコ。これまでも人間の暗部と崩壊を見つめてきた俊英が、格差社会の行く末を映し出すかのような凄まじいディストピア・スリラーを完成させ、ベネチア国際映画祭銀獅子賞を受賞した。
『ニューオーダー』
監督/ミシェル・フランコ
出演/ネイアン・ゴンザレス・ノルビンド、ディエゴ・ボネータほか
2020年 メキシコ・フランス合作映画 1時間26分 6月4日より渋谷シアター・イメージフォーラムほかにて公開。
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。
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今月のおすすめ映画③あのヒーローがついに帰還!スカイアクションに胸が高鳴る
アメリカのエリートパイロット集団、トップガン。伝説のパイロットであるマーヴェリックが教官として呼び戻され、若い世代とともに新たなミッションに立ち向かう。トム・クルーズを世界的なスターへと押し上げた大ヒット作『トップガン』の待望の続編が、いよいよスクリーンに。トム・クルーズはCG合成を使わないことにこだわり、過酷な訓練を重ねた俳優陣が限界に挑んだ。時代を超えて語り継がれるヒーローの帰還と、没入感のあるダイナミックなスカイ・アクションに胸が高鳴る。
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『トップガン マーヴェリック』
監督/ジョセフ・コシンスキー
出演/トム・クルーズ、エド・ハリスほか 2022年 アメリカ映画 2時間11分 全国の劇場にて公開中。
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。
※この記事はPen 2022年7月号より再編集した記事です。